[200万PV達成]それを捨てるなんてとんでもない!〜童貞を捨てる度に過去に戻されてしまう件〜おまけに相手の記憶も都合よく消えてる!?

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ep5.

ep5. 『死と処女(おとめ)』 スカートと胸ポケットの中

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少しの間沈黙が続き、躊躇ってはいたが思い切って俺は疑問を水森に投げかけてみる。

「……なあ、前にさ、授業中に上野からなんか投げられて泣いてなかったか?」

あれって何があったんか気になってたんだけど、と俺はなるべく慎重に訊ねた。

「ああ……あれね」

水森はスカートのポケットに手を入れると生徒手帳を取り出した。

手帳の中から折り畳まれた紙片が出てくる。

水森は無言で俺に手渡してきた。

紙片を広げてみるとそこにはサインペンで書かれた『水森っちハピバ♡』というカラフルな文字が踊っていた。

ハピバ?

誕生日って事なのか?

「え?これって……?」

「学校ですぐ泣く子って小学校の時から居たでしょ?あたし、ああいうのってすごく苦手だったの」

本当だったら授業中に泣くなんてしたく無かったんだけど、涙が止まらなくて……と水森は少し恥ずかしそうにして笑った。

水森は制服の胸のポケットに手を突っ込み、何かを外す動作をすると手のひらを俺に見せた。

そこにあったのは、キラキラした小さな缶バッジだった。

缶バッジに描かれたキャラクターには見覚えがあった。

「あれ?コイツってプリアリの主人公だっけ?」

ドレスに身を包んだお姫様。

缶バッジの下部には有名回転寿司チェーン店のロゴが入っている。

もしかしてアレか?

食い終わった皿を入れたらガチャが回せるヤツの景品?

回転寿司店でコラボでもやってたのか?

水森は頷いた。

「そう。あの日、上野さんからこれを投げられて……」

急すぎてびっくりしたけど嬉しくて、と水森は再び缶バッジの安全ピンを外し、胸ポケットの内側に付けた。

さっき水森が屈んだときに胸ポケットの中に一瞬見えたもの……この缶バッジだったのか。

「お父さんに見つかったら取り上げられるかも、って思ったら怖くて……だから、胸ポケットの内側なら落としたり失くしたりしないかなって」

「そっか」

缶バッジって小泉がバカみたいに同じ絵柄の物をジャラジャラとカバンに付けまくってるのよく見てるからさ、てっきりそういう使い方をするものだと思ってたんだが─────

「上野さんとは小4の時にクラスが一緒だっただけで、その後特に親しい訳じゃ無かったんだけど……誕生日を覚えててくれてたんだって思ったら嬉しくて─────」

水森は胸ポケットを大切そうにそっと手のひらで撫でた。

なんだよ上野。メッチャいい奴じゃねぇか。

しかし同時にふと疑問も浮かんだ。

景品の缶バッジ貰って泣くか?

回転寿司のガチャだろ?

なんでそんなに感情が高まっちまった?

そんなに嬉しかったのか?

「上野からこういうの貰ってつい泣いちまうって事は……もしかして夢野からは何もリアクションが無かったってことなのか?」

水森はハッとしたように俺の顔を見る。

「……そう。どうしてそう思ったの?」

図星か。

夢野は最近唯ちゃんが冷たいだのと言っていたが、結局水森の誕生日には何も無かったってのはどういう事なんだろうか。

夢野自身は水森に対してそこまでの関心は無かったって事なのか?

水森は静かに首を振った。

「くぅちゃんは……あたしの誕生日を『知らない』だけなんだと思う」

「『知らない』?」

最近の女子ってそういうモンなのか?

よくわかんねぇな、女子って。

「でもさ、もしかして水森は夢野の誕生日とか知ってたりするのか?」

水森は小さく頷き、こう言った。

「くぅちゃんの誕生日にはプレゼントしたんだけどね─────」

多分ああいうのってくぅちゃんからしたら要らない物だったのかも、と水森は少し寂しそうな表情を見せた。

「よくわかんねぇんだけどさ、水森は夢野の誕生日を知ってるけど、夢野は水森の誕生日を知らないって事か?」

水森は少し俯き、こう答えた。

「ねえ、佐藤君は“プロフィール帳”ってわかる?」

唐突な質問だったが、聞いたことのある単語ではあった。

「小学校の時とかさ、よく女子が交換してた奴だろ?誕生日だの血液型だの好きなものだの書いたりするヤツ?」

俺には回って来たことは一回も無かったが、周囲の男子の中には書いてるヤツも居たのでなんとなくイメージは出来た。

「子供っぽいとは思うんだけど……くぅちゃんとあたし、こういうのいまだに好きで交換とかしてて」

そうか。プロフィール帳か。

「くぅちゃんに書いてもらったプロフィール帳を見て、あたしはくぅちゃんの誕生日を知ったけど……」

くぅちゃんはあたしの誕生日には特に関心が無かったんでしょうね、とだけ言うと水森はまた少し黙った。

一方通行のバースデイプレゼント。





それは水森にとっては大きな意味を持つものだったということはなんとなく想像できた。
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