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ep1.
ep1.「呪いの宣告」 知られたくない事実
しおりを挟む夏休み明けの二学期のスタート。俺は遅めの夏風邪に罹り、三日ほど学校を休んでいた。
親はいない。一人暮らしだ。薬もない。三日間ずっと布団の中で寝て過ごし、たまに水道水を飲んでいた。
とてもではないが買い出しに行けるような体力は残っていなかった。
三日目の夕方に来客があった。
「佐藤ってヤツの家はここでいいのか?」
不意に玄関から声がする。
身体を引き摺り見に行くと小学校高学年くらいの子どもが立っていた。
何か異様な雰囲気の子どもだった。男子のようだが巫女のような着物を着ている。
神社の神主とか宮司とか、神社に居る男って紫やら水色の袴のイメージだったが男子も赤い袴って履くんだろうか。
俺はぼんやりと考えた。きっちりと切り揃えられた黒髪は育ちの良さを感じさせた。
「……お前、誰?」
俺は立っているのがやっとだった。
「鏡花ねえさんに言われて来た。おれは甥だ」
子どもの話は要領を得なかった。
「……鏡花って誰?」
俺の話を聞かず、子どもはズカズカと家に上がり込む。
「誰って、小泉鏡花だよ。お前さ、自分の担任の先生の名前も覚えてないのか?」
子どもは手にしたビニール袋からスポーツドリンクを出し、俺に手渡した。
「生存確認だけしてくるように言われたから来ただけだ。残りは冷蔵庫に入れといてやる。」
じゃあな、と言い残すと子どもはめんどくさそうに帰っていった。
何日かぶりにまともな物を口に出来た。
冷えたスポーツドリンクを一気に飲むと少し身体が楽になった気がした。俺は敷きっぱなしの布団に倒れ込みそのまま少し眠った。
どれくらい時間が経ったろうか。辺りはすっかり暗くなっていた。
ぼんやりと目を開けると人の姿が目に飛び込んできた。
「……え?」
「目が覚めたか?」
俺の布団の横に何者かが座っている。俺の額の上には氷枕が乗せられていた。
「悪いが勝手に裏口から入らせて貰った。鍵も閉めないで無用心だな」
エンジ色のジャージ上下に化粧っけの無い顔。オシャレさの欠片もない眼鏡。無造作に結んだ長い黒い髪。
副担任の教師、小泉だった。
「……なんだ、センセェか」
「誰だと思ったんだ?」
「……別に」
ここ数ヶ月ほど家に帰っていない母親だと思った、とはとても言えなかった。
俺には父親は居ない。母親は家を出たきり殆ど帰ってこない。
実質一人暮らしだったがその事を周囲に知られる訳にはいかなかった。
育児放棄、ネグレクトと見做されると俺は児相に送られるだろう。それだけは何としてでも避けねばならなかった。
「うちの親さ、ちょっと仕事でしばらく留守にしてんだよ。悪ぃねセンセェ。手間かけさせちまって」
俺はなんでも無いように振る舞うしかなかった。
「なあ佐藤」
小泉は俺の顔をまじまじと見つめた。
「さっき冷蔵庫を見させて貰ったんだがな。甥に持たせたスポーツドリンク以外何も入っていなかったんだが」
俺は黙った。小泉が何を言いたいのか解っていた。
「お前の今後については各方面と色々と話し合わねばならんだろう。隠さず全部話してくれ」
何をどう話せばいいのか自分でも判らないまま、俺は暫く天井を見ていた。
俺は何処かに連れて行かれるのだろうか。
親はいない。一人暮らしだ。薬もない。三日間ずっと布団の中で寝て過ごし、たまに水道水を飲んでいた。
とてもではないが買い出しに行けるような体力は残っていなかった。
三日目の夕方に来客があった。
「佐藤ってヤツの家はここでいいのか?」
不意に玄関から声がする。
身体を引き摺り見に行くと小学校高学年くらいの子どもが立っていた。
何か異様な雰囲気の子どもだった。男子のようだが巫女のような着物を着ている。
神社の神主とか宮司とか、神社に居る男って紫やら水色の袴のイメージだったが男子も赤い袴って履くんだろうか。
俺はぼんやりと考えた。きっちりと切り揃えられた黒髪は育ちの良さを感じさせた。
「……お前、誰?」
俺は立っているのがやっとだった。
「鏡花ねえさんに言われて来た。おれは甥だ」
子どもの話は要領を得なかった。
「……鏡花って誰?」
俺の話を聞かず、子どもはズカズカと家に上がり込む。
「誰って、小泉鏡花だよ。お前さ、自分の担任の先生の名前も覚えてないのか?」
子どもは手にしたビニール袋からスポーツドリンクを出し、俺に手渡した。
「生存確認だけしてくるように言われたから来ただけだ。残りは冷蔵庫に入れといてやる。」
じゃあな、と言い残すと子どもはめんどくさそうに帰っていった。
何日かぶりにまともな物を口に出来た。
冷えたスポーツドリンクを一気に飲むと少し身体が楽になった気がした。俺は敷きっぱなしの布団に倒れ込みそのまま少し眠った。
どれくらい時間が経ったろうか。辺りはすっかり暗くなっていた。
ぼんやりと目を開けると人の姿が目に飛び込んできた。
「……え?」
「目が覚めたか?」
俺の布団の横に何者かが座っている。俺の額の上には氷枕が乗せられていた。
「悪いが勝手に裏口から入らせて貰った。鍵も閉めないで無用心だな」
エンジ色のジャージ上下に化粧っけの無い顔。オシャレさの欠片もない眼鏡。無造作に結んだ長い黒い髪。
副担任の教師、小泉だった。
「……なんだ、センセェか」
「誰だと思ったんだ?」
「……別に」
ここ数ヶ月ほど家に帰っていない母親だと思った、とはとても言えなかった。
俺には父親は居ない。母親は家を出たきり殆ど帰ってこない。
実質一人暮らしだったがその事を周囲に知られる訳にはいかなかった。
育児放棄、ネグレクトと見做されると俺は児相に送られるだろう。それだけは何としてでも避けねばならなかった。
「うちの親さ、ちょっと仕事でしばらく留守にしてんだよ。悪ぃねセンセェ。手間かけさせちまって」
俺はなんでも無いように振る舞うしかなかった。
「なあ佐藤」
小泉は俺の顔をまじまじと見つめた。
「さっき冷蔵庫を見させて貰ったんだがな。甥に持たせたスポーツドリンク以外何も入っていなかったんだが」
俺は黙った。小泉が何を言いたいのか解っていた。
「お前の今後については各方面と色々と話し合わねばならんだろう。隠さず全部話してくれ」
何をどう話せばいいのか自分でも判らないまま、俺は暫く天井を見ていた。
俺は何処かに連れて行かれるのだろうか。
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