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ep5.
ep5 . 『蜜と罰』 ノブレス・オブリージュ
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「なにか……事情がお有りなんでしょう?」
令嬢は少年の目をじっと見つめる。
目を逸らせない少年はその場でたじろいだ。
今すぐ童貞を捨てなきゃいけない事情ってなんだよ、と少年は自嘲気味に自問自答する。
“そういう事情”があったとして─────令嬢がそれを受け入れるつもりがあるとでも?
そんな馬鹿な、と少年は小さく首を振った。
あの、本当に何でもないんだ、と少年は令嬢に向かってぎこちない作り笑いを見せた。
「………何でもない訳、ないでしょう?」
令嬢は無垢な瞳で少年の顔を覗き込む。
その身体はピタリと密着している。
よしてくれ、と思わず喉から出かかった言葉を少年は飲み込む。
少年は自分自身の心身を抑え込むのに必死だった。
それを知ってか知らずか。
令嬢は身体を密着させ、少年の手をぎゅっと握った。
「何かお困りごとがお有りでしたら、遠慮なく仰ってください」
今まさに困ってるんだが、と少年は思ったが口には出せない。
若者の身体は硬直し、全く動けない状態になっていた。
抜き差しならない状況とはこのような場面で使う言葉なんだろうな、と少年はその身を持って実感していた。
抜き差しどころかこれから“どちらか”には自身の剣を突っ込まなくてはならないのに。
自宅に帰って仕切り直す?
家では女教師が床に伏せたまま少年の帰りを待っているだろう。
このままどちらかと“そういうこと”をしなくてはいけない。
これは少年の持つ呪いの特性上、避けられない事なのだ。
死に行く者を見殺しには出来ない。
それは呪いであると同時に枷でもあり、義務でもある。
その為には二人の乙女のうち、どちらかの純潔を差し出して貰う必要があった。
密着した状態で意図せず硬いものが令嬢の身体に触れる。
あっ、と小さく声を上げた令嬢は何もかも察し、顔を赤らめて俯いた。
終わった、と少年は悟った。
折角、一度戻った世界線で令嬢との理想的な距離感の心地よい関係を築いていたのに。
本当なら一週間に十日でも通い詰めたいところを週に一、二度に留めてまで我慢して繋ぎ止めていた関係性。
一瞬にしてそれは壊れてしまった。
情けなく、惨めな気持ちでいっぱいになった少年は項垂れていた。
人生で一番格好悪い瞬間ではなかっただろうか。
この令嬢にだけは自身の中の直接的な欲求や雄の部分は見せたくなかった。
聖女のようなこの貴婦人の前でだけは子どものように無邪気に振舞っていたかったのに。
抗えない身体の反応に戸惑う少年を令嬢はそっと抱き寄せ、その震える背中を白い両手でそっと撫でた。
令嬢は少年の目をじっと見つめる。
目を逸らせない少年はその場でたじろいだ。
今すぐ童貞を捨てなきゃいけない事情ってなんだよ、と少年は自嘲気味に自問自答する。
“そういう事情”があったとして─────令嬢がそれを受け入れるつもりがあるとでも?
そんな馬鹿な、と少年は小さく首を振った。
あの、本当に何でもないんだ、と少年は令嬢に向かってぎこちない作り笑いを見せた。
「………何でもない訳、ないでしょう?」
令嬢は無垢な瞳で少年の顔を覗き込む。
その身体はピタリと密着している。
よしてくれ、と思わず喉から出かかった言葉を少年は飲み込む。
少年は自分自身の心身を抑え込むのに必死だった。
それを知ってか知らずか。
令嬢は身体を密着させ、少年の手をぎゅっと握った。
「何かお困りごとがお有りでしたら、遠慮なく仰ってください」
今まさに困ってるんだが、と少年は思ったが口には出せない。
若者の身体は硬直し、全く動けない状態になっていた。
抜き差しならない状況とはこのような場面で使う言葉なんだろうな、と少年はその身を持って実感していた。
抜き差しどころかこれから“どちらか”には自身の剣を突っ込まなくてはならないのに。
自宅に帰って仕切り直す?
家では女教師が床に伏せたまま少年の帰りを待っているだろう。
このままどちらかと“そういうこと”をしなくてはいけない。
これは少年の持つ呪いの特性上、避けられない事なのだ。
死に行く者を見殺しには出来ない。
それは呪いであると同時に枷でもあり、義務でもある。
その為には二人の乙女のうち、どちらかの純潔を差し出して貰う必要があった。
密着した状態で意図せず硬いものが令嬢の身体に触れる。
あっ、と小さく声を上げた令嬢は何もかも察し、顔を赤らめて俯いた。
終わった、と少年は悟った。
折角、一度戻った世界線で令嬢との理想的な距離感の心地よい関係を築いていたのに。
本当なら一週間に十日でも通い詰めたいところを週に一、二度に留めてまで我慢して繋ぎ止めていた関係性。
一瞬にしてそれは壊れてしまった。
情けなく、惨めな気持ちでいっぱいになった少年は項垂れていた。
人生で一番格好悪い瞬間ではなかっただろうか。
この令嬢にだけは自身の中の直接的な欲求や雄の部分は見せたくなかった。
聖女のようなこの貴婦人の前でだけは子どものように無邪気に振舞っていたかったのに。
抗えない身体の反応に戸惑う少年を令嬢はそっと抱き寄せ、その震える背中を白い両手でそっと撫でた。
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