22 / 1,060
ep.0
ep0. 「真夏の夜の爪」 ㉒人は誰でも他人の痛みには無関心
しおりを挟む
「……嘘だね。そんなのは嘘だ。『悩みがあったら何でも相談して』とかさ、そういうの全部嘘なんだよ。向こうにとってはさ」
「何で嘘って言い切れるンだよ?」
「……一人で悩んで苦しくて苦しくて苦しくて、でも誰にも言えなくて、本当に頭がおかしくなりそうだった。僕の話を聞いて欲しかった。馬鹿馬鹿しい、こんな事誰にも言えないって思ってずっと一人で悩んでた。でも本当の本当に限界だった。だから恥を忍んで思い切って向こうに相談しようと思った。この苦しさから解放されるなら…。何もしなくていい、ただ話を聞いてくれるだけでよかった。嘘じゃない、僕は本当にそれ以外何も要らなかったんだ……」
マコトが嗚咽を押し殺している気配を少年は感じた。
「……でも違った……そうじゃなかったんだ……向こうにとっては……相談しようって思って話し始めた話題は出かかりを潰されていつの間にか向こうの話にすり替わってた……隙あらば自分語りはいつもの事だったのに……でも何もこんな時までって思ってすごくショックだった……僕は価値のない存在だったんだよ……」
マコトの渾身の勇気は超必殺技の最初のモーションを通常技で潰された2D格闘ゲームの対戦試合のように無様さだけを残して雲霧散消してしまっていた。
「……そう、隙あらば自分語りの常套手段。自分が自分が自分がっていつも向こうの話題にすり替わってる……自分。自分。自分。自分。それでもいいんだ……別に構わないんだ。いつもの事だから……別にそれでも良かったんだ……それでも楽しかったから……」
マコトは小さく呟く。
「……それでも……あの時だけは……僕の話をちゃんと聞いて欲しかった……」
俺が聞いてるだろうがよ、と言いかけた言葉を少年は飲み込んだ。
少年はただ黙って言葉を探す。
「……ガックンの学校ってさ、生活ノートってある?うちの学校私立だからさ、学校独自のやつ使ってるんだよね」
ああ、と少年は小さく頷く。
「……うちの学校の生活ノートってちょっとページが追加されててさ、見開き2ページで一週間、その次の見開きに週間レポートみたいなのが別にあるんだよ。よその学校のはよく知んないけど。そこに“この一週間で頑張ったこと。来週頑張りたいこと。友達と取り組んだこと”みたいなの書く形式になってるの。めんどいんだけどさ」
「……そこの欄にさ、自分で書いたレポートっぽいのに“友達からひとこと”みたいな余計なのがあるんだよ。でもそういう形式だから書かなきゃでしょ?」
「……向こうはさ、『ゴメンちょっとこれ書いて!』とか言って僕に投げてくるんだよ。本文ごと。それはいいんだ、いつも書いてるから。……でも僕が頼んだ時は書いてくれないんだよ殆ど『難しくてわかんない』って言ってさ。滅多に頼まないのにさ……」
「…… 毎週ある英語の小作文の提出プリントもいつもそうなんだ。日記を英語で書くみたいな課題なんだけどさ。『これ頑張って書いたからちょっと見てよ!』って無邪気に悪びれずに僕に持って来る。そうだねよく出来てるよ。頑張ったね。立派だよ。そう言いながら僕は“友達や家族に読んでもらってお互い感想を言い合いましょう“って欄にコメントを書き込むんだ。それが毎回」
マコトは一呼吸置いてこう呟いた。
「……でも僕のは一回も見てくれたことなかった」
マコトの哀れとも思える感情の起伏が隣の少年にも伝わって来た。
いつもの人工的な葡萄の匂いと汗の匂いがそれらをさらに引き立たせていた。
[グローバル化社会に向けコミニケーション能力に長けた人材を育成します]という学校の教育理念は完全に裏目に出てしまっていたのであろう。
マコトは学校内での居場所すらとうの昔に自分自身で見失っていた。
「……でももういい。やっと理解した。僕は一人でいいんだ」
少年はただマコトの言葉だけに耳を傾けていた。
「……誰かに解って貰おうって思った僕の方が間違ってたんだ。誰にも僕は解らないんだから」
生ぬるい風が二人の間を通過する。
「……僕は何もない…」
顔を上げたマコトが呟く。
「……僕は一人ぼっちだ……」
黙っていた少年が口を開いた。
「てかさ、お前も同じことしてンじゃね?」
「何で嘘って言い切れるンだよ?」
