183 / 1,060
ep.4.
ep4. 「暴かれた世界」 永遠の祝祭
しおりを挟む
中を見た俺は更に言葉を失った。
天井や壁、柱部分には蜘蛛の巣が張り巡らされ、床には土埃が蓄積されていた。
ここ最近、人の出入りがあったとは思えない廃墟。
埃っぽい空気を吸い込んだ俺と小泉は咳き込んでしまう。
開けた扉からバッタが中に飛び込んで来る。
自然と一体化し、今や動植物や昆虫がこの神社の主のようだった。
なんなんだここは。
どう見ても崩れかけたただの建物にしか見えなかった。
人が住んでいる気配なんて微塵も感じられない。
しかし、何かのヒントがあるのか?
手がかりが何かないか、俺と小泉はぐるりと周囲を見渡す。
木製の額に収められた図解と文章のようなものが目に入る。
劣化が進んで何が描かれているかはよく見えない。
俺は奥へと進んでいく。
床はギシギシと嫌な音を立てている。
床は特に劣化が激しいよう思えた。
『青龍神社』と書かれているのだろうか。
かつて祭りの際に使われたであろう提灯のようなものが床に転がっていた。
「なあ、ここって青龍神社って言うん?」
俺は小泉に質問する。
「そうだな。現在…いや、つい十数年前までは『清流神社』という名前で地元住民に親しまれていたらしいんだが」
太古の昔は“青龍神社“という名前だったらしい、と小泉は首を傾げる。
「ふーん。なんで改名したんだろうな」
正直なところ、俺は名前なんてどうも良かった。
それよりも、この神社と母親との関係が気になった。
「地図では”清流神社“での表記になってるし、鳥居に彫られていた文字もそうだった」
小泉は壁の上に飾られている木製の板を凝視している。
神社運営に当たっての寄贈者一覧だろうか?
村人の名前がズラズラと墨書きされている。
現代風に言うとクラファン?投げ銭的な感じなのかもしれない。
壁際に置かれた長机の上には獅子舞のような面が無造作に投げられていた。
かつて、この村が人で溢れていた時代は祭りが賑々しく開催されていたのだろう。
高齢化と過疎化が進み、村ごと消滅したなんて当時の村人からしたら考えられなかっただろうな、とぼんやりと思った。
娯楽なんてなかった時代の田舎の村のことだ。年に一度の祭りといえばとてつもないビッグイベントだったんだろうな。
なぜか、もう二度と人前でその役割を果たすことのないであろう獅子舞が急に哀れな存在に思えてくる。
かつてはコイツが祭りの象徴、主人公だったんだろう。
それが今じゃどうだ。
塗装はひび割れて剥がれ、色褪せて劣化して静かに朽ちて行くのを待っているだけのように感じられた。
お前も捨てられたんだな。可哀想に。
なんとなく親近感を覚えた俺は獅子舞に触れる。
視線を感じたような気がした俺は一瞬ビクリとしてしまう。
視線?
コイツが俺を見ている?そんな馬鹿な。
獅子舞を見つめた俺はなんとなく理解した。
ああ、コイツは打ち捨てられた訳じゃないんだな。
コイツの中で祭りはまだ終わっちゃいないんだよ。
今もなお、終わらない祝祭の中でずっと踊ってるんだ。
天井や壁、柱部分には蜘蛛の巣が張り巡らされ、床には土埃が蓄積されていた。
ここ最近、人の出入りがあったとは思えない廃墟。
埃っぽい空気を吸い込んだ俺と小泉は咳き込んでしまう。
開けた扉からバッタが中に飛び込んで来る。
自然と一体化し、今や動植物や昆虫がこの神社の主のようだった。
なんなんだここは。
どう見ても崩れかけたただの建物にしか見えなかった。
人が住んでいる気配なんて微塵も感じられない。
しかし、何かのヒントがあるのか?
手がかりが何かないか、俺と小泉はぐるりと周囲を見渡す。
木製の額に収められた図解と文章のようなものが目に入る。
劣化が進んで何が描かれているかはよく見えない。
俺は奥へと進んでいく。
床はギシギシと嫌な音を立てている。
床は特に劣化が激しいよう思えた。
『青龍神社』と書かれているのだろうか。
かつて祭りの際に使われたであろう提灯のようなものが床に転がっていた。
「なあ、ここって青龍神社って言うん?」
俺は小泉に質問する。
「そうだな。現在…いや、つい十数年前までは『清流神社』という名前で地元住民に親しまれていたらしいんだが」
太古の昔は“青龍神社“という名前だったらしい、と小泉は首を傾げる。
「ふーん。なんで改名したんだろうな」
正直なところ、俺は名前なんてどうも良かった。
それよりも、この神社と母親との関係が気になった。
「地図では”清流神社“での表記になってるし、鳥居に彫られていた文字もそうだった」
小泉は壁の上に飾られている木製の板を凝視している。
神社運営に当たっての寄贈者一覧だろうか?
村人の名前がズラズラと墨書きされている。
現代風に言うとクラファン?投げ銭的な感じなのかもしれない。
壁際に置かれた長机の上には獅子舞のような面が無造作に投げられていた。
かつて、この村が人で溢れていた時代は祭りが賑々しく開催されていたのだろう。
高齢化と過疎化が進み、村ごと消滅したなんて当時の村人からしたら考えられなかっただろうな、とぼんやりと思った。
娯楽なんてなかった時代の田舎の村のことだ。年に一度の祭りといえばとてつもないビッグイベントだったんだろうな。
なぜか、もう二度と人前でその役割を果たすことのないであろう獅子舞が急に哀れな存在に思えてくる。
かつてはコイツが祭りの象徴、主人公だったんだろう。
それが今じゃどうだ。
塗装はひび割れて剥がれ、色褪せて劣化して静かに朽ちて行くのを待っているだけのように感じられた。
お前も捨てられたんだな。可哀想に。
なんとなく親近感を覚えた俺は獅子舞に触れる。
視線を感じたような気がした俺は一瞬ビクリとしてしまう。
視線?
コイツが俺を見ている?そんな馬鹿な。
獅子舞を見つめた俺はなんとなく理解した。
ああ、コイツは打ち捨てられた訳じゃないんだな。
コイツの中で祭りはまだ終わっちゃいないんだよ。
今もなお、終わらない祝祭の中でずっと踊ってるんだ。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる