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第2章 地球活動編

第98話 侵攻

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 闇帝国ダークエンパイアの首都――《オスクリタ》。オスクリタ皇堂
  
 スリーは牛歩のごとく前進する。早くなくていい。寧ろ、歩調が緩徐であることがより敵の戦闘意思を削ぎやすい。
 尊崇そんすうしてやまない我があるじがこの度スリーに命じた使命はたった一つ。
 スリーの力を以て《妖精の森スピリットフォーレスト》の力を彼奴きゃつらに示すこと。そう。抵抗の意思さえ生じる余地のない程の圧倒的な力を!
 
 スリーはつい先刻《妖精の森スピリットフォーレスト》に加入したばかりだ。
 それでもこの組織の途轍もない異常性について気付いていた。
 無論、この空飛ぶ船や、超常的機能を有する様々な魔術道具マジックアイテムにも驚いた。
 しかし、それらはあのアルスにも容易に造り出せる代物。アルスと同等の事ができるという時点で本来発狂ものだが、アルスをも超える器であるあるじが治める組織だ。この程度のものをそろえていることは驚くには値しない。
 真にスリーが驚嘆したのはこの組織の有する人材の豊富さにある。
 闇帝国ダークエンパイアとの戦争の作戦会議の会議室にいた面子は異様極まりなかった。 此奴らの大部分はスリーが生きた時代ならば、世界に名を残していた者ばかり。特に戦闘を司る近衛師団の幹部達は一柱、一柱が王として器があった。
 王に最も必要な資質はなんだ? 
 絶対的な軍事力? 否! そんなものは今の世では個人でも実現可能だ。
 他を類しない富? 否! 富は特に変遷し易い。現に大した富を持たないが歴史に名を遺した王をスリーはいくらでも上げる事ができる。
 いかなるものもひれ伏す超常の力? 否!! 断じて否!! 力だけで崇敬の念を集められれば世話はない。力を示すだけで民が憧憬の念を覚えれば世話はない。
 無論、最上の王達は超常的力を有することが多いのは認める。
 しかし、力あるだけの愚王も多いのも事実。この闇帝国ダークエンパイアの皇帝のように。
 王に必要なものはたった一つ。その危険なほどの幻惑で抗いがたい他者を惹きつける力。カリスマ性と言い換えてもよい。
 この点、我があるじのカリスマ性は尋常なものではない。これほどの存在はおそらく、世界の有史以来数柱しか存在しまい。そのあるじに甘い蜜に群がる虫達のように本来、魅了させる側の王の器を有する者達が集まっている。

(王達が集う桃源郷か。まっこと愉快、愉快!)

 不甲斐ない闇帝国ダークエンパイア兵士達の大半はスリーの魔力オーラと剣技に震えあがり、廊下の片隅で捨てられた子猫のように震えるのみ。
 お蔭でスリーは大した障害もなく皇帝がいる玉座の間までの道を歩くことができた。


 最上階の玉座の間前に到着する。
 地上、30階だけあり、結構な時間がかかってしまった。まあそれも本作戦の内。構いやしない。
 それよりも――。

「団長殿、あるじと作戦行動中では?」

 近衛師団の団長――リュウジ・カリヤが、スリーの背後から音もなく姿を現す。

「マスターの指示だ。お前との共闘を命じられた」

 まだほんの僅かしか関わっていないが、この男は根っからの武人だ。それは確信できた。
 それにあの王者の気質を持つ者達をまとめあげる者だ。ただの人間のはずはない。
 何より、この男にあるじは絶大の信頼を置いていることが会議室の僅かなやり取りでも読み取れた。
 実際に剣を交えたのだ。スリーの強さをあるじは十分に把握している。ならばあるじがスリーですら手に負えない異常事態が発生したということ。

「承知した」

 真の武人との間に余計な言葉など邪魔になるだけだ。
 王座の間の一際豪華な扉を大剣バスタードで細切れにし、部屋内へ入る。

                ◆
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闇帝国ダークエンパイアの首都――《オスクリタ》。オスクリタ皇堂
 玉座の間

 スリーとカリヤが玉座の間に足を踏み入れると一斉に兵士達は自身の持つ武器により牽制してきた。その武器を向ける手は小刻みに震えていたが、その目の奥には皆強烈な闘争心があった。
 この部屋にいる兵士は隅で蹲り震えている小鹿共ではない。己の矮小さを自覚しながらも、獅子に挑む一匹の狼。小鹿ではなく狼なら例え大した力を有しなくても全力で応じるのが武人の務め!
 スリーが大剣バスタードの剣先を上空へ突き上げる。
 前衛の兵士達が身構え、後衛の兵士が銃口の引き金トリガーに指を掛ける。
 そうこなくてはならない。無抵抗なものをただ蹂躙するなど興ざめも甚だしい。

「団長殿。こやつらは儂がやらせてもらう」

 カリヤは無言で視線を兵士達から皇帝へと向きかえる。許しは出た。

「お主らを儂の敵として認める。主のため、友のため、家族のため命賭けよ」

 大剣バスタードの握る右手に力を籠め――。

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