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ep5.

ep5. 『死と処女(おとめ)』 童貞であることの意味

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俺は若干、戸惑いながら上野を見た。

その発言の真意はわからない。

だけど、コイツは俺の事をわりとガチで心配してくれてるんじゃないか。

そんな気がしたんだ。

上野は言葉遣いは悪いが、根は悪いヤツじゃないって思うんだよな。

「そりゃ、俺だってそうしたいって思ってるぜ?」

だけど現実はそうは行かないんだよな。

上手く行かない事ばっかりだ。

この前の花園リセの時だって─────

俺はふと前回の“文庫本”の内容をを思い出し、メチャクチャ嫌な気分になった。

アレは最悪だった。

自信も何もあったもんじゃねぇ。

プライドも何もかも粉々になったからな。

童貞を捨てるって作業には─────

いや、童貞じゃないにしても、ああいう場面は避けられないんだろうな。

俺があまりにも悲惨な表情をしていたからか、上野は心配そうに俺の顔を覗き込んだ。

「ゴメン。佐藤っち。余計な事言っちゃった?」

そうじゃねぇよ、と俺は首を振った。

「俺、やっぱ女子と付き合うとかどうこうなろうとかってさ、10年くらい早いのかもな」

俺の言葉に対し、上野は意外そうな声を上げた。

「は?何言ってんのよ佐藤っち?自信持ちなよ」

自信ってなんだよ。もう既に俺のプライドも何もかもズタズタなんだが。

上野はまたしても俺の肩をバンと叩く。

しかしさっきまでの力はなく、威力は半減している。

「やだ佐藤っち……マジでそんなに彼女のコト、本気で好きなの?」

そんなに思い悩むくらい?と上野はトーンを落とした声で俺に問いかける。

あ、俺ってマジで夢野の事がめっちゃ好きみたいに思われてる?

違う違う、と俺は首をブンブンと振った。

「夢野の事だけじゃなくてさ。ちょっと周囲でゴタゴタしてて」

女子全般がよくわかんねぇんだ、女心っていうかさ、と俺は作り笑いを浮かべた。

それは本当だった。

夢野くるみ。花園リセ。

それに、今まで関わってきた女子。

雪城マコトや諸星キクコも含まれるだろう。(あ、小泉はカウントに含まなくてもいいとしてだ)

俺には女子たちがどんな事を考えてるかなんてわかんねぇんだ。

ましてやセックスなんてとんでもないよな。

俺は結局、心のことも身体のこともきっと何も理解してないんだよ。

自分のことも、相手のこともな。

「そんなことないよ」

上野は静かに首を振った。

「佐藤っちはいつも他の人の事をちゃんと大切にしてくれてるじゃん」

自分自身のこともね、と上野は付け加えた。

「え?自分自身?」

意味が分からず俺は聞き返す。

そうだよ。自分のこともだよ、と上野は少し寂しそうに笑った。





「自分を大切にできない人は、他人も大切に出来ないからね」
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