[200万PV達成]それを捨てるなんてとんでもない!〜童貞を捨てる度に過去に戻されてしまう件〜おまけに相手の記憶も都合よく消えてる!?

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ep2 .

ep2 . 『蜜と罰』 月明かりの硝子の破片と薔薇の花

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少年は令嬢の胸に顔を埋め、脱力した身体の余韻を噛み締めていた。

令嬢の唇に何度もその唇を重ねる。

このまま朝まで、いや一生ここでこうして令嬢と身体を重ね合っていたい気すらしていた。

令嬢は少年の頭を愛おしそうに何度も撫でた。

少年は戯れるように令嬢の細い身体に再び覆い被さる。

その両手が再び絡み合う。

真夜中、まだ夜明けまでは時間がある。

もう一度何もかも確かめ合いたい。

その陶酔がまだ続いている少年はふとシーツに視線を移す。

真っ白で滑らかなシルクのシーツに咲いた深紅の大きな花。

その花の正体に気付いた少年は瞬時に我に返った。

流れ出た鮮血。

令嬢の純潔が失われた証。

夢から覚めるように現実に引き戻されたのは少年だけだった。

瞬時にその身体が凍りつき、致死量の後悔が少年の全身を駆け巡る。

その身体中の血の気が引く。

令嬢は不思議そうな表情で少年を見つめる。

なんて事をしてしまったのだろう。

聖女のようなこの令嬢の純潔を汚してしまった。

なによりも誰よりも大切にしたかったのに。

不可逆的な行為。

少年は途端に何もかもが恐ろしくなった。

そして、あの陽だまりの中で二人で過ごした日々にはもう二度と戻れない事も同時に悟った。

自分が全てを壊してしまった事実に気付いた少年は狂いそうになる自身を止める術も知らなかった。

反射的にベッドから飛び出した少年は何かに躓き、派手な音を立てて転ぶ。

何かが壊れた音が聞こえた。

驚き駆け寄ろうとする令嬢を制し、少年は壊れたそれを凝視した。

青い月明かりに照らされて光を放っているのは割れた硝子の破片だった。

サイドテーブルに置かれたジャムの瓶。

少年はそれを割ってしまったのだった。

「まあ、お怪我はありませんでしたか?」

少年を気遣いながら令嬢は床に視線を落とした。

とろりとしたジャムは鋭い切り口の硝子の破片と共に床に飛散していた。

甘く蜜のようなジャム。

尖った硝子の破片。

月明かりの中のそれらはもう二度と元の形には戻らない。

まるで今夜の二人のようだった。

口にこそ出さないが、お互いがお互いの思考を感じ取っていた。

大変、と硝子の破片に触れようとした令嬢を少年が再び制止する。

「俺がやる。危ないし」

甘くとろけるジャム。

しかし、鋭い硝子の破片に混ざったそれは二度と口にすることは出来ない。

蜜のようなジャムに塗れた硝子に触れた少年はふとチクリとした痛みを感じた。

指先から出血していた。

指を舐め、令嬢が渡してくれたレースのハンカチの上に破片とジャムを注意深く移していく。

全て移し終えた少年はレースのハンカチを丸め、そっと上着のポケットに仕舞った。

身支度を整えた少年は少し笑った。

「供養してやらなきゃな、こいつを」

どうなさるんですの?と不思議そうな顔をしている令嬢に向かって少年は呟く。

「これ、川に流すのって環境破壊になるかな?」

硝子の破片。

川に流せば誰かが怪我をするだろうか。

令嬢は少年の頬にそっと右手で触れた。

指には石の付いた指輪が光っていた。

「この石、シーグラスで出来てるんですのよ」

「シーグラス?」

聞き慣れない言葉に少年は思わず聞き返す。

「川や海の硝子の破片は流れているうちに研ぎ澄まされて、こういう宝石が出来ますの」

意外だった。

御令嬢の指に光る指輪なんて高価な宝石だとばかり思っていた。

海で拾った硝子?

「海辺で拾った物を自分で指輪にしてみましたの」

どこか寂しげに令嬢は呟いた。

「いい事聞いた。ありがとう」

少年はまた少し笑った。

今夜の二人と同じ、割れた硝子の破片と甘いジャム。

レースのハンカチに載せて海に流せば、やがてこれらはいつか宝石になるのだろう。

今はまだ鋭い破片に傷付く事もあるかもしれない。

だが。

時間が経てばやがて美しい宝石になり、どこかの浜辺に打ち上げられるかもしれない。

少年は締め付けられそうになる胸を押さえるのに必死だった。

最後に令嬢の額にキスし、その身体を抱きしめた。

ああ、これだけで良かったんだ、と少年はその時初めて気付いた。

これだけで全てが満たされたのに。

これだけで幸せだったのに。

どこで間違ったんだろう。

こんなに大切な人なのに。

でも俺はどうすればいいのか何もわからなかったんだ。

少年は泣きそうになるのを堪え、令嬢に背中を向けた。

これは罰なんだろうな、と少年はぼんやりと考えた。

“無知である事に対する罰”

俺が全部悪いんだな、と少年は確信し目を伏せた。

「また来るからよ、ちょっとこいつの事預かっててくんね?」

少年は黒い子猫に視線を移した。

令嬢もその言葉の意味を理解した。

少年はもう二度とここへは来ない決意を固めていた。

「わたくし、馬鹿でしたわ……」

令嬢は少年の背中に抱きつき、唇を噛み締めた。

「わたくし、本当にあなたのことが好きでしたのよ……」

少年は黙ったまま言葉を返せずにいた。

「どうぞ、お幸せでね……」










真夜中の川面にキラキラと月の光が輝いていた。

レースのハンカチと硝子の破片、そして甘いジャムがゆっくりと川に映った青い月の中に沈んでいった。
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