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ep5.

ep5. 『死と処女(おとめ)』 女の子は砂糖菓子で出来てはいない

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その言葉の意味するところは明白だった。

夢野、と声を掛けようとして俺は踏みとどまった。

俺はどこまで踏み込んでいいんだろう。

最初は『クラス内のイジメ』的な問題だと思ってたんだ。

だけど。

蓋を開けてみれば全く違う事実が次々と浮かび上がって来た。

俺が黙ったのを察してか、夢野の方から口を開く。

「ゴメンね。佐藤君。せっかく来てくれたのに─────」

でも、わざとじゃないの、と夢野は呟くと虚な目で天井を見つめた。

『わざとじゃない』

夢野のその言葉は本心であるように思えた。

キッチンに準備されたピーチクリームパイ用の材料。

開けられた桃缶。

多分、俺と一緒のパイを焼くつもりなのは本当だったんだろう。

ああ、と俺は頷いた。

「俺が来る時間に合わせて……ちゃんと準備しててくれたもんな」

夢野は嘘はついてない。

だけど。

じゃあどうしてそんな怪我を、と言い掛けた俺より先に夢野が話し始める。

「……桃缶をね、缶切りで切ってたの」

100円ショップで買った桃缶。

それにはプルタブは付いていない。

昔ながらの缶切りで開けるしかないんだな。

「そしたら缶の切り口で指先を怪我しちゃって─────」

溢れてくる血を見てたらあたし、何が何だかわからなくなって、と夢野は悔しそうな表情を浮かべた。

俺は無言で頷いた。

俺の為に材料を準備しようとしてくれてたんだな。

だけど、指先の怪我が引き金になってある種のパニックになってしまった─────

そう言う事なんだろうか。

「佐藤君、いつも三食が節約メニューでしょう。甘いおやつやお菓子なんて食べる余裕ないんでしょう?だから……」

ストックの小麦粉と100円ショップの桃缶で出来るパイならコスパよくていいかなって思ったの、と夢野は呟いた。

そういう事だったのか。

俺の為に考えてくれてたって言うのか。

確かに、季節のフルーツを使うお菓子作りってのは材料費が割高になるだろう。果物って結構高いからな。

けど、100円ショップで一年中買える桃缶なら手軽に低コストでパイが焼けるって事なのか?

なんとも言えない気持ちになった俺はまた黙った。

夢野くるみ。

この子の本心が判らない。

こんな時、どうしたらいいんだ?

どこから夢野に訊ねるべきだろうか。

『夢野の彼氏って西中の岬って奴か?』

『なんで食券のことも彼氏のことも俺に黙ってた?』

『どうして水森に約束の金を返してやらないんだ?』

『約束の金を返さずにどうして自分の買いたい物を優先させた?』

『なんで校則違反のソックスを履く事を辞めなかった?』

『あのソックスを履かなければ三年に目を付けられなかったんじゃないのか?』

『水森が苦しんでいるのを知っててそうしてるのか?』

『テーブルの上のものは本当にそうなのか?』

『─────どうして死のうとした?』









いずれも訊きたい事柄だが、そのどれも口に出す事は出来なかった。

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