43 / 1,060
ep.0
ep0. 「真夏の夜の爪」 ㊸たぶん、その衝動だけで生きている
しおりを挟む
数分後、少年はずぶ濡れになった姿で戻って来た。
手にはスポーツドリンクと空になったミネラルウォーターのボトルが握られている。
ほら、飲めよ、と少年はマコトにペットボトルを渡す。
「……いや、ガックン? どうしてビシャビシャなの?」
そう遠く無い自販機にも関わらず思った以上に時間が掛かった上に濡れ鼠のような様相の少年をマコトは心底不思議そうな顔でしげしげと眺めた。
あの、ほら、バイク運転すんのも気力使うし暑かったからよ、と少年は要領を得ない様子で言い訳しながらコンクリの上に座った。
ポタポタと水滴が少年の髪を伝って落ちる。セットした髪も下に降りて前髪は額に張り付いていた。
だからって何も頭から水を被らなくても、とマコトは少し笑った。
いや、帰り道もあンだろ? コンディション整えねぇと、と少年は尤もらしい事を言った。
そう、とマコトは小さく返事をして少年の側に座った。
ねえガックン、とマコトは少し悲しそうに呟く。ガックンてどうしてこんなに優しいの、と。
「……僕、ガックンみたいな人を好きになってたら良かったのに」
そしたらきっとずっと、一生毎日が幸せだったよね、と言うと顔を膝に埋めた。
「……僕の幸せって僕が自分で壊したんだね。僕、一生死ぬまで自分を許せそうもないよ……」
だけど、とマコトは顔を上げて真っ暗な海を見据えた。
「これは僕のへの罰なんだから」
だから、それは逃げちゃいけないんだよね、とマコトは硝子のような眼で夜空に視線を移した。
少年はマコトの横顔を見た。
さっきまで泣きじゃくっていたマコトはもう居なかった。
マコトは暫く何かを考え込んでいる様子だったが、意を決して立ち上がると少年の方に向かってこう言った。
「……ガックン。明後日の二〇時に秘密基地で待ってるから」
本当に明後日が最後なんだ、とマコトは真っ直ぐに少年を見つめた。
明後日を最後にマコトはこの街を出るのだ。
だから、一人で来てよね。二人だけの秘密だから、とマコトはゆっくり目を伏せた。
少年はその言葉の意味を雰囲気で理解し、マジかよ、とだけ呟いた。
自分の顔が真っ赤になっているのは自分でも感じていた。
身体中の血が熱くなっていくのが少年自身にも止められなかった。
おまけに暫く立ち上がれそうにも無かった。
ああダメだ帰る前にもう一本、水買って来ねぇとな、とぼんやりと少年は体育座りのまま考えた。
自分の言葉の意図が少年に伝わった確証を得たマコトはゆっくりと振り返り暗い海を眺めた。
「……最後にガックンが隣に居てくれるなら、僕はもう何も要らない」
手にはスポーツドリンクと空になったミネラルウォーターのボトルが握られている。
ほら、飲めよ、と少年はマコトにペットボトルを渡す。
「……いや、ガックン? どうしてビシャビシャなの?」
そう遠く無い自販機にも関わらず思った以上に時間が掛かった上に濡れ鼠のような様相の少年をマコトは心底不思議そうな顔でしげしげと眺めた。
あの、ほら、バイク運転すんのも気力使うし暑かったからよ、と少年は要領を得ない様子で言い訳しながらコンクリの上に座った。
ポタポタと水滴が少年の髪を伝って落ちる。セットした髪も下に降りて前髪は額に張り付いていた。
だからって何も頭から水を被らなくても、とマコトは少し笑った。
いや、帰り道もあンだろ? コンディション整えねぇと、と少年は尤もらしい事を言った。
そう、とマコトは小さく返事をして少年の側に座った。
ねえガックン、とマコトは少し悲しそうに呟く。ガックンてどうしてこんなに優しいの、と。
「……僕、ガックンみたいな人を好きになってたら良かったのに」
そしたらきっとずっと、一生毎日が幸せだったよね、と言うと顔を膝に埋めた。
「……僕の幸せって僕が自分で壊したんだね。僕、一生死ぬまで自分を許せそうもないよ……」
だけど、とマコトは顔を上げて真っ暗な海を見据えた。
「これは僕のへの罰なんだから」
だから、それは逃げちゃいけないんだよね、とマコトは硝子のような眼で夜空に視線を移した。
少年はマコトの横顔を見た。
さっきまで泣きじゃくっていたマコトはもう居なかった。
マコトは暫く何かを考え込んでいる様子だったが、意を決して立ち上がると少年の方に向かってこう言った。
「……ガックン。明後日の二〇時に秘密基地で待ってるから」
本当に明後日が最後なんだ、とマコトは真っ直ぐに少年を見つめた。
明後日を最後にマコトはこの街を出るのだ。
だから、一人で来てよね。二人だけの秘密だから、とマコトはゆっくり目を伏せた。
少年はその言葉の意味を雰囲気で理解し、マジかよ、とだけ呟いた。
自分の顔が真っ赤になっているのは自分でも感じていた。
身体中の血が熱くなっていくのが少年自身にも止められなかった。
おまけに暫く立ち上がれそうにも無かった。
ああダメだ帰る前にもう一本、水買って来ねぇとな、とぼんやりと少年は体育座りのまま考えた。
自分の言葉の意図が少年に伝わった確証を得たマコトはゆっくりと振り返り暗い海を眺めた。
「……最後にガックンが隣に居てくれるなら、僕はもう何も要らない」
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる