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ep2 .
ep2 . 「訳有り令嬢と秘密の花園」 向き合う子宮
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俺は言葉を飲み込んだ。
避妊手術ってどうやるんだろう……
何かとても恐ろしい単語に思えた。
聖母のような貴婦人の口から出た言葉とは信じがたかった。
しかしそれは猫を飼うに当たっての飼い主の義務であるようにも思えた。
俺にも向き合う義務がある事柄。
逃げる事は出来ないだろう。
そう思った俺は意を決して花園リセに訊ねる。
「よく知らないんだけどさ、避妊手術ってどうやんの?」
それは……と彼女は言葉を詰まらせた。
俯いた彼女は膝の上のマサムネに視線を落とし、何かを思案するように沈黙する。
「その……申し上げにくいんですが……雌猫ちゃんの避妊手術は一般的に…」
彼女が躊躇いがちに言葉を発する。
端的に言うと卵巣と子宮を摘出することになりますわ、と。
花園リセは悲しそうにマサムネの頭を撫でた。
卵巣と子宮を摘出。
俺は心底後悔した。
花園リセに聞いてしまった事を、である。
なんて事を彼女に言わせてしまったのだろう。
聖母のような彼女には似つかわしくない概念と単語である。
俺が一人でググるなりなんなりすれば良かっただけの事なのだ。
花園リセに余計な負担を掛けさせてしまったのは本当に悔やむべき事実だった。
俺は彼女になんと答えていいか分からず沈黙した。
しかし、彼女にこれ以上余計な気を使わせてしまってはいけない。
俺は話題を変えることにした。
なあ、そうすぐに決断出来るような事でもないしまたゆっくり時間取って考えようぜ、と俺は努めて明るく提案した。
それもそうですわね、と彼女も同意し一旦はこの緊迫した空気から解放された。
「ごめんなさいね。急にこんな話をして驚かせてしまって」
彼女はどこか悲しそうに微笑んだ。
テーブルの上には梨が鎮座している。
「なあ、リセさんは梨は好きか?」
なんでもいいから話題を探していた俺は唐突に変な質問をしてしまう、
おいおいおい、幼稚園児の自己紹介コーナーか?
好きなくだものは?ももです。リンゴです。スイカです。ぶどうです。バナナです。みてぇなレベルじゃないか。
我ながら子どもじみた話題しか思い浮かばない自分が心底嫌になった。
上流階級の教養ある人間ならもっと気の利いたセリフや言葉が出てくるんだろうにな。
キョドっている俺を尻目に花園リセは鈴のような声で笑った。
「梨ですか?たった今、世界で一番好きな食べ物になりましたわ」
俺に気を遣ってくれているのだろう。
こういう心遣いや思いやりはまさに貴婦人で聖母そのものだな、と俺は確信した。
避妊手術ってどうやるんだろう……
何かとても恐ろしい単語に思えた。
聖母のような貴婦人の口から出た言葉とは信じがたかった。
しかしそれは猫を飼うに当たっての飼い主の義務であるようにも思えた。
俺にも向き合う義務がある事柄。
逃げる事は出来ないだろう。
そう思った俺は意を決して花園リセに訊ねる。
「よく知らないんだけどさ、避妊手術ってどうやんの?」
それは……と彼女は言葉を詰まらせた。
俯いた彼女は膝の上のマサムネに視線を落とし、何かを思案するように沈黙する。
「その……申し上げにくいんですが……雌猫ちゃんの避妊手術は一般的に…」
彼女が躊躇いがちに言葉を発する。
端的に言うと卵巣と子宮を摘出することになりますわ、と。
花園リセは悲しそうにマサムネの頭を撫でた。
卵巣と子宮を摘出。
俺は心底後悔した。
花園リセに聞いてしまった事を、である。
なんて事を彼女に言わせてしまったのだろう。
聖母のような彼女には似つかわしくない概念と単語である。
俺が一人でググるなりなんなりすれば良かっただけの事なのだ。
花園リセに余計な負担を掛けさせてしまったのは本当に悔やむべき事実だった。
俺は彼女になんと答えていいか分からず沈黙した。
しかし、彼女にこれ以上余計な気を使わせてしまってはいけない。
俺は話題を変えることにした。
なあ、そうすぐに決断出来るような事でもないしまたゆっくり時間取って考えようぜ、と俺は努めて明るく提案した。
それもそうですわね、と彼女も同意し一旦はこの緊迫した空気から解放された。
「ごめんなさいね。急にこんな話をして驚かせてしまって」
彼女はどこか悲しそうに微笑んだ。
テーブルの上には梨が鎮座している。
「なあ、リセさんは梨は好きか?」
なんでもいいから話題を探していた俺は唐突に変な質問をしてしまう、
おいおいおい、幼稚園児の自己紹介コーナーか?
好きなくだものは?ももです。リンゴです。スイカです。ぶどうです。バナナです。みてぇなレベルじゃないか。
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上流階級の教養ある人間ならもっと気の利いたセリフや言葉が出てくるんだろうにな。
キョドっている俺を尻目に花園リセは鈴のような声で笑った。
「梨ですか?たった今、世界で一番好きな食べ物になりましたわ」
俺に気を遣ってくれているのだろう。
こういう心遣いや思いやりはまさに貴婦人で聖母そのものだな、と俺は確信した。
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