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ep0. 「真夏の夜の爪」 51.フルスイングで後頭部をブン殴る

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少年は何も言い返せずただ黙っていた。

「……じゃあ概史や撫子はどうだってンだよ。アイツらにもなンか言ったんかよ?」

やっとのことで少年は口を開いた。

何故自分ばかりがこうして責められなければならないのか。

ああ、あの子達ねぇ、と佑ニーサンはため息を吐いた。

「あの子達は勝手に始めて勝手に終わっちゃってたし」

もう気が済んだんじゃないかな?多分もうあと数年はそんなことしないと思う。

わかんないけどさ、と肩をすくめてみせた。

「撫子ちゃん……だっけ、変わってるよね。僕にはもうあの二人の考えてることが分からないよ」

OSが違うって感じだよね。
もう僕とは違う世代のスペックって感じがする、と佑ニーサンはカウンターを布巾で拭いた。

「なんかさ、家庭の事情も複雑そうだし?叔母にさんに対する当て付けとかの意味が強いのかなぁ?精神的優位に立つための武器が欲しかったとか?」

佑ニーサンは少ない情報の中から二人の事を理解しようと努めているように少年には思えた。

「エヴァで例えたらS2機関を取り込む為に使徒を食べる感じなのかなぁ。あんまエヴァ詳しく無いけど」

いや俺もエヴァそんなに詳しくないんでよく知らねぇし概史ん家で金曜ロードショーのやつ一回観ただけだし、と少年は困惑気味で答えた。

いずれにせよ、そんな気軽にスナック感覚で喰ったのか概史は?と少年には益々意味がわからなくなった。

ん?概史が喰われたんだよな?どっちだっけ?

まあ色々偉そうに言っちゃったけどさ、と佑ニーサンはグラスに水を注いで少し飲んだ。

「僕は僕が絶対正しいとかは思ってないよ。寧ろ間違ってるっていう自覚もあるし」

思わず少年は佑ニーサンの顔を見た。

今日はせっかく来てくれたのにごめんね、と佑ニーサンは少し笑った。

何が、と言いかけて少年は俯いた。

「意を決して相談してくれたんでしょう?開幕早々でフルスイングで後頭部ブン殴るような真似しちゃってごめん」

こういうのって一番傷付くって僕自身が嫌になる程知ってるはずなのにね、と佑ニーサンはグラスの水に視線を落とした。

「人は誰だって自分が善人でありたいよね。弱くて被害者で可哀想なのが善人。それが正義だし正論だし」

古いエアコンの音が不意に止まる。





「強くて加害者で間違っている方が悪人なんだよ。結局のところさ。誰だって自分が悪人にされるのは嫌だよね。悪人とされる側には正義はないんだ。取り上げられているからね」
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