17 / 1,060
ep.0
ep0. 「真夏の夜の爪」 ⑰敬愛と暴力、その方向性
しおりを挟む
概史の話を聞き終わった少年とマコトはしばらく黙っていた。ようやく口を開いたのが少年だった。
「お前ベタ惚れじゃね?」
呆れたように概史を見つめる。
「いや?知らんっスよ。おれそう言うの疎いし。わかんねっス」
概史は平然と嘯く。
「お前が自分の分のチョコパイ分け与えるとか有り得ねぇし。好きすぎだろ」
いつも自分の分のチョコパイを概史に与えていたのは少年だった。
いやーしかしお前ら腹据わってんな、なんかワケわかんねぇけど感心しちまったぜ、と少年は心底驚いたように呟いた。
「なんかよ、ブランキージェットシティの“赤いタンバリン”て曲あるじゃん?あれみてーだなって思ったぜ?好きになるのに理由なんてあんま要らねぇっつうかよ」
あー。赤いタンバリン!いいっスねえ!と概史は同意する。赤いタンバリンを上手に打つことも図書室の隅、一人で小公女を読んで居ることも変わらない。その感情に理由付けは必要なかった。
おれ、普段はキュウソネコカミばっか聴いてんスけどやっぱベンジーもいいっスねぇ、カッコいいっス!と概史が嬉々とし始める。
まあ俺はやっぱ一番はミッシェルなんだけどな、ぜってー神だろ、と少年はそれに乗っかる。
ミッシェルガンエレファント。
少年が心から敬愛してやまないバンドである。少年が生まれる前に既に解散しているが、概史の兄フーミンの録画していたビデオテープで観て以来すっかり心酔してしまっていた。
「やっぱよ、あの伝説の夜っつーかよ、あのMステのパフォーマンスって神がかってたよな!タトゥだ?ロシアの女子高生?小娘なんか何人束になっても叶わねぇ色気っつうかよ、男が惚れる男ってミッシェルみてぇなのなんだろうな?マジかっけぇし!ミッシェルだけはやっぱガチだな!間違いねぇよな!」
興奮気味に少年が捲し立てる。
ロシアからやってきたと言う触れ込みの女子高生二人組アーティスト。
テレビの音楽番組の生放送。その登場に日本中がブラウン管の前で沸き立っていた。
しかし女子高生達は楽屋に立て篭もり出演を直前で拒否。進行を止めた番組を救ったのがミッシェルだった。
「リハなしセットなし歌詞字幕もなしでいきなりのぶっつけ本番だろ?オーディエンスも他の出演アーティストもタモさんも会場がヤケクソにも似た全力投球の一体感っつうか、とりあえず盛り上げとかねぇと的な使命感みてぇな免罪符でリミッターカットして極限まで湧き上がってる感覚っつぅかよ、あの時のチバさんの打ち鳴らすタンバリンが最高にカッコよくてよ、マジで日本の音楽史に残ってるだろコレ。教科書に載せるレベルだろこれ」
「アナウンサーの曲紹介を待たずにイントロ始まってたりとかなんかもう全部かっこいいっスよね。リアルで観たかったっていうか。ゾクゾクする感じっていうか」
概史も少年に応えるようにテンションを上げる。
「スタジオの空気が全部沸騰してるみてぇな熱狂っていうかよ、もうあんなの二度と観れねぇよな!マジですげえし!」
「お前ベタ惚れじゃね?」
呆れたように概史を見つめる。
「いや?知らんっスよ。おれそう言うの疎いし。わかんねっス」
概史は平然と嘯く。
「お前が自分の分のチョコパイ分け与えるとか有り得ねぇし。好きすぎだろ」
いつも自分の分のチョコパイを概史に与えていたのは少年だった。
いやーしかしお前ら腹据わってんな、なんかワケわかんねぇけど感心しちまったぜ、と少年は心底驚いたように呟いた。
「なんかよ、ブランキージェットシティの“赤いタンバリン”て曲あるじゃん?あれみてーだなって思ったぜ?好きになるのに理由なんてあんま要らねぇっつうかよ」
あー。赤いタンバリン!いいっスねえ!と概史は同意する。赤いタンバリンを上手に打つことも図書室の隅、一人で小公女を読んで居ることも変わらない。その感情に理由付けは必要なかった。
おれ、普段はキュウソネコカミばっか聴いてんスけどやっぱベンジーもいいっスねぇ、カッコいいっス!と概史が嬉々とし始める。
まあ俺はやっぱ一番はミッシェルなんだけどな、ぜってー神だろ、と少年はそれに乗っかる。
ミッシェルガンエレファント。
少年が心から敬愛してやまないバンドである。少年が生まれる前に既に解散しているが、概史の兄フーミンの録画していたビデオテープで観て以来すっかり心酔してしまっていた。
「やっぱよ、あの伝説の夜っつーかよ、あのMステのパフォーマンスって神がかってたよな!タトゥだ?ロシアの女子高生?小娘なんか何人束になっても叶わねぇ色気っつうかよ、男が惚れる男ってミッシェルみてぇなのなんだろうな?マジかっけぇし!ミッシェルだけはやっぱガチだな!間違いねぇよな!」
興奮気味に少年が捲し立てる。
ロシアからやってきたと言う触れ込みの女子高生二人組アーティスト。
テレビの音楽番組の生放送。その登場に日本中がブラウン管の前で沸き立っていた。
しかし女子高生達は楽屋に立て篭もり出演を直前で拒否。進行を止めた番組を救ったのがミッシェルだった。
「リハなしセットなし歌詞字幕もなしでいきなりのぶっつけ本番だろ?オーディエンスも他の出演アーティストもタモさんも会場がヤケクソにも似た全力投球の一体感っつうか、とりあえず盛り上げとかねぇと的な使命感みてぇな免罪符でリミッターカットして極限まで湧き上がってる感覚っつぅかよ、あの時のチバさんの打ち鳴らすタンバリンが最高にカッコよくてよ、マジで日本の音楽史に残ってるだろコレ。教科書に載せるレベルだろこれ」
「アナウンサーの曲紹介を待たずにイントロ始まってたりとかなんかもう全部かっこいいっスよね。リアルで観たかったっていうか。ゾクゾクする感じっていうか」
概史も少年に応えるようにテンションを上げる。
「スタジオの空気が全部沸騰してるみてぇな熱狂っていうかよ、もうあんなの二度と観れねぇよな!マジですげえし!」
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説



体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる