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ep5.

ep5. 『死と処女(おとめ)』 一番ほしかったもの

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水森は手にしていた本からしおりを抜き取り、それを眺めた。

「これね、お母さんが作ってくれたの。古いカレンダーを切り抜いて─────」

水森の手に握られた一枚のしおり

そこには押し花に加工された四葉のクローバーが貼り付けられていた。

周囲には切り抜かれた色紙で作られた花びらとハートが舞っている。

レベルが高いとは決して言えない、どこか不器用な手作りの栞。

「お母さんは『いつもお金無くてゴメンね』って済まなさそうにこれを渡して来てくれたの。だけど……」

あたしにとっては世界一の最高の誕生日プレゼントなんだ、と水森は小さく微笑んだ。

「工作の材料すら買うお金も無くて……去年のカレンダーの8月の青空写真を切り抜いて青色の紙を、4月の桜の風景の写真を切り抜いてピンクの紙をそれぞれ加工してくれて─────」

おばあちゃんが寝た隙を見計らって四葉のクローバーを空き地で探してくれてたんだって、と言う水森の話を聞いてなんだか俺まで泣きそうになった。

その生き方すらも不器用な水森の母ちゃん。

金も無く、時間も無く介護に追われて孤立無援の日々の中でなんとか娘に誕生日プレゼントを用意しようとしてくれたんだな。

俺はこんなにも想いが詰まった贈り物を見たことがない。

「……水森の母ちゃんは本当にお前のことを想ってくれてるんだな」

最高のプレゼントじゃねぇか、と俺は心の底から思ったままを言った。

「俺は水森が羨ましいぜ。こんなにも優しい母ちゃんがそばに居てくれるなんてさ─────」

母ちゃんが家に居てくれるだけでさ、多分一億くらいの価値はあるんじゃねぇか。

いや、もっとか。

もしも百億貰えるか母ちゃんが家に帰って来るかって選べるんなら、俺は絶対に母ちゃんを選ぶだろう。

きっと水森も同じじゃねぇのか。

俺にはそう思えたんだ。

そういう意味では水森と俺は同類なのかもしれない。

「……ありがとう。あたしもそう思ってるわ」

そう言って水森は栞を本に戻した。

「……あたしね、誕生日だからって何かの品物が欲しかった訳じゃないの。ただこうして─────」

祝って貰えたらそれだけで良かったの、と水森は遠くの景色を眺めるような表情を浮かべた。

そうか。

そうだよな。

誕生日プレゼントが貰えなかったとか、そういうことじゃないんだ。

手作りの栞とか、原っぱの四葉のクローバーでも押し花でもいい。回転寿司のガチャの景品でもなんでもいいんだ。

ただ『おめでとう』って祝って貰いたかっただけなんだな、水森は。

夢野に誕生日って日を“認識すらされてない”。

そのことが悲しかったんだな。







ただそれだけだったんだ。

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