[200万PV達成]それを捨てるなんてとんでもない！〜童貞を捨てる度に過去に戻されてしまう件〜おまけに相手の記憶も都合よく消えてる！？

ep5.

ep5. 『死と処女(おとめ)』 2〜30万の重み

ちょっと待ってくれ、と思わず俺は言った。

「ちょっとソーイングが得意な婆ちゃんかカーチャンが作ってくれたみたいなヤツがこんな値段するのか？！」

ブランド品っつーと、ヴィトンだグッチだシャネルだ、みたいなのしか思い浮かばない。

このブランドのサイトに載っている服はどれも素朴で可愛らしい手作り品のような印象で、どうしても法外な値段と結び付かなかった。

「夢野が前に着てた服……黒地でフワフワしてるワンピースだったからてっきりゴスロリってヤツだと思ったし……」

何より、スーパーで特売の品を1円でも安く買おうとする節約上手な夢野がそんな金額の物を身に付けているなんて到底思えなかった。

俺はブランドサイトの外国人モデルがフワフワした服を着ている画像を凝視する。

商品の価格帯もこのブランドも俺には全く理解できない未知の領域のモノに思えた。

「ゴスロリとかロリータとかとはまた違うみたいよね、これって」

カントリー系？森ガール系っていうのかな？超ガーリーなテイストだよね、と上野も感心した様子でサイトの服を眺める。

なるほどカントリーか。

「赤毛のアンをレベル99にしたみてぇな服だもんな……」

赤毛のアンのコスチュームに目一杯のフリルとリボンと刺繍をトッピングしたようなワンピース。

それは何十年も前の古い少女漫画に出てくる登場人物の服装のようにも思えた。

しかし、こんな服を着ている人物を俺は一度も周囲で見たことがない。

「このモデルが着てる服一式があるじゃない？この画像のやつ。トータルで同じの揃えたら2～30万とか軽く掛かるらしいよ」

は！？？

30万！？

俺はもう一度モデルの画像に目を落とす。

麦わら帽子を被り、果物の入ったカゴのバスケットを持っている金髪青眼の白人女性。

ウェーブのかかった長い髪はお人形のようでもある。

ワンピースの上にボタンが前開きのワンピースを更に羽織り、その上に更にカーディガンを着込んでいる。

くるぶしまである長いワンピースの裾からは更に別の白いアンダーウェアのスカートが見えている。

まるで平安時代の十二単衣か何かのようにヒラヒラとしたフリルのある衣類を何枚も重ねて着ているようなコーディネートだった。

「確かに、こんな価格帯の服を重装備で何枚も着込んでちゃそんな値段するよな……」

俺は頷いた。

いや。

だが待ってくれ。

俺らの住んでるこの場所はとんでもない田舎なんだ。

都会だとどうだか知らないが、2～30万なんてこの地方の[キチンとした大人]の手取り給料の2ヶ月分だ。

働いた事が無いとピンと来ないだろ？

でも生きるために必死でバイトばっか探してたからわかるんだ。

ずっと求職情報誌やらハローワークやらの求人には片っ端から目を通してたんだよ、俺。

大人がこの地域でバイトするとするだろ？

8時～17時、週5勤務でも月給に換算すると額面で15万以下なんだ。そっから税金だのなんだの引いてったら10万切るのもザラだからな。

地方国立大を出て就職したっていう役職付きの正社員男性の月給が手取りで16万なんだぜ？

工場勤務で管理職でも手取り22万だったりする。

仮に額面で30万程度あったとしても、だ。税金ってやつ？年金やら健康保険料やら福利厚生費やらなんやらを全体の1／3近くさっ引かれるんだぜ？あり得んだろ？

俺、大人がこんなに毎月カツアゲみてぇな目に遭ってるなんて今まで知らなかったんだ。

都会だともうちょい違うかも知れねぇし、田舎と大差ないかも知れねぇ。

だけど。

少なくともこの地域では、2～30万ってのはそういう重みのある金額なんだ。

この近辺でこんな途方もない金額の服を着れる人間なんて居やしねぇ。そんな気がする。

夢野くるみ。




俺はますますこの状況がわからなくなってしまった。