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ep5.
ep5. 『死と処女(おとめ)』 祈りを込めた魔法
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「ねぇ……佐藤君は早く大人になりたいって思う?」
唐突な水森の問いかけに一瞬、俺は固まる。
大人?
「あたしね、早く大人になりたい。今のあたしは無力過ぎて─────」
何も出来ることがないの、と水森は吐き出すように呟いた。
「どうしてそう思うんだ?」
俺は反射的に水森に聞き返す。
俺だってそうだ。
無力で、何もできない自分。
何も持っていない自分。
そんな自分が嫌になる。
水森もそうだって言うんだろうか。
「……さっき言った通り、あたしは特別な“何か”なんて持ってないし、─────」
気の利いた言葉も知らない。それどころか人並みのお金すら持ってないの、と水森は目を伏せた。
俺だってそうだ。
俺だって何も持ってない。
水森も、俺と同じような孤独や無力感を抱えてるって言うことなのか?
「くぅちゃんが死にたいって言うときに……いつもあたしは何もできなくて、ただずっと黙って話を聞いてた」
全部聞き終わって、くぅちゃんの気持ちが落ち着くこともあったから─────
「だから、あたしに出来る事はなんでもやろうって思ってたの。くぅちゃんの支えになれるなら……」
それがあたしの役割だって思ってたのね、と水森はやや自嘲気味に微笑んだ。
俺は黙って思考を巡らせた。
日常的に……一回二回でなく、もっと多く─────
夢野くるみは死にたがっていたのか?
「子どもっぽい趣味なんだけど……あたしね、小さくてキラキラしたものを集めるのが好きだったの」
お金がないから……ちっぽけで安いものしか買えないんだけどね、と言いながら水森は鞄から出したスマホの画面を開く。
画面に表示された写真は、ファンタジー映画のワンシーンのようなカットに思えた。
アンティーク風の小さな飾り棚にガラスの小瓶が並べられている。
こじんまりとした瓶の大群はひとつずつが不思議な輝きを放っていた。
「へぇ、これ、お前の部屋なのか?」
オシャレなディスプレイだな、と俺が言うと水森は少し照れたように俯いた。
「これね、全部一個100円以下なのよ。飾り棚は小学校の図工の時間に作った物だし」
「え!?100円!?図工の時間!?」
驚いた俺はもう一度画面を凝視しする。
色とりどりの宝石が小瓶の中に散りばめられ、魔法がかけられたように煌めいている。
一つ1000円くらいしそうな印象だったが─────
「マジでか?!」
驚いた俺に説明するように水森はスマホの画像を次々と表示させる。
「叔母さんが時々お小遣いをくれてた頃はね、よく100円ショップに行ってたの。そこでコルクの蓋付きのガラス瓶を買って─────」
手芸コーナーで色んなビーズを買ったりして中に詰め替えてたの、と水森は画像を指で指し示す。
そうか、100円ショップか。
俺もよく行くからな。わかるぜ。貧乏な俺には生命線みたいな店だ。
「大きい瓶は一個100円だけど、小さめの瓶は2本や3本で100円だから、買ったビーズを小分けに出来るの」
水森はそう言って少し嬉しそうな表情を浮かべた。
なるほどそうか。
つまり、100円で2~3本入りの小瓶を買い、もう100円でビーズを買う。
ビーズを瓶に小分けすると一本あたりの瓶が100円以下になるって訳か。
「へぇ、考えたなぁ水森」
これなら少ない小遣いでキラキラした可愛いものをコレクション出来るって寸法なんだな。
水森はコクンと頷いた。
「一回の買い物で2~3本の小瓶が出来るでしょう?だから、いつもコレをくぅちゃんにプレゼントしてたの」
お揃いの魔法の小瓶だよって……と、水森は少し俯いてスマホを握りしめた。
「くぅちゃんが喜んでくれるかなって……少しでも楽しい気持ちになってくれたらいいなって思ってずっとそうしてたの」
お金のないあたしに出来る事ってそれくらいしか思い浮かばなかったから、と水森は小さく呟いた。
「小さい瓶には手芸コーナーのビーズや水晶のさざれ石とか……それからカー用品コーナーにある灰皿用の消臭ビーズを入れてみたりもしたわ」
水森がスマホに画像を表示させる。
「え!?灰皿に入れるあのツブツブみたいなヤツ?サイダーとかの匂いの?」
画像の中のオシャレな“魔法の小瓶”はとてもそんな風に見えなくて思わず笑ってしまう。
「めっちゃ面白いじゃん水森!」
水森なりに100円ショップで買える魔法っぽいものを模索してたって訳なのか。
「他には、製菓コーナーのアラザンを入れてみたりとか……あとは、中くらいの瓶にはこんぺいとうやゼリービーンズを入れてみたりもしたわ」
なるほどなあ。
クソ田舎のクソみたいなエリアの100円ショップで、低予算で『映える』魔法のアイテムか。
水森の写真の撮り方も上手いんだろうが、瓶に詰められた色とりどりの飴や菓子類は外国の風景みたいだった。
100円で出来る贈り物。
それが水森から夢野への[まごころ]だったんだろうか。
まるでそれは─────祈りが込められた魔法のように俺には思えたんだ。
唐突な水森の問いかけに一瞬、俺は固まる。
大人?
