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ep0. 「真夏の夜の爪」 58.心と身体・溶け合う感覚

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少年の戸惑いを見透かしたように概史が遠慮がちに切り出した。

あの、おれなんてまだガキだしガキの意見や感想だと思って聞き流して欲しいんですけど、と前置きして話し始める。

「結局の所、セックスって料理と同じじゃないッスかね?」

「料理」

少年は繰り返して呟いた。

「料理?」

しかしもう一度概史に問い直す。

なんで料理?どういうことだ?

「それって何だ?下準備が大事ってことか?それとも火加減のことか?」

一緒に買い出しに行く?レシピ通りにする?手順を守る?後片付けもキチンとする?

いえいえ、と概史は首を横に振った。

「先輩は誰かの為に料理作った事あるっスか?」

少年は頷いた。あの日の夜を思い出した。

「あるな」

じゃあ、と概史は続けた。

「誰かに料理作ってもらったことはどうっスか?」

家族以外で、と概史は付け加えた。

「ある」

あの時の炒飯と野菜炒め。

つい最近のことなのにどこか遠い日の記憶のようにすら思えた。

「その時ってどんな気持ちでした?作った時は?」

そりゃあ……と少年は少し考える。

「なんか食わせてやりたいっていうか。せっかく来てくれたんだしって感じっつうか」

じゃあ作ってもらった時はどうでした?と概史が更に質問する。

「そりゃなんつうか……嬉しかったぜ。俺の為に準備して作ってくれたっつぅか、その心意気?っつうかよ」

焦げた野菜炒めではあったが少年にとっては何よりも嬉しい食事だった。

“自分の為だけに”用意されたもの。

胃と共に心まで満たされるような感覚だった。

「それと同じじゃないッスかね?」

少年は概史の方を見た。

ほら、よく“料理は愛情”っていうじゃないですか、と概史は人差し指を立てる。

陳腐で使いまわされた言葉ではあったが少年はストンと腑に落ちたような気がした。

そうか、と少年は一人呟いた。

据え膳ってそういう意味なのか。

相手の空腹を満たしてあげたい。

自分の空腹も満たされたい。




それは心と身体がお互いに満たされていく事に他ならなかった。
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