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第2章 地球活動編
第157話 なぜだ? 二節 聖者襲撃編
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(なぜだ? なぜこうなった?)
お昼となり、僕、楠恭弥は食堂1階の《掃きだめの食卓》で昼食をとっているわけだが、さっきから同じ自問自答をしきりに繰り返している。
誰でもいい。この不可解極まりない事態をどうか説明して欲しい。
まあ、衆人環視の目に晒され、客寄せパンダの状態となった僕らに答えてくれるものなどいやしないわけだが。
「壬、ケチャップを取ってくれ」
「ああ、ほらよ」
壬から《掃きだめの食卓》特製のケチャップを受け取った藤丸がホットドックにつけると齧り付く。
「これ美味いな。この味でこの値段、反則だろう。馬鹿馬鹿しくて上階で食う気なくすぞ」
今日の献立は一転してファーストフードのオンパレードだった。
ホットドックに、カツサンド、ハンバーガー、フライドポテトに、チキンバスケット。山盛りに積まれた皿から自身で好きなだけ取って食べるバイキング法式。これで260円だ。育ちざかりの学生にとっては笑いが止まらない値段のはずだ。
決まってこの手のバイキング料理は不味いのが定番なのだが、頬が落ちそうなほど美味い。おばさん、ファーストフードの方が得意なのかもしれない。これだけは、《森の食卓》に迫るほどの美味さがあった。
「美味しいねぇ~」
幸せそうにハンバーガーを頬張る瑠璃に、にゃははと笑いながら、がつがつと口に放り込む纏。さらに、一言も話さず黙々と食べている月彦。
そんな皆をみて満足そうに頷く新田さん。彼女のこの姿から察するにこの摩訶不思議な現象の作戦立案者は多分新田さんだ。
「お高くとまった倖月がファーストフードを知っていること自体、意外ですわ」
セリアさんの棘のある言葉にムッと一瞬顔を顰めるが、にっこりと微笑を浮かべる瑠璃。伊達に幼馴染などやっていない。瑠璃がこの手の顔をするときは大抵マズイときだ。
「私こそ、アーチボルド家の御息女なら、高い料理ばかり食べてると思ったよ」
「まさかですわ。高価なものが良いなど幻想にすぎませんもの。
私は自身の感性しか信じません。貴方達と違い自ら足を運び、目で見て、触れて、食べて判断しますわ」
「それなら――私も昔よく、街に食べにいったよ(キョウ君がよく連れて行ってくれたし)」
チラッと僕を見るとセリアさんに反論する瑠璃。
その瑠璃の姿に益々顔から感情を消していくセリアさん。彼女ムキになっている。どうもセリアさんと瑠璃は相性がお世辞にも良いとはいえないようだ。
「そうですわね。キョウヤ、スズハ、私が良い店を知っています。今度一緒に行きましょう」
「了解」「う、うん」
即答する僕と躊躇いがちに頷く新田さん。
逆に瑠璃の笑みが三割ばかり増した。どうやら僕は幼馴染殿の地雷を踏んだらしい。
「そういや俺、近頃コンビニ弁当しか食ってねぇな。東京見物もしてみてぇし、それ俺も行くわ。なあ、お前も行くだろ、藤丸?」
「お、おう」
壬に藤丸が瑠璃を横目で見ながら、ドモリながらも同意する。
壬の奴、藤丸と意気投合し過ぎだろ。昨日何かあったのだろうか? そういやクラスの奴らが藤丸と壬が熱戦を繰り広げたと噂をしていたが……。
真白にたっぷりと疑問の籠った視線を向けると半眼で壬達をみつつも、両手の掌を肩付近まで持ってくる。
「あ~、ずり~、なら私も行く。真白と瑠璃も勿論行くよね? 月彦もでしょ?」
「はい、はい」
「うん!」
「当然だ。瑠璃さんが行くなら俺も行く」
真白の諦めがちの言葉に、元気よく頷く瑠璃、当然のごとく同意する月彦。
セリアさんもそっぽを向いてはいたが、拒否まではしなかった。彼女は本当に嫌ならきっぱり断るタイプだ。瑠璃の手前、このような態度を取らざるを得なかったのだろう。素直じゃない彼女らしい。
こうして話題は次に行く食事会へと変遷していく。
結局、来週の休みを利用し東京周辺でいくつかの店を回ることになった。そして僕の悪い予感は的中し、セリアさんの案の《お菓子の森》は女性陣の多数の賛成をもってあっさりと可決してしまった。
何とかなるだろ。多分……。
瑠璃と纏は真白が学校に持参してきた衣服の雑誌を見るべく一足先に食堂から出て行った。無論、月彦も瑠璃の後に続く。
対して壬と藤丸 は今流行りのネットゲームの話題で盛り上がっており、気が付くと姿を消している。
嵐のような時間は過ぎさり、ようやくいつもの僕、セリアさん、新田さんの面子だけになる。
「ごめんね、楠君、セリアちゃん」
「ん? 何が?」「何がですわ?」
急に頭を下げて来る新田さんに僕とセリアさんの言葉が綺麗にハモる。
新田さんはそんな僕らに苦笑しつつも、言葉を続ける。
「今日、私が強引に皆で食べるよう計画したから……」
そのことか。確かに驚きはしたが、別に新田さんに含むところなどない。
確かに藤丸と纏とは確執があったのは事実だ。
しかし、冷静に思い返してみれば、藤丸達は陸人やこの学校の糞生徒共と異なり、僕への執拗な攻撃を仕掛けてこなかった。七宝家の糞教頭と葛城家の腐れ外道に日々執拗にいたぶられたため、冷静な判断ができなかった。そういうことなのかもしれない。無論、当面は気を許す気が毛頭ないが、奴らが七宝家と葛城家だからという理由だけで、その人格まで否定する気は今の僕には更々なくなっている。これは少し前までの僕にはあり得ない考えだが、後ろ向きのネガティブ思考よりよほどいい。
何よりも瑠璃と表面上だけでも和解したのは大きい。幼馴染のあの泣いている姿は想像以上に僕の心を打ちのめした。内心を正直に独白すれば、二度と瑠璃のあの姿だけは見たくない。その意味では逆に僕の方が何度頭を下げても足りないくらいだ。
「いや、ありがとう、新田さん」
「私も気にしていませんわ」
これはセリアさんの本心だろう。
セリアさんは人見知りでとっつきはにくいが、協調性はある。そのセリアさんがこうも、瑠璃と衝突するのは、お互いそりが合わないだけの理由では到底説明し得ない。十中八九、彼女のこの態度は僕らのせいだ。彼女にとって倖月家は僕や新田さんをいたぶる敵にカテゴライズされている。瑠璃はその倖月家のお姫様だ。セリアさんとしては絶対に打ち解けるわけにはいかなかったのだろう。
「いつもありがとう、セリアさん」
「わ、私は別に……」
ホオズキの様に顔を真っ赤に染めつつ、金色の髪を手で忙しなくいじくるセリアさんと、生温かな視線を僕らに向けてくる新田さん。
春の雲一つない晴天の日の陽だまりのようにポカポカと身体の芯が暖かくなる。まさかこのゴミクズのような高校でこんな気持ちを味わえるとは思わなかった。
当初、この明神高校での生活は僕にとって治安の悪いスラム街に等しく、脱出のみが僕の夢であり、希望だった。今もその気持ちが大勢だ。
だが、こんな学園生活も悪くない。そんな僅かな不純物が僕の心に混じっていることをこのとき僕ははっきりと自覚したのだ。
お昼となり、僕、楠恭弥は食堂1階の《掃きだめの食卓》で昼食をとっているわけだが、さっきから同じ自問自答をしきりに繰り返している。
誰でもいい。この不可解極まりない事態をどうか説明して欲しい。
まあ、衆人環視の目に晒され、客寄せパンダの状態となった僕らに答えてくれるものなどいやしないわけだが。
「壬、ケチャップを取ってくれ」
「ああ、ほらよ」
壬から《掃きだめの食卓》特製のケチャップを受け取った藤丸がホットドックにつけると齧り付く。
「これ美味いな。この味でこの値段、反則だろう。馬鹿馬鹿しくて上階で食う気なくすぞ」
今日の献立は一転してファーストフードのオンパレードだった。
ホットドックに、カツサンド、ハンバーガー、フライドポテトに、チキンバスケット。山盛りに積まれた皿から自身で好きなだけ取って食べるバイキング法式。これで260円だ。育ちざかりの学生にとっては笑いが止まらない値段のはずだ。
決まってこの手のバイキング料理は不味いのが定番なのだが、頬が落ちそうなほど美味い。おばさん、ファーストフードの方が得意なのかもしれない。これだけは、《森の食卓》に迫るほどの美味さがあった。
「美味しいねぇ~」
幸せそうにハンバーガーを頬張る瑠璃に、にゃははと笑いながら、がつがつと口に放り込む纏。さらに、一言も話さず黙々と食べている月彦。
そんな皆をみて満足そうに頷く新田さん。彼女のこの姿から察するにこの摩訶不思議な現象の作戦立案者は多分新田さんだ。
「お高くとまった倖月がファーストフードを知っていること自体、意外ですわ」
セリアさんの棘のある言葉にムッと一瞬顔を顰めるが、にっこりと微笑を浮かべる瑠璃。伊達に幼馴染などやっていない。瑠璃がこの手の顔をするときは大抵マズイときだ。
「私こそ、アーチボルド家の御息女なら、高い料理ばかり食べてると思ったよ」
「まさかですわ。高価なものが良いなど幻想にすぎませんもの。
私は自身の感性しか信じません。貴方達と違い自ら足を運び、目で見て、触れて、食べて判断しますわ」
「それなら――私も昔よく、街に食べにいったよ(キョウ君がよく連れて行ってくれたし)」
チラッと僕を見るとセリアさんに反論する瑠璃。
その瑠璃の姿に益々顔から感情を消していくセリアさん。彼女ムキになっている。どうもセリアさんと瑠璃は相性がお世辞にも良いとはいえないようだ。
「そうですわね。キョウヤ、スズハ、私が良い店を知っています。今度一緒に行きましょう」
「了解」「う、うん」
即答する僕と躊躇いがちに頷く新田さん。
逆に瑠璃の笑みが三割ばかり増した。どうやら僕は幼馴染殿の地雷を踏んだらしい。
「そういや俺、近頃コンビニ弁当しか食ってねぇな。東京見物もしてみてぇし、それ俺も行くわ。なあ、お前も行くだろ、藤丸?」
「お、おう」
壬に藤丸が瑠璃を横目で見ながら、ドモリながらも同意する。
壬の奴、藤丸と意気投合し過ぎだろ。昨日何かあったのだろうか? そういやクラスの奴らが藤丸と壬が熱戦を繰り広げたと噂をしていたが……。
真白にたっぷりと疑問の籠った視線を向けると半眼で壬達をみつつも、両手の掌を肩付近まで持ってくる。
「あ~、ずり~、なら私も行く。真白と瑠璃も勿論行くよね? 月彦もでしょ?」
「はい、はい」
「うん!」
「当然だ。瑠璃さんが行くなら俺も行く」
真白の諦めがちの言葉に、元気よく頷く瑠璃、当然のごとく同意する月彦。
セリアさんもそっぽを向いてはいたが、拒否まではしなかった。彼女は本当に嫌ならきっぱり断るタイプだ。瑠璃の手前、このような態度を取らざるを得なかったのだろう。素直じゃない彼女らしい。
こうして話題は次に行く食事会へと変遷していく。
結局、来週の休みを利用し東京周辺でいくつかの店を回ることになった。そして僕の悪い予感は的中し、セリアさんの案の《お菓子の森》は女性陣の多数の賛成をもってあっさりと可決してしまった。
何とかなるだろ。多分……。
瑠璃と纏は真白が学校に持参してきた衣服の雑誌を見るべく一足先に食堂から出て行った。無論、月彦も瑠璃の後に続く。
対して壬と藤丸 は今流行りのネットゲームの話題で盛り上がっており、気が付くと姿を消している。
嵐のような時間は過ぎさり、ようやくいつもの僕、セリアさん、新田さんの面子だけになる。
「ごめんね、楠君、セリアちゃん」
「ん? 何が?」「何がですわ?」
急に頭を下げて来る新田さんに僕とセリアさんの言葉が綺麗にハモる。
新田さんはそんな僕らに苦笑しつつも、言葉を続ける。
「今日、私が強引に皆で食べるよう計画したから……」
そのことか。確かに驚きはしたが、別に新田さんに含むところなどない。
確かに藤丸と纏とは確執があったのは事実だ。
しかし、冷静に思い返してみれば、藤丸達は陸人やこの学校の糞生徒共と異なり、僕への執拗な攻撃を仕掛けてこなかった。七宝家の糞教頭と葛城家の腐れ外道に日々執拗にいたぶられたため、冷静な判断ができなかった。そういうことなのかもしれない。無論、当面は気を許す気が毛頭ないが、奴らが七宝家と葛城家だからという理由だけで、その人格まで否定する気は今の僕には更々なくなっている。これは少し前までの僕にはあり得ない考えだが、後ろ向きのネガティブ思考よりよほどいい。
何よりも瑠璃と表面上だけでも和解したのは大きい。幼馴染のあの泣いている姿は想像以上に僕の心を打ちのめした。内心を正直に独白すれば、二度と瑠璃のあの姿だけは見たくない。その意味では逆に僕の方が何度頭を下げても足りないくらいだ。
「いや、ありがとう、新田さん」
「私も気にしていませんわ」
これはセリアさんの本心だろう。
セリアさんは人見知りでとっつきはにくいが、協調性はある。そのセリアさんがこうも、瑠璃と衝突するのは、お互いそりが合わないだけの理由では到底説明し得ない。十中八九、彼女のこの態度は僕らのせいだ。彼女にとって倖月家は僕や新田さんをいたぶる敵にカテゴライズされている。瑠璃はその倖月家のお姫様だ。セリアさんとしては絶対に打ち解けるわけにはいかなかったのだろう。
「いつもありがとう、セリアさん」
「わ、私は別に……」
ホオズキの様に顔を真っ赤に染めつつ、金色の髪を手で忙しなくいじくるセリアさんと、生温かな視線を僕らに向けてくる新田さん。
春の雲一つない晴天の日の陽だまりのようにポカポカと身体の芯が暖かくなる。まさかこのゴミクズのような高校でこんな気持ちを味わえるとは思わなかった。
当初、この明神高校での生活は僕にとって治安の悪いスラム街に等しく、脱出のみが僕の夢であり、希望だった。今もその気持ちが大勢だ。
だが、こんな学園生活も悪くない。そんな僅かな不純物が僕の心に混じっていることをこのとき僕ははっきりと自覚したのだ。
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