「あたしね、早く大人になりたい。今のあたしは無力過ぎて─────」
何も出来ることがないの、と水森は吐き出すように呟いた。
「どうしてそう思うんだ?」
俺は反射的に水森に聞き返す。
俺だってそうだ。
無力で、何もできない自分。
何も持っていない自分。
そんな自分が嫌になる。
水森もそうだって言うんだろうか。
「……さっき言った通り、あたしは特別な“何か”なんて持ってないし、─────」
気の利いた言葉も知らない。それどころか人並みのお金すら持ってないの、と水森は目を伏せた。
俺だってそうだ。
俺だって何も持ってない。
水森も、俺と同じような孤独や無力感を抱えてるって言うことなのか?
「くぅちゃんが死にたいって言うときに……いつもあたしは何もできなくて、ただずっと黙って話を聞いてた」
全部聞き終わって、くぅちゃんの気持ちが落ち着くこともあったから─────
「だから、あたしに出来る事はなんでもやろうって思ってたの。くぅちゃんの支えになれるなら……」
それがあたしの役割だって思ってたのね、と水森はやや自嘲気味に微笑んだ。
俺は黙って思考を巡らせた。
日常的に……一回二回でなく、もっと多く─────
夢野くるみは死にたがっていたのか?
「子どもっぽい趣味なんだけど……あたしね、小さくてキラキラしたものを集めるのが好きだったの」
お金がないから……ちっぽけで安いものしか買えないんだけどね、と言いながら水森は鞄から出したスマホの画面を開く。
画面に表示された写真は、ファンタジー映画のワンシーンのようなカットに思えた。
アンティーク風の小さな飾り棚にガラスの小瓶が並べられている。
こじんまりとした瓶の大群はひとつずつが不思議な輝きを放っていた。
「へぇ、これ、お前の部屋なのか?」
オシャレなディスプレイだな、と俺が言うと水森は少し照れたように俯いた。
「これね、全部一個100円以下なのよ。飾り棚は小学校の図工の時間に作った物だし」
「え!?100円!?図工の時間!?」
驚いた俺はもう一度画面を凝視しする。
色とりどりの宝石が小瓶の中に散りばめられ、魔法がかけられたように煌めいている。
一つ1000円くらいしそうな印象だったが─────
「マジでか?!」
驚いた俺に説明するように水森はスマホの画像を次々と表示させる。
「叔母さんが時々お小遣いをくれてた頃はね、よく100円ショップに行ってたの。そこでコルクの蓋付きのガラス瓶を買って─────」
手芸コーナーで色んなビーズを買ったりして中に詰め替えてたの、と水森は画像を指で指し示す。
そうか、100円ショップか。
俺もよく行くからな。わかるぜ。貧乏な俺には生命線みたいな店だ。
「大きい瓶は一個100円だけど、小さめの瓶は2本や3本で100円だから、買ったビーズを小分けに出来るの」
水森はそう言って少し嬉しそうな表情を浮かべた。
なるほどそうか。
つまり、100円で2~3本入りの小瓶を買い、もう100円でビーズを買う。
ビーズを瓶に小分けすると一本あたりの瓶が100円以下になるって訳か。
「へぇ、考えたなぁ水森」
これなら少ない小遣いでキラキラした可愛いものをコレクション出来るって寸法なんだな。
水森はコクンと頷いた。
「一回の買い物で2~3本の小瓶が出来るでしょう?だから、いつもコレをくぅちゃんにプレゼントしてたの」
お揃いの魔法の小瓶だよって……と、水森は少し俯いてスマホを握りしめた。
「くぅちゃんが喜んでくれるかなって……少しでも楽しい気持ちになってくれたらいいなって思ってずっとそうしてたの」
お金のないあたしに出来る事ってそれくらいしか思い浮かばなかったから、と水森は小さく呟いた。
「小さい瓶には手芸コーナーのビーズや水晶のさざれ石とか……それからカー用品コーナーにある灰皿用の消臭ビーズを入れてみたりもしたわ」
水森がスマホに画像を表示させる。
「え!?灰皿に入れるあのツブツブみたいなヤツ?サイダーとかの匂いの?」
画像の中のオシャレな“魔法の小瓶”はとてもそんな風に見えなくて思わず笑ってしまう。
「めっちゃ面白いじゃん水森!」
水森なりに100円ショップで買える魔法っぽいものを模索してたって訳なのか。
「他には、製菓コーナーのアラザンを入れてみたりとか……あとは、中くらいの瓶にはこんぺいとうやゼリービーンズを入れてみたりもしたわ」
なるほどなあ。
クソ田舎のクソみたいなエリアの100円ショップで、低予算で『映える』魔法のアイテムか。
水森の写真の撮り方も上手いんだろうが、瓶に詰められた色とりどりの飴や菓子類は外国の風景みたいだった。
100円で出来る贈り物。
それが水森から夢野への[まごころ]だったんだろうか。
まるでそれは─────祈りが込められた魔法のように俺には思えたんだ。
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