247 / 1,060
ep5.
ep5 . 『蜜と罰』 ノブレス・オブリージュ
しおりを挟む
「なにか……事情がお有りなんでしょう?」
令嬢は少年の目をじっと見つめる。
目を逸らせない少年はその場でたじろいだ。
今すぐ童貞を捨てなきゃいけない事情ってなんだよ、と少年は自嘲気味に自問自答する。
“そういう事情”があったとして─────令嬢がそれを受け入れるつもりがあるとでも?
そんな馬鹿な、と少年は小さく首を振った。
あの、本当に何でもないんだ、と少年は令嬢に向かってぎこちない作り笑いを見せた。
「………何でもない訳、ないでしょう?」
令嬢は無垢な瞳で少年の顔を覗き込む。
その身体はピタリと密着している。
よしてくれ、と思わず喉から出かかった言葉を少年は飲み込む。
少年は自分自身の心身を抑え込むのに必死だった。
それを知ってか知らずか。
令嬢は身体を密着させ、少年の手をぎゅっと握った。
「何かお困りごとがお有りでしたら、遠慮なく仰ってください」
今まさに困ってるんだが、と少年は思ったが口には出せない。
若者の身体は硬直し、全く動けない状態になっていた。
抜き差しならない状況とはこのような場面で使う言葉なんだろうな、と少年はその身を持って実感していた。
抜き差しどころかこれから“どちらか”には自身の剣を突っ込まなくてはならないのに。
自宅に帰って仕切り直す?
家では女教師が床に伏せたまま少年の帰りを待っているだろう。
このままどちらかと“そういうこと”をしなくてはいけない。
これは少年の持つ呪いの特性上、避けられない事なのだ。
死に行く者を見殺しには出来ない。
それは呪いであると同時に枷でもあり、義務でもある。
その為には二人の乙女のうち、どちらかの純潔を差し出して貰う必要があった。
密着した状態で意図せず硬いものが令嬢の身体に触れる。
あっ、と小さく声を上げた令嬢は何もかも察し、顔を赤らめて俯いた。
終わった、と少年は悟った。
折角、一度戻った世界線で令嬢との理想的な距離感の心地よい関係を築いていたのに。
本当なら一週間に十日でも通い詰めたいところを週に一、二度に留めてまで我慢して繋ぎ止めていた関係性。
一瞬にしてそれは壊れてしまった。
情けなく、惨めな気持ちでいっぱいになった少年は項垂れていた。
人生で一番格好悪い瞬間ではなかっただろうか。
この令嬢にだけは自身の中の直接的な欲求や雄の部分は見せたくなかった。
聖女のようなこの貴婦人の前でだけは子どものように無邪気に振舞っていたかったのに。
抗えない身体の反応に戸惑う少年を令嬢はそっと抱き寄せ、その震える背中を白い両手でそっと撫でた。
令嬢は少年の目をじっと見つめる。
目を逸らせない少年はその場でたじろいだ。
今すぐ童貞を捨てなきゃいけない事情ってなんだよ、と少年は自嘲気味に自問自答する。
“そういう事情”があったとして─────令嬢がそれを受け入れるつもりがあるとでも?
そんな馬鹿な、と少年は小さく首を振った。
あの、本当に何でもないんだ、と少年は令嬢に向かってぎこちない作り笑いを見せた。
「………何でもない訳、ないでしょう?」
令嬢は無垢な瞳で少年の顔を覗き込む。
その身体はピタリと密着している。
よしてくれ、と思わず喉から出かかった言葉を少年は飲み込む。
少年は自分自身の心身を抑え込むのに必死だった。
それを知ってか知らずか。
令嬢は身体を密着させ、少年の手をぎゅっと握った。
「何かお困りごとがお有りでしたら、遠慮なく仰ってください」
今まさに困ってるんだが、と少年は思ったが口には出せない。
若者の身体は硬直し、全く動けない状態になっていた。
抜き差しならない状況とはこのような場面で使う言葉なんだろうな、と少年はその身を持って実感していた。
抜き差しどころかこれから“どちらか”には自身の剣を突っ込まなくてはならないのに。
自宅に帰って仕切り直す?
家では女教師が床に伏せたまま少年の帰りを待っているだろう。
このままどちらかと“そういうこと”をしなくてはいけない。
これは少年の持つ呪いの特性上、避けられない事なのだ。
死に行く者を見殺しには出来ない。
それは呪いであると同時に枷でもあり、義務でもある。
その為には二人の乙女のうち、どちらかの純潔を差し出して貰う必要があった。
密着した状態で意図せず硬いものが令嬢の身体に触れる。
あっ、と小さく声を上げた令嬢は何もかも察し、顔を赤らめて俯いた。
終わった、と少年は悟った。
折角、一度戻った世界線で令嬢との理想的な距離感の心地よい関係を築いていたのに。
本当なら一週間に十日でも通い詰めたいところを週に一、二度に留めてまで我慢して繋ぎ止めていた関係性。
一瞬にしてそれは壊れてしまった。
情けなく、惨めな気持ちでいっぱいになった少年は項垂れていた。
人生で一番格好悪い瞬間ではなかっただろうか。
この令嬢にだけは自身の中の直接的な欲求や雄の部分は見せたくなかった。
聖女のようなこの貴婦人の前でだけは子どものように無邪気に振舞っていたかったのに。
抗えない身体の反応に戸惑う少年を令嬢はそっと抱き寄せ、その震える背中を白い両手でそっと撫でた。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説




体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる