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第2章 地球活動編
第136話 反撃の狼煙 二節 聖者襲撃編
しおりを挟む隣の部屋に入ると、一斉に僕に視線が集中する。
一同、恐怖と期待が混在した表情で僕を注視してくる。
「僕から貴方達への提案は一つだけ。我らがギルド――《妖精の森》に加入するか否か」
「《妖精の森》! そうかライト、あんたが、あの……」
壬が口端を上げながら呟き始める。
「ギルド? 《妖精の森》? 儂には何のことだかちんぷんかんぷんじゃ。壬、それは何なのだ?」
お婆さんに尋ねられた壬が口を開く前に、真白が興奮で顔を赤らめながら、即答する。
「新興の魔術結社よ。ほらテレビで不磨商事の事件やってたでしょ?
当時、不磨商事と手を組んでいた血の吐息の幹部と《ナンバーズゲーム》で勝利したのが《妖精の森》」
「しかし、相手は不磨商事などという俗物ではなく、あの和泉家ぞ?」
スキンヘッドのおっさん盤井さんが、躊躇いがちに誰に問うでもなしに疑問を口にする。
「違うぜ、盤井のおっちゃん。違うのさ。俺達が《妖精の森》を特別視している理由は他にある。というか、あの映像を見れば一目瞭然だ」
「だから何だ? 壬坊、勿体つけんでさっさと話せ」
「禁術さ」
「禁術を、使ってたのか?」
「その通りだ。ただし、小学校低学年くらいの餓鬼がだが」
「「「「……」」」」
絶句。この場の雰囲気はこの二文字が相応しかろう。
禁術は魔術師にとっての真理の到達点に等しい。一度発動すれば、組織どころか、一都市さえ崩壊しかねない破壊の象徴。大国が涎を垂らして欲する奇跡の結晶。
僕らのギルドでは最近できた修練所で児童が平気で禁術をぶっぱなしているから、感覚がかなり麻痺しているが、本来そういう類のものだ。
「僕らのギルドに加入すれば、貴方達は僕らの家族だ。全力で支援させてもらいます。無論、和泉家も黙らせるし、審議会への交渉も僕らの方で引き受けましょう。
でも貴方達が加入する選択をした場合、試験を受けてもらいます」
「試験……?」
消え入りそうな声で尋ねて来る真白のお父さん、道夫さん。
「ええ、この村を支配してきた天族と、もうじき攻め込んでくる和泉家の殲滅部隊を撃退してもらいます」
「そ、そんなの無理に決まって――」
「確かに、今のままでは無理でしょう。でも僕らが力を貸せば可能です」
「そうか、お前さん達はそういう組織か……」
僕らは他者を助けはする。だけど決して恵まない。あくまで運命を掴むのは己自身の力。そのこと自体に意味がある。そう信じるから。
「ご想像の通りです。我らのギルドに加入する以上、組織で相応しい役割を演じていただかなくてはならない。こんなのはほんの序の口です」
「儂は加入に賛成じゃ。どの道、儂らだけでも、やるつもりだったんじゃ。今更何を躊躇する?」
「その通り! 蛍ちゃんはライト君を信じた。なら俺達も信じるべきだろう!」
「同感じゃ、この数十年、散々な目に扱ってくれた畜生共に、十倍、いや百倍返しだ!」
次々に加入を肯定する言葉が飛び交う。
「決を採る。《妖精の森》の加入に賛成のもの手を上げよ」
お婆さんの言葉に一斉に右手が挙げられる。
お婆さんはグルリと見渡すと、口角を上げつつ僕に頭を下げてきた。
「儂ら、雨女河村は《妖精の森》への傘下に入ります」
「村人達の決は採らなくて大丈夫なので?」
「この雨女河村は女神共に支配される以前より、村の決まり事は儂ら村役員が決めておりましたでな。問題ありませぬ。それに村民達なら大丈夫ですじゃ」
それだけ村民達を信じていることか。なら問題は全て解決だ。
「それでは試験を始めましょう」
僕は【封神領域α】を発動し、村全体をすっぽり覆うように結界を張る。さらに、【封神領域α】の《解析能力(初級)》を発動し、村の全生命体の解析を行う。
四つのグループが感知できた。感知と言っても視認以外での解析だ。姿形などの詳細な風景は分からず、あくまで名前、レベルや種族を解析ができたに過ぎないが、それで十分な情報は得られる。
一つ目が神社のグループ。レベル691の天族――蜂瘡姫。それを取り囲んでいる《妖精の森》のメンバー。
捕縛された天族がいないのは既に他の空間にでも移送中なのだろう。
――南無。近い将来の奴等に降りかかる地獄に合掌しておく。
(思金神の奴、ぶっつけ本番で、新設された四番隊を実戦投入してきやがった。
それに――ステラとマリアさんは戦闘職じゃねぇだろ! 終わったら今度という今度はじっくりたっぷり話し合う必要がある)
ここで怒りに身を任せても意味はない。分析を続ける。
二つ目のグループは結界内に侵入したばかりの和泉家の殲滅部隊109名。驚いた事に、その中の一人はレベル300もいた。和泉家はかなり本気らしい。その方が失敗したときの絶望も大きい。構いはしない。
三つ目が、約一か所に集められ包囲された蜂子とかいう黒髪セミロングに指揮された天族50名のグループ。当然、包囲しているのはゴブ助さん達、小鬼(姿は児童)の集団。
四つ目のグループが、放送事務所に集まっている村人たち946名。
十分な数だ。村人全員に《超越者化》と《深淵魔道》を指定すればそれだけでも互角以上の戦いができる。
まずは村の主力戦力となる役員達から。村民はその後だ。
【封神領域α】の《超越者化》と《深淵魔道》を発動し、役員達を指定する。次いで、情報伝達で、《深淵魔道》の魔術の発動の仕方と、解析の使用方法、そして一時的にレベル150になったという事実を伝えた。
役員達の身体が光輝く。
役員達がポカーンと阿呆のように半口を開けているところからも、まだ半信半疑なのだろう。
老婆の一人が壁に近づき、拳を叩きつけると轟音を上げて壁が半壊してしまう。
「ホ、ホントじゃ。強くなっとる……」
老婆は自身の右腕を眺めつつも身体を震わせる。
「同化者のみが使える解析システムだと? 役員全員レベル150にする? 止めはレベル4までの魔術を使用可能となる。しかも、【お菓子魔術】って全部、禁術の稀有な魔術じゃねぇのか?」
滝のような汗を流しながらも、自分の世界に没頭する壬と、まるでバケモノを見るような視線を向けてくる真白。
(ふは、ふははは! 甘い。甘すぎるぞ、壬、真白ぉ! 仮にも僕ら《妖精の森》が補助すると宣言したのだ。こんなもので終わるはずがあるまい。特にレベル300の天族と和泉家の魔術師の対策は必須なのだから)
などと、心の中で昔の特撮映画にでてきそうな、悪組織の親玉のような高笑いをしつつ僕はあの二つのスキルを確認する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【終焉剣武Ω】
★説明:あらゆる世界の剣術の終であり、剣士の真の終着点。その初級。虚無10階梯までのあらゆる剣術・剣技を創造し、伝授可能。
大気中にある魔力を用いて刀剣を創造し操作することができる。創造した刀剣は時間が経過しても消失することはなく、刀剣の形態、大きさ、基本性能、特殊能力付与は発動者の意思によって随時自在に変化可能である。ただし創造しえる刀剣は混沌LV12までに限られる。ただし混沌LV11、12の刀剣の創造には発動者のMPを消費する。
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【終焉拳武Ω】
★説明::あらゆる世界の体術の終であり、拳士の真の終着点。その初級。虚無10階梯までのあらゆる体術・拳技を創造し、伝授可能。
大気中にある魔力を用いて籠手や軽鎧を創造することができる。創造した籠手や軽鎧は時間が経過しても消失することはなく、籠手や軽鎧の基本性能、特殊能力付与は発動者の意思によって随時自在に変化可能である。
ただし創造しえる籠手や軽鎧は混沌LV12までに限られる。ただし混沌LV11、12の籠手や軽鎧の創造には発動者のMPを消費する。
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彼らは思金神の選定者。奴が信用している以上、裏切られることはまずありえない。そんな危険な人物を思金神が選定するなど絶対にないからだ。なら、自重など一切無用だろう。
通常の人間でも、5~6個内なら、負担なくスキルを伝授可能だ。さらに、混沌LV12武具で完全装備してやろう。
虚無10階梯の極大スキルを複数持ち、混沌LV12武具で完全装備したレベル150。さて、どれほど奴等が抵抗できるかな。楽しみだ。実に滑稽で楽しい演武になることだろう。
僕は本来、この手の悪ふざけは嫌いじゃない。早く作ろう。
……
…………
………………
取りあえず、基礎スキルは決定した。複雑なスキルなど扱えるはずもない。だから、強力でシンプルをモットーにした。
伝授するのは次の二つだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【破壊剣術】
★説明:生命、物を破壊することを目的とした剣術。その初級。
・《武器・魔術道具破壊》:剣で切りつけた神級レベル8以下の全ての武具・魔術道具を破壊する。
・《行動破壊》:剣で切りつけた対象の《俊敏性》を、自身の《俊敏性》の半分だけ奪っていく。
★LV1:(0%/100%)
★ランク:虚無
★階梯:10
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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【鬼神武闘術】
★説明:神格を有する鬼種が修行の果て会得した体術。その初級。
・《柳柔術》:レベル400以下の攻撃を一切受け流す。
・《空瞬歩》:空を歩き、高速で駆けることができる。発動中、《俊敏性》が最大1.5倍。
★LV1:(0%/100%)
★ランク:虚無
★階梯:10
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
中々いい具合だと思う。
この作戦の目的は村民達による賊共の捕縛。必要なのは敵の弱体化と、防御能力の強化であり、殺傷能力は高くなくていい。
それでも《虚無》10階梯の剣術と体術の初級だ。その極悪さは半端じゃないわけだが。
一人ずつ、【破壊剣術】と【鬼神武闘術】を渡していく。受け取ると、役員達は自身のステータスを解析し例外なく絶句、呆然、歓喜という過程を経ていた。
壬の番になり【破壊剣術】と【鬼神武闘術】を伝授すると、頬を引き攣らせながら、躊躇いがちに口を開く。
「ライト、あんた一体……」
「そういや、まだ君らの拘束系の魔術道具の撤去がまだだったね。その君の右手に嵌っている【蛇縛】には混沌第七階梯以下のスキルを封じる効果しかない。当然、虚無第十階梯スキル【破壊剣術】を封じる効果などない。
何事も試しは必要。壬、僕の両腕にある【蛇縛】に《武器・魔術道具破壊》を使ってみなよ」
壬はポケットから小型のミリタリーナイフを取り出し、震える右手で握ると、僕の右手首に嵌められている腕輪に突きつける。
ガラスが粉々になる音と共に、【蛇縛】は粉々の破片まで分解されてしまう。
弾かれたかのように、僕の左手の腕輪、次いで壬自身の右腕の腕輪も破壊する。
「う、嘘だろ、仮にも神具だぞ? その紅の剣ならいざ知らず、ただのよく切れるにすぎない俺のナイフで破壊できるはずが……」
真白も壬からナイフを受け取ると、【蛇縛】を破壊する。
子供のように素直に喜んでいる役員達と比較し、壬と真白の顔は幽鬼のように真っ青だ。この反応の差は審議会に所属し、魔術というもの力をより正確に、深く理解している故だろう。
最後の真白のお父さん、滝道夫さんの番になるが、彼は首を左右に振る。
「わいは皆を、ライトはん、貴方を裏切った。それを貰うわけにはいきまへん」
この言葉からも、この度僕を嵌めた彼を思金神がこの戦闘から排除しない理由も明らかなのだが。
彼は確かに選択を誤った。だがそれも、部外者の僕と愛する人達を天秤にかけた結果だ。僕も沙耶という命より大切な存在がいる。《妖精の森》の家族がいる。
心を殺しても信念を守ろうとする者は組織には必要だ。しかし何を犠牲にしても家族を守ろうとする心も必要だと思う。それは僕らの最も純粋な気持ちのはずだから。
とは言え確かにケジメは必要だろう。
「わかりました。貴方は今ある力だけで僕の課す試練を突破していただきます。
それをもって貴方の全ての罪を許します」
この人には許す者が必要だ。その役は立場上、役員達にも村人たちにも不可能なことであり、この状況では僕しかできないこと。
「感謝します、ライトはん」
道夫さんは目尻に涙を溜めつつ、大きく頷く。
「ちなみに既に人質は全員無事僕らの方で保護しています。貴方の奥さんも無事でいらっしゃいますよ」
「ホンマ!?」
僕の両肩を両手で掴みグラグラと揺らす真白。素直じゃない奴だ。その泣きそうな様子からも、今まで気が気じゃなかったんだろう。
「そんなすぐばれる嘘をこのタイミングで僕がつくわけないだろ」
肩をすくめて微笑浮かべる僕。
「ほなら?」
「ああ、本当だよ。全員無事との報告を仲間から受けている」
「おおきに、ほんま、おおきに」
涙を留めなく流す真白の頭を撫でる。道夫さんも涙を流して頭を下げて来た。
【終焉剣武Ω】と【終焉拳武Ω】の武具創造の能力により、僕は道夫さん以外のこの部屋にいる人数分、所持者限定能力を付した混沌LV12の武器と防具を造り出す。
「この武具……神具? いや、違うぞ! これはもっと、もっとぉ!!」
遂に幽鬼状態を脱し、床に山のように積まれる武具を手にし、顔を真っ赤にして興奮する壬。
さて、お膳立ては全て終了した。次は村人、946名だ。
「僕は行く。壬、真白、君達の手で掴み取って見せろ!」
壬と真白の鉄石よりも硬い決意の籠った顔を目にすれば返答など聞く必要はない。
【封神領域α】で彼女のいる放送事務所三階まで移動する。
「ライトさん!」
蛍が僕に勢いよく抱きつき、顔を胸に押し付けて来る。
蛍は見事己の使命を遂げた。それは窓の外に見える村民達の姿を見れば明らかだ。
「偉いぞ、蛍」
右手で背中をポンポン叩き、左手で後頭部をそっと撫でると真っ赤になってさらに顔を僕の胸に埋める。
蛍が自身の役を演じきった以上、ここからは僕がバトンを受け取るべきだろう。
【封神領域α】で情報伝達先を役員達を含めた村人全員に設定する。これで言葉の一斉送信ができるはずだ。
「初めまして。僕は《妖精の森》のギルドマスター、楠恭弥」
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