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ep0. 「真夏の夜の爪」 ㉔粉砕 玉砕、大失態
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マコトは言葉を詰まらせる。
「……俺らの事、内心では馬鹿にしてたンか?」
解ってたんだよこっちは、と少年はまた一歩マコトに近づく。
少年がポケットから金属片を取り出す。
「これ、何か判るか?」
へし折られねじ切られたベンツのエンブレムだった。
「コンビニの隣の空き地に廃車が積んである一角あンだろ?そこからパクったンだけどよ」
少年はエンブレムをクルクルと回し掌で弄ぶ。エンブレムにはリングが付けられており、変色した少年の自宅の鍵がぶら下がっていた。
「あの時よ、俺と概史で話してたンだよ。これブッ込めば良くね?ってよ」
除菌シートでエンブレムを拭きケーキの中央にめり込ませる。取り除いた後にエンブレムの跡の三方向の線に沿ってカットする。
何も考えたりしなくても、手ブレや角度の微妙な差異に悩む事なくノーストレスで切り分けられる、彼ららしい豪快なやり方だった。
「けどよ、概史のやつもう一人呼んでくる方向で行きやがった」
マコトは後悔した。幼稚なマウンティングは全て二人に見透かされて居たのだ。
学校のみならずこの二人の前ですら自分自身は酷く滑稽で恥ずかしい存在でしかなかった事を改めて突きつけられたのだ。
「これあれだろ、お前がやった意地悪って全部概史に読まれてカウンターで返されてンだろ」
全くその通りだった。
少し前から彼女がいるとかそういった話をマコトにだけ打ち明けてくれていたのは信頼関係があったのかもしれないし、ふとした切っ掛けでポロッと溢してしまっただけなのかもしれない。
しかしそれは大いにマコトを苛立たせた。
お手手繋いで公園にでも行ってるだけだろうと高を括っていた。
だがマコト自身が好きになった人のことで思い悩むようになり、二個下の学年の小学生が生意気にも彼女持ちというのが我慢ならなくなり連絡の一切を一方的に絶ってしまった。
親戚がホールのケーキを手土産に持参することもマコトの母親がそれをゴミ箱にダンクする事も嘘ではなかった。
ただ、上手く切れずにオタオタしているであろう概史と少年を少し笑ってやろう、その後また皆でいつも通り悪態を吐きながらぐちゃぐちゃになったケーキを生クリーム塗れになりながらゲラゲラ笑いながら食べればいいと思っていた。
ただそれだけだった。
ケーキを三等分せずにもう一人連れてきて四等分にする。
今までその存在を少年に対しては完璧に隠していた彼女を四人目のゲストに投下する。
最後の僅かな抵抗のつもりの些細な意地悪な質問が二人ともとうの昔に処女童貞では無くなっていた事実を白日の元に引き摺り出してしまった。
聞かなければ判らなかった、後輩が先に童貞卒業していたという現実。
自業自得とも思える行動で僅かに残った自尊心も自己欺瞞も鮮やかなモーションで小学生男児に粉砕されたのだ。
マコトは自分自身のコールド負けを認めざるを得なかった。
なんでそんなこと、と言いかけた少年の肩をマコトが突き飛ばす。
「……ああ、うっざ。ウザいんだけど!」
マコトがポケットから何かを取り出す。
「……ガックンだけは僕の味方してくれると思ったのに!」
カシュ、という音がして微かに生臭い匂いが辺りに漂う。
「は?」
何言ってんだお前、と少年は呆れたようにマコトを見る。
手にあるものをマコトは草むらに投げる。
「……ムカつくんだけど!」
草むらに何かが蠢く気配がする。
……きっも。マジでキモいんだけど、と呟いているマコトの右手にはコルトパイソンが握られている。
「……俺らの事、内心では馬鹿にしてたンか?」
解ってたんだよこっちは、と少年はまた一歩マコトに近づく。
少年がポケットから金属片を取り出す。
「これ、何か判るか?」
へし折られねじ切られたベンツのエンブレムだった。
「コンビニの隣の空き地に廃車が積んである一角あンだろ?そこからパクったンだけどよ」
少年はエンブレムをクルクルと回し掌で弄ぶ。エンブレムにはリングが付けられており、変色した少年の自宅の鍵がぶら下がっていた。
「あの時よ、俺と概史で話してたンだよ。これブッ込めば良くね?ってよ」
除菌シートでエンブレムを拭きケーキの中央にめり込ませる。取り除いた後にエンブレムの跡の三方向の線に沿ってカットする。
何も考えたりしなくても、手ブレや角度の微妙な差異に悩む事なくノーストレスで切り分けられる、彼ららしい豪快なやり方だった。
「けどよ、概史のやつもう一人呼んでくる方向で行きやがった」
マコトは後悔した。幼稚なマウンティングは全て二人に見透かされて居たのだ。
学校のみならずこの二人の前ですら自分自身は酷く滑稽で恥ずかしい存在でしかなかった事を改めて突きつけられたのだ。
「これあれだろ、お前がやった意地悪って全部概史に読まれてカウンターで返されてンだろ」
全くその通りだった。
少し前から彼女がいるとかそういった話をマコトにだけ打ち明けてくれていたのは信頼関係があったのかもしれないし、ふとした切っ掛けでポロッと溢してしまっただけなのかもしれない。
しかしそれは大いにマコトを苛立たせた。
お手手繋いで公園にでも行ってるだけだろうと高を括っていた。
だがマコト自身が好きになった人のことで思い悩むようになり、二個下の学年の小学生が生意気にも彼女持ちというのが我慢ならなくなり連絡の一切を一方的に絶ってしまった。
親戚がホールのケーキを手土産に持参することもマコトの母親がそれをゴミ箱にダンクする事も嘘ではなかった。
ただ、上手く切れずにオタオタしているであろう概史と少年を少し笑ってやろう、その後また皆でいつも通り悪態を吐きながらぐちゃぐちゃになったケーキを生クリーム塗れになりながらゲラゲラ笑いながら食べればいいと思っていた。
ただそれだけだった。
ケーキを三等分せずにもう一人連れてきて四等分にする。
今までその存在を少年に対しては完璧に隠していた彼女を四人目のゲストに投下する。
最後の僅かな抵抗のつもりの些細な意地悪な質問が二人ともとうの昔に処女童貞では無くなっていた事実を白日の元に引き摺り出してしまった。
聞かなければ判らなかった、後輩が先に童貞卒業していたという現実。
自業自得とも思える行動で僅かに残った自尊心も自己欺瞞も鮮やかなモーションで小学生男児に粉砕されたのだ。
マコトは自分自身のコールド負けを認めざるを得なかった。
なんでそんなこと、と言いかけた少年の肩をマコトが突き飛ばす。
「……ああ、うっざ。ウザいんだけど!」
マコトがポケットから何かを取り出す。
「……ガックンだけは僕の味方してくれると思ったのに!」
カシュ、という音がして微かに生臭い匂いが辺りに漂う。
「は?」
何言ってんだお前、と少年は呆れたようにマコトを見る。
手にあるものをマコトは草むらに投げる。
「……ムカつくんだけど!」
草むらに何かが蠢く気配がする。
……きっも。マジでキモいんだけど、と呟いているマコトの右手にはコルトパイソンが握られている。
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