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ep0. 「真夏の夜の爪」 ⑥少女と生クリーム
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きっかり10分後にコンビニから戻って来たマコトは秘密基地の入り口で一瞬固まって動きを止めた。
フリーズした、と言った方が正しかったかもしれない。
比喩表現ではなくマコトの動きは止まり、明らかな動揺が見て取れた。
「……ええと……どちら様……?」
マコトの視線の先にはソファに座る見知らぬ少女が居た。
「……」
少女は言葉を発しなかった。四等分されたケーキをただ凝視して沈黙を守っている。
「…つーかよ、マコト、オメー知ってたンかよ?」
少年がマコトに訴えかけるような視線を送る。
「……え?どういう事?誰?」
マコトはコンビニの袋をテーブルに置く。
「あ、お構い無くっス。撫子の分は自分で持って来させてるんで」
少女の隣に座る概史がどこか余裕のある様子でマコトを見る。
「ケーキ、人数分・・・に切り分けときましたから早く食べましょうよ。先輩」
概史の一瞬勝ち誇ったような表情とマコトの歪んだ表情を少年は見逃さなかった。
「……そう。キミが撫子ちゃん?」
困惑を隠せないままマコトは少女を見る。
「はー?マコト、オメー知ってたンじゃねーかよ?何で俺だけ知らねー訳なンだァ?」
蚊帳の外の少年が不機嫌になる。
「意味わかんねぇ」
少年は軽めの悪態を吐く。別に真剣に腹を立てている訳ではないことは声のトーンから周囲には伝わっている。
「あ、マコト先輩には話してたんスけど紹介はまだでしたね。おれの『彼女』の撫子っス」
……どうも、と黒髪のおかっぱの少女は小さく声を発する。
「なんでオメーらだけでそういうハナシしてンだよ!彼女いるとか聞いてねぇし!?」
悲鳴に似た声で少年は嘆く。
「なんで概史に先越されてンだよ!聞いてねぇし!なあ?マコト、オメーどうなんだよ!?」
ぎこちない空気の中で撫子と呼ばれた少女は目の前のケーキだけを異様なまで凝視している。
「まぁまぁ、ケーキが温くなっちゃいますし食べましょうよ?」
概史がマコトに着席を促す。
少年が壁に立て掛けてある畳んだパイプ椅子をテーブルの横に置く。
促されるままマコトは少年の隣に座る。
テーブルには四等分にされた不二屋のイチゴのショートケーキがギリギリその境界を保ちながらそれぞれの目の前に鎮座している。
少年は黙ってコンビニ袋から飲み物を出す。
ファンタオレンジを概史の目の前に置き、カルピスウォーターをマコトの前に置く。
撫子の眼前には予め用意されたチェリオのメロン味が置かれている。
「じゃあ、マコト先輩のプリズンブレイクを祝して……乾杯っス」
概史がペットボトルを頭上に掲げる。
マコトは黙ったまま概史を睨みつける。
乾杯の音頭を勝手に取られたことに腹を立てている訳ではない。
カシュ、という音を立てて缶を開けながらエナジードリンクを喉に流し込んだ少年は言いようのない居心地の悪さを感じていた。
自分以外の3人の考えていることが何一つわからない。
短い膠着状態にも似た空気と沈黙を破ったのは意外な人物だった。
もう食べていいよ、と概史に囁かれた撫子は紙皿ごと食べかねない勢いでショートケーキに齧り付いた。
絶句とする少年とマコトを尻目に、概史は悠然とフォークで目の前のイチゴを刺す。
眼前で無言のまま手掴みでケーキを食べる少女。
自他共に認める不良少年でもある彼らを圧倒する野獣のように解き放たれた本能。
先程までのひりついた空気すらまとめて一瞬にして喰らい尽くしていく。
「……おいおい、オメーの彼女は随分ワイルドなんだな」
それが少年の精一杯だった。
それ以上にもうなんとも表現のしようがなかった。
自分の紙皿のケーキを食べ終わった撫子は白い生クリームの付いた指を舐め回している。
足りないかぁ、これも食べていいよ、と概史は呟き果物ナイフで自身のケーキをカットし半分を撫子に渡す。
概史の手ごと食べかねない勢いで撫子はそのままむしゃぶり付く。
ペチャペチャと音を立ててケーキを貪り、概史の指も舐め回す撫子を概史は平然と見守っている。
彼らの間ではこれが通常運転なのだ、と少年とマコトが理解するまで時間は掛からなかった。
理解は出来たが異様さだけが際立ち、得体の知れない恐怖にも似た感情が少年とマコトの間に湧き上がった。
「……なんかエロいよね」
マコトは冗談めかして言った。
「こいつ、いつもこうなんスよ」
概史はこともなげに言い放つ。
「ケーキ好きなンか?じゃあ俺の分もやるよ」
少年は紙皿ごと撫子にケーキを渡そうとする。
しかしその台詞が終わらないうちに既に撫子は少年のケーキに手を伸ばしていた。
少女の頬や口元は生クリームで白くなっている。
「……二人はもうセックスした?」
