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ep5.
ep5. 『死と処女(おとめ)』 破壊された人生の対価
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「なあ、それってつい最近の事じゃねぇのか?」
朝のHRで加賀がお前に何か言ってたよな?と俺は水森に訊ねた。
水森は無言で頷いた。
「いつもはこうじゃ無いの。お母さんもキチンとナプキンを用意してくれてるし、ここまで酷くは無いんだけど……」
お母さんのお姉さん、つまりあたしの叔母さんに当たる人がいてね。お父さんにバレないように少しずつお金をあたしたちにくれてたの。だけど、と水森はやや困ったような表情を浮かべた。
どうしたんだ?何かあったんだろうか。
「あたしはお小遣いを少しだけ自由に使えて、お母さんもあたしの為にナプキンをキチンと買って隠しておいてくれたわ。あ、隠すって言うのは─────お父さんは生理用品を[いやらしいもの]って考えてる節があって……前に一度『ナプキンを買うお金が欲しい]って言ったら怒鳴られて殴られたからなんだけど……」
「は!?」
生理用品が[いやらしいもの]!?
そんな筈ねぇだろ!?
しかも殴られた!?
いやいやいやいや………
「いや、どっちかっつぅとアレって医療品みたいな扱いじゃね?出血を止めるとか止血とかそんな感じだろ?」
俺が驚いて声を上げると水森は頷いた。
「世の男性みんなが佐藤君みたいにちゃんと理解してくれてたらいいんだけどね……」
まだそんな事言ってるようなのが居るのか?
しかもよりによって娘を殴るか?!
生理で大出血した上に殴られたという水森の身の上が本当に心配になってくる。
「大丈夫なのか、水森。しょっちゅう父ちゃんに殴られてんのか?」
まあ、時々、と水森は俺の問いかけに対し少し濁すように返事をした。
そうだったのか……
水森の苦難に満ちた日常生活の話を聞いて、俺は心底同情した。
「苦労してアレコレ悩んで……やっと婆ちゃんに小遣い貰ってナプキンを買いに行ったら3年にチクられるとかメッチャ大変じゃねぇか、水森」
「割とコンビニを利用してる生徒は多いみたいなのよね。3年も先生もスルーというかお目溢しみたいな部分もあって」
でも、あたしは見逃して貰えなかったみたい、と水森は自虐的に笑った。
「けどね、あたしが1年の時はこれでもうまく行ってて、特に困った事はなかったの。叔母さんが内緒で援助してくれてたしね。だけど─────
叔母さんが海外出張に行ったきり、現地のトラブルで帰って来られなくなっちゃって……」
いつも内緒で貰えてたお金が途絶えてしまったの、と水森はさらに話を続けた。
なるほど……
父ちゃんに経済DVをされても、今までは叔母さんから貰った金でやりくり出来てたのか。
「それで一気に手持ちの金が無くなって困窮してたって訳か……」
それなら合点が行く。
「叔母さんの帰りが1ヶ月、2ヶ月と……どんどん遅れるにつれて、あたしたち親子の手持ちのお金は無くなって行って……」
お小遣いも無い、ナプキンも買えない、土日の部活の時の為の食券も買えないって状況になっちゃって、と水森は声のトーンと視線を落とした。
「お母さんの通帳もカードもお父さんに取り上げられてるから、叔母さんに海外から送金してもらうことも出来なくって─────」
だからお母さん、アイドル時代に大物プロデューサーさんからプレゼントして貰ったっていう時計をリサイクルショップに売っちゃったの、と水森は悔しそうに小さく呟いた。
「は!?あの有名な大物プロデューサーから時計貰ってたのか!?しかも売っちまった!?」
国内では知らない奴は居ないほどの大物プロデューサーが直々に水森の母ちゃんにプレゼントしてた?!
水森はコクンと頷き、ため息をついた。
「“こっちで他のメンバーと待ってるからね”って……お母さんが研究生としてグループに加入するのを待っててくれるつもりでその時計をくれたみたいなの」
だけど、お母さんは『今はもうアイドルじゃないし、唯の生活の方が大事だからね』って─────
気付いた時にはもう二束三文で手放しちゃってたの、と水森は絶望に満ちた感情をその瞳に浮かべた。
「お母さんはいつもあたしに『部活も遊びも思いっきりやりなさい』って言ってくれるの。『お母さんは高校に行けなかったから、唯は悔いのない学校生活を送るのよ』って─────」
俺はただ黙って水森の話を聞いていた。
水森の母ちゃんも自分を犠牲にして子どもを守ろうとしたのか?
俺の母ちゃんみたいに。
「お母さんがあたしにくれた一万円はお母さんの思い出と夢を売り払ったお金だったの─────」
まさか、と俺はその時思った。
その一万って……
3年に取られた食券って、その金で買ったって事なのか?
