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ep0. 「真夏の夜の爪」 ⑧痛み分けクリティカル 

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「あの…先輩、ガチで悪かったっスからもう勘弁してもらえませんかね?」

怯えたような概史が懺悔にも似たトーンでマコトに懇願する。

「……何が?概史も撫子ちゃんも何も悪いことして無いでしょ?堂々と胸を張ってたらいいんだよ?愛し合うってことは素晴らしい事なんだから」

場の主導権を握ったマコトがそれを手放す筈もなかった。尚も執拗に撫子に質問を繰り出す。

「……じゃあさ、一番最近したのはいつ?」

踏み込みすぎだろいくらなんでも、後で概史本人を吊し上げりゃいいじゃねーか。小学生女子になんて事言ってンだよ最低すぎだろ、と少年はマコトを小突く。

「……1ヶ月前くらい、でも見つかった。怒られたからもうおしまい」

撫子は気にする風でもなく淡々と答える。

「おい、オメー見つかったんか?」

少年が概史に尋ねる。

「えっと……最中のトコ兄貴に見つかって……俺だけぶん殴られて…あともうヤッて無い……です」

冷や汗をかいた概史が答える。

「フーミンに見つかってブッ飛ばされてンか。ザマァねぇな。まあ当然だな」

少年の溜飲は少し下がった。

「おいマコト、聞きたい事あンならこの後いくらでも概史に聞きゃいいだろうがよ。この娘には辞めろ。セクハラじゃねーか」

散々聞いてしまった後ではあるが少年はようやく我に返りマコトを制止した。

「……僕は概史じゃなくてこの娘に聞きたいんだよ」

マコトがおかしなテンションになっているのが少年にも伝わった。変態かよ。

「……どうして?」

気づけばケーキの3/4以上は食べていた撫子が逆にマコトに問いかける。

「……アナタもすればいい。そしたら聞くより早い。簡単なこと」

不意を突かれたマコトが一瞬動きを止める。おいおいクリティカルじゃねーか、と少年はマコトを横目で見る。簡単に出来たら誰も困らねぇンですが?

「……先輩達はした事ないの?」

撫子は真っ直ぐな目でマコトを見る。

撫子の追撃にマコトと少年は完膚なきまでに打ちのめされた。マコトは途端に言葉を失った。

「あ、あの、そろそろお開きにしません?俺、撫子を家に送ってくるんで、あの、撫子はこの後公文があるんで」

概史がソファから勢いよく立ち上がる。

「ほら撫子、帰ろう?送るからさ?な?」

概史が撫子の手を引っ張る。

……公文なんてやってない、と呟く撫子の両方を掴んだ概史は出口に向かう。

「あの、俺コイツの家まで送って来るんで…」

撫子の背中を押しながら逃げるように概史は部屋を出た。

公文やってねぇっつってたぞお前の彼女、と少年は思ったがそんなことはどうでも良かった。マコトと二人になった少年は安堵した。

「あー何だよあの彼女さ。概史のやつあんなワイルドな肉食系女子が好みだったンか?マコト、知ってたンかよ?」

少年は残ったモンスターをヤケクソ気味に飲み干す。

「……カノジョが居るのは知ってた。でも交換日記したりグループデートみたいなことしてるんだとばかり思ってたよ」

マコトは自嘲気味に笑う。

派手に喰い散らかされたテーブルのケーキの残骸を見て少年は呟いた。

「案外喰われてたのは概史の方だったりして」

うまいこと言ったつもりになった少年はマコトの方を見た。



マコトは真顔のままだった。




概史が戻って来たのは翌日だった。

明らかに空気は以前と違っていた。

あの日以降、3人で集まる回数は目に見えて減っていった。

少年と概史がいる時にはマコトは秘密基地に来なかった。

マコトと少年がいる時もまた同様に概史は来なかった。

マコトと概史がお互い避け合っているのは少年にもうっすら理解出来た。

それを更に決定付けたのはあの日の翌日の出来事であった事は明白だった。
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