マコトは棘のあるような皮肉めいた声色で不意打ち気味に概史に尋ねた。
……した、と小さい呟きが聞こえた。
概史より早く応えたのは撫子だった。
フリーズした、と言った方が正しかったかもしれない。
比喩表現ではなくマコトの動きは止まり、明らかな動揺が見て取れた。
「……ええと……どちら様……?」
マコトの視線の先にはソファに座る見知らぬ少女が居た。
「……」
少女は言葉を発しなかった。四等分されたケーキをただ凝視して沈黙を守っている。
「…つーかよ、マコト、オメー知ってたンかよ?」
少年がマコトに訴えかけるような視線を送る。
「……え?どういう事?誰?」
マコトはコンビニの袋をテーブルに置く。
「あ、お構い無くっス。撫子の分は自分で持って来させてるんで」
少女の隣に座る概史がどこか余裕のある様子でマコトを見る。
「ケーキ、人数分・・・に切り分けときましたから早く食べましょうよ。先輩」
概史の一瞬勝ち誇ったような表情とマコトの歪んだ表情を少年は見逃さなかった。
「……そう。キミが撫子ちゃん?」
困惑を隠せないままマコトは少女を見る。
「はー?マコト、オメー知ってたンじゃねーかよ?何で俺だけ知らねー訳なンだァ?」
蚊帳の外の少年が不機嫌になる。
「意味わかんねぇ」
少年は軽めの悪態を吐く。別に真剣に腹を立てている訳ではないことは声のトーンから周囲には伝わっている。
「あ、マコト先輩には話してたんスけど紹介はまだでしたね。おれの『彼女』の撫子っス」
……どうも、と黒髪のおかっぱの少女は小さく声を発する。
「なんでオメーらだけでそういうハナシしてンだよ!彼女いるとか聞いてねぇし!?」
悲鳴に似た声で少年は嘆く。
「なんで概史に先越されてンだよ!聞いてねぇし!なあ?マコト、オメーどうなんだよ!?」
ぎこちない空気の中で撫子と呼ばれた少女は目の前のケーキだけを異様なまで凝視している。
「まぁまぁ、ケーキが温くなっちゃいますし食べましょうよ?」
概史がマコトに着席を促す。
少年が壁に立て掛けてある畳んだパイプ椅子をテーブルの横に置く。
促されるままマコトは少年の隣に座る。
テーブルには四等分にされた不二屋のイチゴのショートケーキがギリギリその境界を保ちながらそれぞれの目の前に鎮座している。
少年は黙ってコンビニ袋から飲み物を出す。
ファンタオレンジを概史の目の前に置き、カルピスウォーターをマコトの前に置く。
撫子の眼前には予め用意されたチェリオのメロン味が置かれている。
「じゃあ、マコト先輩のプリズンブレイクを祝して……乾杯っス」
概史がペットボトルを頭上に掲げる。
マコトは黙ったまま概史を睨みつける。
乾杯の音頭を勝手に取られたことに腹を立てている訳ではない。
カシュ、という音を立てて缶を開けながらエナジードリンクを喉に流し込んだ少年は言いようのない居心地の悪さを感じていた。
自分以外の3人の考えていることが何一つわからない。
短い膠着状態にも似た空気と沈黙を破ったのは意外な人物だった。
もう食べていいよ、と概史に囁かれた撫子は紙皿ごと食べかねない勢いでショートケーキに齧り付いた。
絶句とする少年とマコトを尻目に、概史は悠然とフォークで目の前のイチゴを刺す。
眼前で無言のまま手掴みでケーキを食べる少女。
自他共に認める不良少年でもある彼らを圧倒する野獣のように解き放たれた本能。
先程までのひりついた空気すらまとめて一瞬にして喰らい尽くしていく。
「……おいおい、オメーの彼女は随分ワイルドなんだな」
それが少年の精一杯だった。
それ以上にもうなんとも表現のしようがなかった。
自分の紙皿のケーキを食べ終わった撫子は白い生クリームの付いた指を舐め回している。
足りないかぁ、これも食べていいよ、と概史は呟き果物ナイフで自身のケーキをカットし半分を撫子に渡す。
概史の手ごと食べかねない勢いで撫子はそのままむしゃぶり付く。
ペチャペチャと音を立ててケーキを貪り、概史の指も舐め回す撫子を概史は平然と見守っている。
彼らの間ではこれが通常運転なのだ、と少年とマコトが理解するまで時間は掛からなかった。
理解は出来たが異様さだけが際立ち、得体の知れない恐怖にも似た感情が少年とマコトの間に湧き上がった。
「……なんかエロいよね」
マコトは冗談めかして言った。
「こいつ、いつもこうなんスよ」
概史はこともなげに言い放つ。
「ケーキ好きなンか?じゃあ俺の分もやるよ」
少年は紙皿ごと撫子にケーキを渡そうとする。
しかしその台詞が終わらないうちに既に撫子は少年のケーキに手を伸ばしていた。
少女の頬や口元は生クリームで白くなっている。
「……二人はもうセックスした?」
マコトは棘のあるような皮肉めいた声色で不意打ち気味に概史に尋ねた。
……した、と小さい呟きが聞こえた。
概史より早く応えたのは撫子だった。
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