朝のHRで加賀がお前に何か言ってたよな?と俺は水森に訊ねた。
水森は無言で頷いた。
「いつもはこうじゃ無いの。お母さんもキチンとナプキンを用意してくれてるし、ここまで酷くは無いんだけど……」
お母さんのお姉さん、つまりあたしの叔母さんに当たる人がいてね。お父さんにバレないように少しずつお金をあたしたちにくれてたの。だけど、と水森はやや困ったような表情を浮かべた。
どうしたんだ?何かあったんだろうか。
「あたしはお小遣いを少しだけ自由に使えて、お母さんもあたしの為にナプキンをキチンと買って隠しておいてくれたわ。あ、隠すって言うのは─────お父さんは生理用品を[いやらしいもの]って考えてる節があって……前に一度『ナプキンを買うお金が欲しい]って言ったら怒鳴られて殴られたからなんだけど……」
「は!?」
生理用品が[いやらしいもの]!?
そんな筈ねぇだろ!?
しかも殴られた!?
いやいやいやいや………
「いや、どっちかっつぅとアレって医療品みたいな扱いじゃね?出血を止めるとか止血とかそんな感じだろ?」
俺が驚いて声を上げると水森は頷いた。
「世の男性みんなが佐藤君みたいにちゃんと理解してくれてたらいいんだけどね……」
まだそんな事言ってるようなのが居るのか?
しかもよりによって娘を殴るか?!
生理で大出血した上に殴られたという水森の身の上が本当に心配になってくる。
「大丈夫なのか、水森。しょっちゅう父ちゃんに殴られてんのか?」
まあ、時々、と水森は俺の問いかけに対し少し濁すように返事をした。
そうだったのか……
水森の苦難に満ちた日常生活の話を聞いて、俺は心底同情した。
「苦労してアレコレ悩んで……やっと婆ちゃんに小遣い貰ってナプキンを買いに行ったら3年にチクられるとかメッチャ大変じゃねぇか、水森」
「割とコンビニを利用してる生徒は多いみたいなのよね。3年も先生もスルーというかお目溢しみたいな部分もあって」
でも、あたしは見逃して貰えなかったみたい、と水森は自虐的に笑った。
「けどね、あたしが1年の時はこれでもうまく行ってて、特に困った事はなかったの。叔母さんが内緒で援助してくれてたしね。だけど─────
叔母さんが海外出張に行ったきり、現地のトラブルで帰って来られなくなっちゃって……」
いつも内緒で貰えてたお金が途絶えてしまったの、と水森はさらに話を続けた。
なるほど……
父ちゃんに経済DVをされても、今までは叔母さんから貰った金でやりくり出来てたのか。
「それで一気に手持ちの金が無くなって困窮してたって訳か……」
それなら合点が行く。
「叔母さんの帰りが1ヶ月、2ヶ月と……どんどん遅れるにつれて、あたしたち親子の手持ちのお金は無くなって行って……」
お小遣いも無い、ナプキンも買えない、土日の部活の時の為の食券も買えないって状況になっちゃって、と水森は声のトーンと視線を落とした。
「お母さんの通帳もカードもお父さんに取り上げられてるから、叔母さんに海外から送金してもらうことも出来なくって─────」
だからお母さん、アイドル時代に大物プロデューサーさんからプレゼントして貰ったっていう時計をリサイクルショップに売っちゃったの、と水森は悔しそうに小さく呟いた。
「は!?あの有名な大物プロデューサーから時計貰ってたのか!?しかも売っちまった!?」
国内では知らない奴は居ないほどの大物プロデューサーが直々に水森の母ちゃんにプレゼントしてた?!
水森はコクンと頷き、ため息をついた。
「“こっちで他のメンバーと待ってるからね”って……お母さんが研究生としてグループに加入するのを待っててくれるつもりでその時計をくれたみたいなの」
だけど、お母さんは『今はもうアイドルじゃないし、唯の生活の方が大事だからね』って─────
気付いた時にはもう二束三文で手放しちゃってたの、と水森は絶望に満ちた感情をその瞳に浮かべた。
「お母さんはいつもあたしに『部活も遊びも思いっきりやりなさい』って言ってくれるの。『お母さんは高校に行けなかったから、唯は悔いのない学校生活を送るのよ』って─────」
俺はただ黙って水森の話を聞いていた。
水森の母ちゃんも自分を犠牲にして子どもを守ろうとしたのか?
俺の母ちゃんみたいに。
「お母さんがあたしにくれた一万円はお母さんの思い出と夢を売り払ったお金だったの─────」
まさか、と俺はその時思った。
その一万って……
3年に取られた食券って、その金で買ったって事なのか?
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