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ep5.
ep5. 『死と処女(おとめ)』 他人に理解されない種類の傷
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「あーし思うんだけど。人間って誰でもさ、最初から何でも上手く出来るコトの方が稀っしょ?」
それがどんなジャンルでも、と上野はやや声のトーンを落とした。
「まあ……それはそうだな」
俺は頷いた。
「だからメイクやファッションに疎い佐々木っちがイキナリ完璧にこなせるってことは難しいと思うし─────」
でもさ、そんな中で佐々木っちは佐々木っちなりに勇気出して頑張ったと思うのにさ、と上野は声を震わせた。
「でも彼女……あの時、エクステを付けた佐々木っちを見て『なにコレ?ズレてるしw』って廊下ですれ違いざまに呟いたのをさ、あーし聞いてたんだよね」
─────え?
こういうのってさ、一番傷付くじゃん?と上野は泣き出しそうな表情で小さく呟いた。
どういうことだ?
夢野がそんな事を言ったのか?
「彼女ってこの近辺じゃ絶対誰も持てないようなブランドの服や小物を好きなだけ使って沢山着こなしててさ。昔は都会の方でファッションモデルみたいな事してたっしょ?だから他人に対してもこのレベルで当たり前、みたいな意識があるのかもだけど」
彼女の環境が特殊なだけでさ、こんな田舎のフツーの一般人の感覚やレベルなんてたかが知れてるのに、と上野は続けた。
確かに。
なんとなくだが─────
夢野は自分の得意とするジャンル─────ファッションやメイクなんかに関してはこだわりが強いように感じられた。
何度注意されてもブランドの靴下を履くのを辞めなかったくらいだしな。
そのこだわりの強さが、他人へのジャッジとして向けられる場面があるとしたら─────
あまり考えたくはないが、上野の話していることはデタラメの作り話では無いように思えた。
「あーしもさ、メイク覚えたての頃─────小5の時なんだけどさ。お年玉で100均のコスメを一式揃えてメイクデビューした時にね」
同級生の意地悪な子に『何それ、バケモノの特殊メイクのつもり?』って言われてすっごい傷付いたコトあるし、と上野は何かを思い出しながら絞り出す。
「確かにアイラインもガタガタでマスカラも滲んで、悲惨な顔になってたのは認めるけどさ─────」
俺は黙って上野の次の言葉を待った。
「一生懸命やってるのを馬鹿にされて笑われるのがどんなに辛いかってあーし知ってるし、だから余計に彼女にムカついたし」
カーストトップの上野にもそんな時期があったのか。
俺は上野の長くて上を向いた睫毛を見ながらぼんやりと思った。
「彼女はさ、あーし達に対して『自分はイジメられてる』みたいな被害者意識持ってるのかもだけど」
実際は逆なんじゃない?と急に問いかけられた俺はドキリとした。
「逆って?」
俺は反射的に聞き返す。
「彼女の方こそあーし達を見下してるっしょ?『あなた達とは違う』みたいなオーラ常に出してるし」
自分は“フツー”になれないのに、内心では“フツー”なあーし達を馬鹿にしてるんじゃない?と上野は刺すような視線で俺を見た。
上野の言う“フツー”ってのは─────
[平凡]って意味だろうか?
それとも[平均的な]って意味?
とにかく、と上野は強い口調で話を続けた。
「前に廊下でさ、男子達が佐々木っちと水森っちを馬鹿にして笑ってたコトがあったっしょ?あの時は佐藤っちがキレてボコってくれたけど─────」
その男子達よりタチが悪い気がしたし。あーし的にはさ、と上野はそこで少し黙った。
もしかしたら夢野にはそこまでの意図はなかったのかもしれない。
だけど─────
だからこそ余計に俺はなんて返事をしていいかわからなかった。
それがどんなジャンルでも、と上野はやや声のトーンを落とした。
「まあ……それはそうだな」
俺は頷いた。
「だからメイクやファッションに疎い佐々木っちがイキナリ完璧にこなせるってことは難しいと思うし─────」
でもさ、そんな中で佐々木っちは佐々木っちなりに勇気出して頑張ったと思うのにさ、と上野は声を震わせた。
「でも彼女……あの時、エクステを付けた佐々木っちを見て『なにコレ?ズレてるしw』って廊下ですれ違いざまに呟いたのをさ、あーし聞いてたんだよね」
─────え?
こういうのってさ、一番傷付くじゃん?と上野は泣き出しそうな表情で小さく呟いた。
どういうことだ?
夢野がそんな事を言ったのか?
「彼女ってこの近辺じゃ絶対誰も持てないようなブランドの服や小物を好きなだけ使って沢山着こなしててさ。昔は都会の方でファッションモデルみたいな事してたっしょ?だから他人に対してもこのレベルで当たり前、みたいな意識があるのかもだけど」
彼女の環境が特殊なだけでさ、こんな田舎のフツーの一般人の感覚やレベルなんてたかが知れてるのに、と上野は続けた。
確かに。
なんとなくだが─────
夢野は自分の得意とするジャンル─────ファッションやメイクなんかに関してはこだわりが強いように感じられた。
何度注意されてもブランドの靴下を履くのを辞めなかったくらいだしな。
そのこだわりの強さが、他人へのジャッジとして向けられる場面があるとしたら─────
あまり考えたくはないが、上野の話していることはデタラメの作り話では無いように思えた。
「あーしもさ、メイク覚えたての頃─────小5の時なんだけどさ。お年玉で100均のコスメを一式揃えてメイクデビューした時にね」
同級生の意地悪な子に『何それ、バケモノの特殊メイクのつもり?』って言われてすっごい傷付いたコトあるし、と上野は何かを思い出しながら絞り出す。
「確かにアイラインもガタガタでマスカラも滲んで、悲惨な顔になってたのは認めるけどさ─────」
俺は黙って上野の次の言葉を待った。
「一生懸命やってるのを馬鹿にされて笑われるのがどんなに辛いかってあーし知ってるし、だから余計に彼女にムカついたし」
カーストトップの上野にもそんな時期があったのか。
俺は上野の長くて上を向いた睫毛を見ながらぼんやりと思った。
「彼女はさ、あーし達に対して『自分はイジメられてる』みたいな被害者意識持ってるのかもだけど」
実際は逆なんじゃない?と急に問いかけられた俺はドキリとした。
「逆って?」
俺は反射的に聞き返す。
「彼女の方こそあーし達を見下してるっしょ?『あなた達とは違う』みたいなオーラ常に出してるし」
自分は“フツー”になれないのに、内心では“フツー”なあーし達を馬鹿にしてるんじゃない?と上野は刺すような視線で俺を見た。
上野の言う“フツー”ってのは─────
[平凡]って意味だろうか?
それとも[平均的な]って意味?
とにかく、と上野は強い口調で話を続けた。
「前に廊下でさ、男子達が佐々木っちと水森っちを馬鹿にして笑ってたコトがあったっしょ?あの時は佐藤っちがキレてボコってくれたけど─────」
その男子達よりタチが悪い気がしたし。あーし的にはさ、と上野はそこで少し黙った。
もしかしたら夢野にはそこまでの意図はなかったのかもしれない。
だけど─────
だからこそ余計に俺はなんて返事をしていいかわからなかった。
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