「……一人で悩んで苦しくて苦しくて苦しくて、でも誰にも言えなくて、本当に頭がおかしくなりそうだった。僕の話を聞いて欲しかった。馬鹿馬鹿しい、こんな事誰にも言えないって思ってずっと一人で悩んでた。でも本当の本当に限界だった。だから恥を忍んで思い切って向こうに相談しようと思った。この苦しさから解放されるなら…。何もしなくていい、ただ話を聞いてくれるだけでよかった。嘘じゃない、僕は本当にそれ以外何も要らなかったんだ……」
マコトが嗚咽を押し殺している気配を少年は感じた。
「……でも違った……そうじゃなかったんだ……向こうにとっては……相談しようって思って話し始めた話題は出かかりを潰されていつの間にか向こうの話にすり替わってた……隙あらば自分語りはいつもの事だったのに……でも何もこんな時までって思ってすごくショックだった……僕は価値のない存在だったんだよ……」
マコトの渾身の勇気は超必殺技の最初のモーションを通常技で潰された2D格闘ゲームの対戦試合のように無様さだけを残して雲霧散消してしまっていた。
「……そう、隙あらば自分語りの常套手段。自分が自分が自分がっていつも向こうの話題にすり替わってる……自分。自分。自分。自分。それでもいいんだ……別に構わないんだ。いつもの事だから……別にそれでも良かったんだ……それでも楽しかったから……」
マコトは小さく呟く。
「……それでも……あの時だけは……僕の話をちゃんと聞いて欲しかった……」
俺が聞いてるだろうがよ、と言いかけた言葉を少年は飲み込んだ。
少年はただ黙って言葉を探す。
「……ガックンの学校ってさ、生活ノートってある?うちの学校私立だからさ、学校独自のやつ使ってるんだよね」
ああ、と少年は小さく頷く。
「……うちの学校の生活ノートってちょっとページが追加されててさ、見開き2ページで一週間、その次の見開きに週間レポートみたいなのが別にあるんだよ。よその学校のはよく知んないけど。そこに“この一週間で頑張ったこと。来週頑張りたいこと。友達と取り組んだこと”みたいなの書く形式になってるの。めんどいんだけどさ」
「……そこの欄にさ、自分で書いたレポートっぽいのに“友達からひとこと”みたいな余計なのがあるんだよ。でもそういう形式だから書かなきゃでしょ?」
「……向こうはさ、『ゴメンちょっとこれ書いて!』とか言って僕に投げてくるんだよ。本文ごと。それはいいんだ、いつも書いてるから。……でも僕が頼んだ時は書いてくれないんだよ殆ど『難しくてわかんない』って言ってさ。滅多に頼まないのにさ……」
「…… 毎週ある英語の小作文の提出プリントもいつもそうなんだ。日記を英語で書くみたいな課題なんだけどさ。『これ頑張って書いたからちょっと見てよ!』って無邪気に悪びれずに僕に持って来る。そうだねよく出来てるよ。頑張ったね。立派だよ。そう言いながら僕は“友達や家族に読んでもらってお互い感想を言い合いましょう“って欄にコメントを書き込むんだ。それが毎回」
マコトは一呼吸置いてこう呟いた。
「……でも僕のは一回も見てくれたことなかった」
マコトの哀れとも思える感情の起伏が隣の少年にも伝わって来た。
いつもの人工的な葡萄の匂いと汗の匂いがそれらをさらに引き立たせていた。
[グローバル化社会に向けコミニケーション能力に長けた人材を育成します]という学校の教育理念は完全に裏目に出てしまっていたのであろう。
マコトは学校内での居場所すらとうの昔に自分自身で見失っていた。
「……でももういい。やっと理解した。僕は一人でいいんだ」
少年はただマコトの言葉だけに耳を傾けていた。
「……誰かに解って貰おうって思った僕の方が間違ってたんだ。誰にも僕は解らないんだから」
生ぬるい風が二人の間を通過する。
「……僕は何もない…」
顔を上げたマコトが呟く。
「……僕は一人ぼっちだ……」
黙っていた少年が口を開いた。
「てかさ、お前も同じことしてンじゃね?」
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
もし学園のアイドルが俺のメイドになったら
みずがめ
恋愛
もしも、憧れの女子が絶対服従のメイドになったら……。そんなの普通の男子ならやることは決まっているよな?
これは不幸な陰キャが、学園一の美少女をメイドという名の性奴隷として扱い、欲望の限りを尽くしまくるお話である。
※【挿絵あり】にはいただいたイラストを載せています。
「小説家になろう」ノクターンノベルズにも掲載しています。表紙はあっきコタロウさんに描いていただきました。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる