上 下
267 / 1,060
ep5.

ep5. 『死と処女(おとめ)』 知らない世界

しおりを挟む
俺と夢野は店内をグルグルと見て回る。

いつもよく来るスーパーだが、女子と一緒というだけで全く違った景色に見える。

夢野は手際良く商品を選んでカゴに入れていく。

流石だな。小泉も夢野を見習えばいいのに、と思いながら俺はその横で夢野をずっと見ていた。

家庭的な女子。

おまけに可愛くて女の子らしい女の子だ。

なんて理想的な女子なんだろう。

「あ、見てよ佐藤君!」

夢野が俺の腕を引っ張る。

俺はその視線の先を見る。

『小麦粉 98円(お一家族様2個限り)』というポップがそこにはあった。

「小麦粉か……」

料理スキルのない俺は“とにかく単品で炒めたりしてすぐ食えそうな物”中心に献立を考えていた。

もやし炒めには少しの肉や手持ちに野菜をトッピングする事もあるが、ベースは単品だ。

“小麦粉”というアイテムはどう使うべきか想像もつかないので今まで買ったことはなかった。

他の複数の食材と組み合わせる前提であろう小麦粉は俺にとって未知のアイテムだった。

確かに安いんだろうが、と言葉を濁す俺に夢野はニッコリと微笑む。

「佐藤君ち、お好みソースとマヨネーズは大量にストックがあるんでしょ?」

じゃあ……とやや得意そうに夢野が提案してきたのは意外なメニューだった。

「さっきの特売のキャベツと合わせてさ、お好み焼きってどう?」

お好み焼き。

夕飯の献立としては考えたこともないメニューだった。

冷凍庫にお肉が少し残ってるんだっけ?と夢野は続けて言う。

なるほど、お好み焼きか!

「お好み焼きだったらさ、お肉が無くてもキャベツと小麦粉とお好みソース・マヨネーズがあったら成立しない?」

夢野の発言は目から鱗だった。

「……そうか!考えた事もなかった…!」

比較的コスパ低くて出来るし、これだと満足感もあるよね、と夢野は笑ってみせた。

確かにその通りだった。

小麦粉はストックしておいて損はない食材なのか。

驚く俺を尻目に、夢野は俺の手を引っ張り、別のレーンへ移動していく。

「今日はコレもお買い得だよ!」

夢野が指差した先には『玉子1パック 58円 (500円以上お買い上げの方 お一家族様1パック限り)』のポップがあった。

「なるほど。小麦粉2つとキャベツとあと何かを買ったら500円以上の制限はクリアできそうだし……」

俺は手持ちの予算内で考えつつ、本日買い物出来る食材を整理する。

「あともうちょっと何か足りないね……」

夢野が俺のカゴを覗き込みながら少し考えこむ素振りをみせる。

「あ!それなら追加でコレはどう?」

夢野はまたしても俺の手を引き、別の売り場へ移動していく。

母親に連れられた幼児のようで少し気恥ずかしい。

連れられてやってきたチルドコーナーにも、黄色い特売のポップが踊っていた。

『本日限り! うどん そば 1玉 19円』

「今日、安いよ!いつもは28円だもん!」

目にした文字列に夢野ははしゃいでみせた。

なるほど。麺類か。

うどんやそばだったらスープが必要なのか?

俺は横にある1食分のスープ類を手に取る。

「普通におそばやうどんとして食べてもいいんだどさ、せっかくお好みソースがあるんだったら焼きそばや焼きうどんにするのはどうかな?」

夢野は何気ない風に呟く。

生のうどんやそばをお好みソースで炒める。

今まで考えた事もなかった調理法の提案に俺は衝撃を受けた。

うどんもそばも19円だ。

そうか。

家にあるお好みソースで炒めれば焼きそばや焼きうどんが完成する。

せっかく特売なんだからキャベツを入れたらよりそれっぽくなりそうだ。

肉を少し入れるだけでも映えてくる。

卵も入れると縁日の焼きそばみたいで豪華になるんじゃないか。

少ない予算でボリュームがある上に満足感もあるメニュー。

夢野が提案してくれなかったらこんなことは俺一人では思いつかなかっただろう。


 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...