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ep0. 「真夏の夜の爪」 ㉞苦味のある液体と愛情の確認

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マコトが内緒で少年宅に出入りするようになって暫く経っていた。

最近秘密基地に行かないね、とマコトが独り言のように呟く。

そうだな、と少年もまた独り言のように返事を返す。

 概史や撫子が嫌いになったとかそういった感情が二人にある訳では無い。

二人共口にこそ出さないが概史と撫子に対するある種の劣等感のような物はどうしても拭えなかった。

“置いていかれた者同士”のような奇妙な連帯感が二人の間に生まれ、マサムネの世話という口実で過ごす時間は気兼ねがなく双方にとって心地よい時間だった。

にゃあ、と鳴いてマサムネが餌の催促をする。

はいはい、と返事したマコトは小皿にミルクを注いでマサムネに飲ませる。


 概史どうしてンのかな、と少年がふと口にした。

どうせ2人でイチャコラしてるんでしょ、とマコトが少し意地悪気に言うとそれもそうだな、と少年も同意した。

むしろ俺らが居なくて好都合なンじゃねーの、と自嘲気味に小さく笑い、マコトも頷いた。

 「……ねぇ、今日の晩御飯は僕に作らせてよ」

ちゃぶ台を軽く叩きマコトが立ち上がる。

「晩飯?お前が?作れンのか?」

少年が怪訝そうにマコトを見る。

まあ任せてよ、と自信あり気なマコトが冷蔵庫から食材を取り出す。

少年の目を盗んでこっそり入れておいた物だった。

……今日は焼肉にしよう!とマコトは満面の笑みではしゃいでみせる。

「マジか?!焼肉とか爺さんが生きてた時以来だな……!」

「ねえねえ!ホットプレートある?」

興奮したマコトが少年の短ランの裾を引っ張る。

ええ?ウチそんなモン無ぇよ、と少年は困惑する。

この家には古い鍋か年季の入ったフライパンしか無かった。

まあいい、フライパンでやろう!とマコトは意気込む。

しかし。

 十数分後に出来上がったものを見てマコトは呟いた。

「……OK、これ野菜炒めだ」

割と奮発した牛肉。

刻んだキャベツと人参とピーマン。

焼肉のタレだけの味付け。

強すぎた火力で肉は焦げ付き野菜は生焼けであった。

「お前、料理初めてだったンか?」

少年がご飯をよそいながら笑う。

マコトは肩を落としてがっくりと項垂れていた。

……折角だからガックンに美味しいもの食べて貰いたかったのに、とマコトは小さく呟いた。

「俺は嬉しいけどな」

少年はちゃぶ台に“野菜炒め”と茶碗と箸、麦茶を配膳すると頂きます、と両手を合わせた。

「なあ、旨いぜこれ。お前が作ったンだろ、食ってみろって」

少年は野菜炒めを頬張るとマコトにも食べるよう促した。

言われるままマコトは一口、野菜炒めを口に運ぶ。

「……うん……そりゃ一応は……食べられるけど……これって焼肉のタレの味で誤魔化してるだけじゃない……?肉は端が焦げてるし……」

マコトは自信なげに呟く。

「馬っ鹿。これがいいンだろ?」

少年は静かに笑った。

「お前が初めて作ってくれたンだからよ。旨いに決まってンだろ」

マコトは少し泣きそうになったのを少年に悟られないように急いで白米を掻き込んだ。

恥ずかしさに似た感情で味はほとんど感じることができなかった。

ご馳走様、と手を合わせた後に少年はマコトを見た。

失敗したと思い込んで落ち込んでいるように少年には思えた。

そんな事ないのに、と少し考えた後少年は徐ろに立ち上がり冷蔵庫からビールを取り出してちゃぶ台に置いた。

「お前の初料理を記念して飲ンでみねえ?」

350㎖のビール缶。

祖父の仏壇に供えられていた物だった。

少年は二つのグラスにビールを注ぐ。

「いえーい。マコトの初料理記念ー!」

茶化さないでよ、とマコトは俯いて少年とグラスを乾杯する。

カチ、とガラスが触れ合う音がして2人はビールを喉に流し込む。

「……苦っっが!!!」

一口飲んだマコトが悲鳴を上げる
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