384 / 1,060
ep5.
ep5. 『死と処女(おとめ)』 迷いの森の少女
しおりを挟む
その日の昼食は味がしなかった。
いつもと変わり映えしない俺のローコスト自炊弁当だが─────
いよいよ食材のストックも調理する気力も無くなって来たのでヤケクソで生うどんをニ玉、卵と一緒にお好みソースで炒めて上に刻んだパセリをトッピングし……家にあった惣菜の空容器にぶっ込んで輪ゴムで止めた状態でレジ袋に詰めて持参していた。(流石に米も欲しいので、塩むすびをラップに包んだ物を追加した)
うどんは一玉が19円(税抜き)なのでボリュームの割にはコスパは良いのだが─────
いろんなことが頭をグルグルと廻り、とても飯を食うどころではなかった。
「わぁ!今日の佐藤君のお弁当、縁日で売ってるヤツみたいですごくいいね!」
夢野はいつものようにはしゃいでみせる。
だが。
どこかそれは空元気のように思えた。
一昨日の出来事がまるで無かったかのように、俺と夢野は振る舞っていた。
そうするしか無かったんだよな。多分お互いにさ。
「2パックあるんだ。よかったら一個やるよ」
食欲が無かった俺は、レジ袋からパックを取り出し夢野に渡した。
「え!?いいの?うれしー!」
じゃああたしからもこれ、と言いながら夢野がラップに包まれた物を俺によこしてくる。
焼き色の付いた三角形のもの。
それはホットサンドという物らしかった。
「ハムとチーズの味と、ハムエッグの味と二種類あるんだ」
それは見るからにオシャレそうな上に美味そうな食べ物に思えた。人気のカフェとかにありそうな感じだ。
「へぇ、凝ってるんだなあ」
俺はそう絞り出すのが精一杯だった。
普通の状態の時に食えば絶対に美味いんだろうな、と思いながら俺はそれを眺めた。
「それがね、すっごく簡単に出来ちゃう上にコスパもいいんだよ」
スーパーの特売の食パン(一斤65円税抜き)で作ってるからね、と夢野はいつものように解説する。
「やっぱり流石だな、夢野は」
上の空だった俺は適当に相槌を打った。
どうしよう。
もう俺はどう夢野に接したらいいか判らなくなっていた。
佐々木から聞いたこと─────
これにはなんの物的証拠も無い。
夢野がやったという確証なんて何処にもないからな。
だけど。
俺はあの時どうしてだか─────咄嗟に否定出来なかったんだ。
理由はわからない。
だけど。
結局のところ、この一連の出来事は夢野と岬京矢、この二人だけで起こしたものであって─────
俺はただの部外者、傍観者に過ぎないんだ。
当事者じゃない。
俺に何かをどうこうする権利も無ければ─────義務もないんだ。
夢野は俺の作った焼うどんを食べている。
うん、美味しいよ!と笑顔を見せる夢野の姿はどこかぎこちなく感じた。
俺の前じゃ無理して愛想笑いなんてする必要ねぇんだ。
コイツはいつもこうやって生きてきたんだろうな。
都会とこっちを行き来して、キッズモデルの仕事もしていたという夢野。
沢山の大人や、離れてしまった父親の間で生きてきて葛藤も軋轢もあったんだろう。
大切な友達に避けられて─────でも、自分ではどうしようもなくて。
本人なりに必死で“空気を読んで”笑顔を振りまいて、相手を不快にさせないように気を遣って来たんだろうな。
俺の心臓はキュッと痛んだ。
その結果が─────最悪の結末だったじゃねぇか。
夢野は夢野なりに必死でやってる。
ただそれが全部空回りだっただけだ。
いつもと変わり映えしない俺のローコスト自炊弁当だが─────
いよいよ食材のストックも調理する気力も無くなって来たのでヤケクソで生うどんをニ玉、卵と一緒にお好みソースで炒めて上に刻んだパセリをトッピングし……家にあった惣菜の空容器にぶっ込んで輪ゴムで止めた状態でレジ袋に詰めて持参していた。(流石に米も欲しいので、塩むすびをラップに包んだ物を追加した)
うどんは一玉が19円(税抜き)なのでボリュームの割にはコスパは良いのだが─────
いろんなことが頭をグルグルと廻り、とても飯を食うどころではなかった。
「わぁ!今日の佐藤君のお弁当、縁日で売ってるヤツみたいですごくいいね!」
夢野はいつものようにはしゃいでみせる。
だが。
どこかそれは空元気のように思えた。
一昨日の出来事がまるで無かったかのように、俺と夢野は振る舞っていた。
そうするしか無かったんだよな。多分お互いにさ。
「2パックあるんだ。よかったら一個やるよ」
食欲が無かった俺は、レジ袋からパックを取り出し夢野に渡した。
「え!?いいの?うれしー!」
じゃああたしからもこれ、と言いながら夢野がラップに包まれた物を俺によこしてくる。
焼き色の付いた三角形のもの。
それはホットサンドという物らしかった。
「ハムとチーズの味と、ハムエッグの味と二種類あるんだ」
それは見るからにオシャレそうな上に美味そうな食べ物に思えた。人気のカフェとかにありそうな感じだ。
「へぇ、凝ってるんだなあ」
俺はそう絞り出すのが精一杯だった。
普通の状態の時に食えば絶対に美味いんだろうな、と思いながら俺はそれを眺めた。
「それがね、すっごく簡単に出来ちゃう上にコスパもいいんだよ」
スーパーの特売の食パン(一斤65円税抜き)で作ってるからね、と夢野はいつものように解説する。
「やっぱり流石だな、夢野は」
上の空だった俺は適当に相槌を打った。
どうしよう。
もう俺はどう夢野に接したらいいか判らなくなっていた。
佐々木から聞いたこと─────
これにはなんの物的証拠も無い。
夢野がやったという確証なんて何処にもないからな。
だけど。
俺はあの時どうしてだか─────咄嗟に否定出来なかったんだ。
理由はわからない。
だけど。
結局のところ、この一連の出来事は夢野と岬京矢、この二人だけで起こしたものであって─────
俺はただの部外者、傍観者に過ぎないんだ。
当事者じゃない。
俺に何かをどうこうする権利も無ければ─────義務もないんだ。
夢野は俺の作った焼うどんを食べている。
うん、美味しいよ!と笑顔を見せる夢野の姿はどこかぎこちなく感じた。
俺の前じゃ無理して愛想笑いなんてする必要ねぇんだ。
コイツはいつもこうやって生きてきたんだろうな。
都会とこっちを行き来して、キッズモデルの仕事もしていたという夢野。
沢山の大人や、離れてしまった父親の間で生きてきて葛藤も軋轢もあったんだろう。
大切な友達に避けられて─────でも、自分ではどうしようもなくて。
本人なりに必死で“空気を読んで”笑顔を振りまいて、相手を不快にさせないように気を遣って来たんだろうな。
俺の心臓はキュッと痛んだ。
その結果が─────最悪の結末だったじゃねぇか。
夢野は夢野なりに必死でやってる。
ただそれが全部空回りだっただけだ。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる