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第2章 地球活動編
第67話 殲滅潜入(6) 藤原千鶴
しおりを挟む特殊能力による激突であった《化蛇》とエムプサとの闘いとは対照的に、モルモーと《崩壊王子》のバトルは純粋な魔術と武器を中心とした激突だった
モルモーの魔術は空間操作性の術。《崩壊王子》の《崩壊魔術》は全てモルモーを取り囲む異空間に吸い込まれてしまい到達はしない。
当然のことだが、空間系操作系の術は超越魔術の一つ。文字通り、距離を無効化する力だ。それだけでも勝敗など呆気なくついてしまう。しかもモルモーのこの術は空間に他の物質を取り込む力もあった。つまり、武具は勿論のこと人の身体さえも削り取って行く。そんな危険極まりない術だ。
《崩壊王子》は覚醒した後も防戦一方となる。かろうじて持ちこたえているのは黒姫の出鱈目の性能のおかげだろう。
もっともそれも時間の問題かもしれない。既に《崩壊王子》の身体は抉られ、削り取られていつ倒れてもおかしくはないのだから。
「くそ! くそ! くそぉ!!」
「諦めろ。お前達の死はこの施設に侵入した時点で決定している」
「ふざけんなぁ!!」
再度の崩壊因子をたっぷり含んだ数千の球体が出現しモルモーに殺到するも、モルモーの身体が消失する。
直後、《崩壊王子》の背後に移動したモルモーが、両手に持つモーニングスターで遠心力のたっぷり乗った一撃をその腹部目掛けて横凪に振り切る。
メキッ、メキッという嫌な音と共に《崩壊王子》の身体がクの字に曲がり、ボールのように高速で床を転がり壁に叩きつけられ轟音を上げる。
「ぐ……そぉ――」
瞬きをする間もなく、モルモーが壁に体ごとめり込んでいる《崩壊王子》の前でモーニングスターを振りかぶっていた。
このモルモーという吸血種。異様に戦い慣れしている。闘いの間中も常に千鶴達の動向に気を配りながら戦闘していた。
「終わりだ」
戦闘の終了を静かに宣言しモルモーはモーニングスターを持つ柄に力を籠める。
バキャッ!!
肉と骨が潰れるような音。モルモーの頭部が消失し、その首から鮮血が噴水のように広い床中にまき散らされる。糸の切れた人形のようにモルモーの身体はドサリッと床に落下する。
モルモーの亡骸の傍にはその頭部を右手で鷲掴みにした《ブライ》が佇んでいた。
ブライの呟きが微かに千鶴の耳にも入って来た。
「やはりか。この吸血種は頭部を破壊されれば死亡する。不死と言う訳ではない。そしてレベル四百中半にすぎん力。ならば大した脅威にはならん」
千鶴には全く動作さえ視認し得なかったが、状況からして《ブライ》がやったのだろう。
捜査資料では《ブライ》は極めて合理的な戦術を展開するとあった。その《ブライ》が今まで《化蛇》と《崩壊王子》のみに戦わせ、自ら動かなかったのは疑問だったのだが、ようやく合点がいった。事前に与えられた敵の情報との乖離を《化蛇》と《崩壊王子》の戦闘を通じて修正していたと思われる。
「万が一がある。念のため、砕いておくか」
グシャッ、ボキッ、ゴスッ、ドンッ、バキッ……ズシャ。
《ブライ》は胴体だけとなったモルモーの身体を踏みつけ粉々に破壊していく。耳障りな音だけが、50階の静まり返ったフロアに木霊する。
その光景に《第一級魔道特殊急襲部隊――MSAT》の隊員はおろか、あの傲岸不遜な《崩壊王子》すら、真っ青になっていた。
《ブライ》は《殲滅戦域》とは思えぬほど理性的であると評価していたが、改めなければならない。やはり《ブライ》も他の《殲滅戦域》と同じ血も涙もない怪物なのだ。気を許してはいけない。少なくとも無事、拉致された市民と子供達を地上に送り届けるまでは!!
「指揮官殿。先に進もう」
大きく頷くと、情けなく震える両脚に鞭を打ち皆に指示を出す。
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