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ep5.
ep5. 『死と処女(おとめ)』 堕されなかった子どもたち
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「……ネットで調べたんだけど、こういうのって“ステルシング”って言うらしいわね。ま、今更それを知ってももう遅いんだけど」
ステルシング。
聞き慣れない言葉だった。
でも俺は何か底知れない恐ろしさを感じていた。
大きなチャンスと夢を掴んだ16歳の女の子の人生を破壊する行為。
妊娠を知った時の苦悩や絶望は察するに余り有る。
だけど。
その結果として水森が生まれたのだとしたら。
否定も肯定も出来ずに俺はただ黙って水森の言葉を待つしかなかった。
「……堕す選択肢もあったのに、お母さんはそれを拒んであたしを産んでくれて─────」
だけどそれと引き換えに何もかも失ったの。学校も退学、アイドルも引退して、と水森は絶望に満ちた表情を浮かべる。
16歳って今の俺たちと2つしか変わらない年齢だよな。
その年齢で赤ん坊を産んで、アイドルも学校も辞めて……
どんなに悩んで苦しんで迷っただろう。
「あたしのせいなの。あたしさえお腹の中に居なかったらお母さんは今頃、夢を叶えて都会で華やかな生活を送れていたかもしれないのに」
水森はスカートの裾をギュッと掴んだ。
俺は何も言えなかった。
そうかもしれないけど─────
でも、それは俺も同じだった。
俺さえ居なければ。
俺のせいで母ちゃんは─────
命と引き換えに俺を生かしてくれた母ちゃん。
夢と引き換えに娘を生んでくれた水森の母ちゃん。
なんだか、他人とは思えなかった。
だけど、こんな時になんて言うのが正しいんだろう。
俺の家の事情は特殊過ぎて、水森には到底話す事は出来ない。
俺は適切な言葉を見つけることが出来ず、ただ黙った。
「妊娠が判明した時、お祖父ちゃん……お母さんのお父さんはもうカンカンで─────」
お母さんは勘当されてお父さんの実家で同居することになったの、と水森は静かに言葉を続けた。
この話をするのには水森にとって膨大なエネルギーが必要なのかもしれない。
だけど全部吐き出して楽になって欲しい。
俺は静かに水森の横顔を眺め、ただ黙って耳を傾けた。
「孤立無援で何もかも失くしたお母さんを唯一可愛がってくれたのがお父さんのお母さん……あたしのおばあちゃんだったのね」
あたしを産んだ後、勉強するように勧めてくれて……お母さんは勉強して高卒認定試験に合格して、看護専門学校に進学することが出来たの。その間のあたしの子守りは全部おばあちゃんがやってくれてたらしいわ、と水森は少し嬉しそうに言葉を続けた。
「そっか、水森の婆ちゃんは優しいし母ちゃんは努力家なんだな」
俺は話の腰を折らないように注意しながら相槌を打つ。
水森は少し嬉しそうな表情を浮かべた後、こう続けた。
「おばあちゃんがあたしの子守りをしてくれて、お母さんは看護師としての第二の人生のスタートを切れたの。『かんごふさん』のお母さんは小さい頃のあたしの自慢だったわ」
「……そりゃ良かったなあ。いい家族だな」
そこまで言って俺はふと気付く。
過去形?
まだ何かあるのか?
この話の流れからするとこの後にもまだもう一波乱ありそうだが─────
というか、水森の背負っている物が大き過ぎる?
壮絶すぎる水森の母親と水森の人生に、気付けば俺は引き込まれていた。
ステルシング。
聞き慣れない言葉だった。
でも俺は何か底知れない恐ろしさを感じていた。
大きなチャンスと夢を掴んだ16歳の女の子の人生を破壊する行為。
妊娠を知った時の苦悩や絶望は察するに余り有る。
だけど。
その結果として水森が生まれたのだとしたら。
否定も肯定も出来ずに俺はただ黙って水森の言葉を待つしかなかった。
「……堕す選択肢もあったのに、お母さんはそれを拒んであたしを産んでくれて─────」
だけどそれと引き換えに何もかも失ったの。学校も退学、アイドルも引退して、と水森は絶望に満ちた表情を浮かべる。
16歳って今の俺たちと2つしか変わらない年齢だよな。
その年齢で赤ん坊を産んで、アイドルも学校も辞めて……
どんなに悩んで苦しんで迷っただろう。
「あたしのせいなの。あたしさえお腹の中に居なかったらお母さんは今頃、夢を叶えて都会で華やかな生活を送れていたかもしれないのに」
水森はスカートの裾をギュッと掴んだ。
俺は何も言えなかった。
そうかもしれないけど─────
でも、それは俺も同じだった。
俺さえ居なければ。
俺のせいで母ちゃんは─────
命と引き換えに俺を生かしてくれた母ちゃん。
夢と引き換えに娘を生んでくれた水森の母ちゃん。
なんだか、他人とは思えなかった。
だけど、こんな時になんて言うのが正しいんだろう。
俺の家の事情は特殊過ぎて、水森には到底話す事は出来ない。
俺は適切な言葉を見つけることが出来ず、ただ黙った。
「妊娠が判明した時、お祖父ちゃん……お母さんのお父さんはもうカンカンで─────」
お母さんは勘当されてお父さんの実家で同居することになったの、と水森は静かに言葉を続けた。
この話をするのには水森にとって膨大なエネルギーが必要なのかもしれない。
だけど全部吐き出して楽になって欲しい。
俺は静かに水森の横顔を眺め、ただ黙って耳を傾けた。
「孤立無援で何もかも失くしたお母さんを唯一可愛がってくれたのがお父さんのお母さん……あたしのおばあちゃんだったのね」
あたしを産んだ後、勉強するように勧めてくれて……お母さんは勉強して高卒認定試験に合格して、看護専門学校に進学することが出来たの。その間のあたしの子守りは全部おばあちゃんがやってくれてたらしいわ、と水森は少し嬉しそうに言葉を続けた。
「そっか、水森の婆ちゃんは優しいし母ちゃんは努力家なんだな」
俺は話の腰を折らないように注意しながら相槌を打つ。
水森は少し嬉しそうな表情を浮かべた後、こう続けた。
「おばあちゃんがあたしの子守りをしてくれて、お母さんは看護師としての第二の人生のスタートを切れたの。『かんごふさん』のお母さんは小さい頃のあたしの自慢だったわ」
「……そりゃ良かったなあ。いい家族だな」
そこまで言って俺はふと気付く。
過去形?
まだ何かあるのか?
この話の流れからするとこの後にもまだもう一波乱ありそうだが─────
というか、水森の背負っている物が大き過ぎる?
壮絶すぎる水森の母親と水森の人生に、気付けば俺は引き込まれていた。
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