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ep5.
ep5. 『死と処女(おとめ)』 たいせつなともだち
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「くぅちゃんが死にたいって思ってたとしても─────あたしはくぅちゃんに生きてて欲しいし笑っていて欲しかった」
ただそれだけなの、と水森は空を見上げて呟いた。
「……小さい頃に子供服のカタログモデルをやってたっていうくぅちゃんはあたしの憧れだった。お母さんが諦めた夢─────どこか都会の匂いのするくぅちゃんに、あたしにはない何か特別なものを感じてたのかもしれない」
夢を諦めた水森の母ちゃん。
その夢の残り香のような─────都会の空気、フリルとレースのワンピースを身に纏った夢野くるみが水森にとって眩しい存在だっていうのはよく分かる。
「お母さんのアイドル時代の……ライブのDVDを初めて見せてもらった時、スポットライトを浴びてキラキラした衣装でステージに立つお母さんはまるでお姫様みたいだって思ったわ」
俺は水森の横顔をじっと見つめながら話を聞いていた。
「小さい頃はあたしも可愛いお姫様になりたかった……でも、それも小学校低学年までで─────」
クラスの男子達から“ブス”って呼ばれるようになってから……身の程を知ってそれは叶わないって悟ったの、と水森は呆れたように首をすくめてみせた。
“ブス”
“ダルシム”
“クラス内カースト最下位”
女子に対して使うにはあまりにも残酷な言葉じゃねぇか。
学校の廊下で聞こえた言葉がリフレインする。
繊細な水森の事だ。
今までも随分と傷付いて来たんだろう。
俺はなんと言っていいか分からず、ただ黙っていた。
「お姫様になれないあたしは、カッコいい王子様になりたいって思うようになったの。大切な誰かを守れるような強い存在になりたかった─────」
水森は声を詰まらせた。
「くうちゃんが100回死にたいって言ったとしても、あたしは真夜中でもどんな時でもくぅちゃんの助けになりたいって思ってた」
何故かはわからない。俺はその言葉にドキリとした。
「だけど、99回くぅちゃんの気持ちを受け止めても、1回でも取りこぼしたらくぅちゃんは死に向かってしまう─────」
死に向かう。
それは水森が背負うにはあまりにも重すぎるものであるように思えた。
「あの時……死のうとしたくぅちゃんを助けたのが『彼』だったって知って─────」
あたしのやってきたことは何もかも無意味だったんだって……現実を突き付けられた気がしたの、と水森は声を震わせた。
「『彼』さえいればあたしは要らなかった。『彼』の用意するプレゼントはいつも素敵なもので─────あたしなんかのちっぽけな贈り物なんてただのガラクタに過ぎなかったの」
「どんなに気持ちに寄り添おうとしても、どんなにくぅちゃんのことが好きだって気持ちがあったとしても─────」
くぅちゃんには何一つ届いていなかったの、と水森は呟き、ホームのコンクリートにはポタリと雨粒が落ちた。
生暖かい雨粒はコンクリートに降り注ぎ、乾いた割れ目に吸い込まれていく。
水森は眼鏡を外し、溢れる涙を抑えるように空を仰ぎ見た。
それは初めて見る水森の素顔だった。
「きれいなお姫様を救うのはカッコいい王子様。いつだってそう決まってるでしょう?」
「あたしは最初から、お姫様を救う王子様になんてなれなかったのに─────」
ただそれだけなの、と水森は空を見上げて呟いた。
「……小さい頃に子供服のカタログモデルをやってたっていうくぅちゃんはあたしの憧れだった。お母さんが諦めた夢─────どこか都会の匂いのするくぅちゃんに、あたしにはない何か特別なものを感じてたのかもしれない」
夢を諦めた水森の母ちゃん。
その夢の残り香のような─────都会の空気、フリルとレースのワンピースを身に纏った夢野くるみが水森にとって眩しい存在だっていうのはよく分かる。
「お母さんのアイドル時代の……ライブのDVDを初めて見せてもらった時、スポットライトを浴びてキラキラした衣装でステージに立つお母さんはまるでお姫様みたいだって思ったわ」
俺は水森の横顔をじっと見つめながら話を聞いていた。
「小さい頃はあたしも可愛いお姫様になりたかった……でも、それも小学校低学年までで─────」
クラスの男子達から“ブス”って呼ばれるようになってから……身の程を知ってそれは叶わないって悟ったの、と水森は呆れたように首をすくめてみせた。
“ブス”
“ダルシム”
“クラス内カースト最下位”
女子に対して使うにはあまりにも残酷な言葉じゃねぇか。
学校の廊下で聞こえた言葉がリフレインする。
繊細な水森の事だ。
今までも随分と傷付いて来たんだろう。
俺はなんと言っていいか分からず、ただ黙っていた。
「お姫様になれないあたしは、カッコいい王子様になりたいって思うようになったの。大切な誰かを守れるような強い存在になりたかった─────」
水森は声を詰まらせた。
「くうちゃんが100回死にたいって言ったとしても、あたしは真夜中でもどんな時でもくぅちゃんの助けになりたいって思ってた」
何故かはわからない。俺はその言葉にドキリとした。
「だけど、99回くぅちゃんの気持ちを受け止めても、1回でも取りこぼしたらくぅちゃんは死に向かってしまう─────」
死に向かう。
それは水森が背負うにはあまりにも重すぎるものであるように思えた。
「あの時……死のうとしたくぅちゃんを助けたのが『彼』だったって知って─────」
あたしのやってきたことは何もかも無意味だったんだって……現実を突き付けられた気がしたの、と水森は声を震わせた。
「『彼』さえいればあたしは要らなかった。『彼』の用意するプレゼントはいつも素敵なもので─────あたしなんかのちっぽけな贈り物なんてただのガラクタに過ぎなかったの」
「どんなに気持ちに寄り添おうとしても、どんなにくぅちゃんのことが好きだって気持ちがあったとしても─────」
くぅちゃんには何一つ届いていなかったの、と水森は呟き、ホームのコンクリートにはポタリと雨粒が落ちた。
生暖かい雨粒はコンクリートに降り注ぎ、乾いた割れ目に吸い込まれていく。
水森は眼鏡を外し、溢れる涙を抑えるように空を仰ぎ見た。
それは初めて見る水森の素顔だった。
「きれいなお姫様を救うのはカッコいい王子様。いつだってそう決まってるでしょう?」
「あたしは最初から、お姫様を救う王子様になんてなれなかったのに─────」
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