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第2章 地球活動編
第89話 不屈の決意
しおりを挟むドルパ大佐は《オスクリタ皇堂》の正門前に到着するも眼前に広がる惨状に暫し言葉がでなかった。
正門に配置されていたのは闇帝国でも精鋭に属する歴戦の戦士達。それが皆、魂が抜けたような虚ろな表情で地面に腰を下ろしている。
正門が開いている所から察するに、敵に敗北し突破された後と解すべきだろう。まあ、あの反則的な奴らが相手だ。驚くには値しない。
驚くべき要因は一つだけ。あまりに制圧が早すぎることだ。これは今のドルパの偽りのない本心だ。確かにドルパは敵と可能な限り遭遇しないように気を配りながら裏路地に身を隠しつつこの正門に到着した。それでもまだ大して時間は経過していないはずだ。それなのに総勢400近くの正規軍の精鋭は完全に無力化されていた。想像絶する制圧力といえるだろう。
兎も角、都合が良い事にドルパの邪魔をすると予想されたウド中佐もいない。
それにこれは戦争だ。ならば敵の目的は皇帝の首のはず。間違っても投獄されているルイズ様にはないはずだ。これほど易々と《オスクリタ皇堂》内への侵入を許したのだ。あのチキン皇帝なら全兵力を自身の所へ呼び寄せるはず。地下三階の独房の人員は本当に必要最低限になるだろう。
あらゆる意味で今がルイズ様を救出する最大にして最後のチャンスだ。無様に開いている正門をくぐり、《オスクリタ皇堂》内へ疾走する。
◆
◆
◆
憎き銀髪の吸血種とやらが出現し、皇帝達が力を獲得しルイズ様が幽閉されてから地下の独房に立ち入ること事態が原則禁止された。
今や皇帝直属の『闇部』と皇帝の勅命を受けた者以外いかなる者も足を踏み入れたことはない。
皇帝は幼い頃から仕えてきた兄弟同然の宰相を口答えしたという理由だけで殺害し、今のいけ好かない宰相へと挿げ替えたほどの外道。実の娘というだけではルイズ様に対する危害を加えないという保証はない。
もっとも、ドルパはルイズ様の無事を確信している。
ルイズ様は過去に見聞を広げるため第二王家――死国と第三王家――鮮血姫の都市に数年滞在していたことがあり、二王家の王族達から痛く気に入られている。
反乱鎮圧後、二王家は公正な裁判を経ずにルイズ様へ拷問等の危害を加えたならば以後一切の関係を切るとの声明を出している。これは事実上、ルイズ様に危害を加えることを条件に闇帝国に対し三下り半を突き付けたに等しい。
いくら皇帝やジャジャ皇太子が力を得たとしても、二王家を一度に敵に回す愚は犯すまい。
少なくとも公正な裁判とやらが終了するまではルイズ様の安全は保障されるはずだ。
ドルパが想像していた以上に闇帝国の戦況は劣勢らしく、《オスクリタ皇堂》内はドルパを拒む者はないに等しかった。全身を小刻みに震わせながら蹲る兵士達の脇を疾走する。
地下一階、地下二階へと階段を駆け下り、地下三階へと至る。
本来、ドルパを阻み聳えたつはずの扉は真夏の高温で溶けたチョコレートのように溶解していた。
ドルパの心の中に不安という名の拭い切れぬ影が雨雲のようにひろがっていく。
(どういうことだ……?)
地下三階に存在するのは政治犯と攫った人間達。
皇帝の方針転換により、人間達からの血液の購入がなくなり、裏社会の者達が多数攫われてこの地下三階へ閉じ込められるに至った。一言で表現すればそれは人間牧場。施設に閉じ込められ一生をそこで過ごすことになる。
もっとも国民には人間達は十分な食料や娯楽が与えられて快適な生活を送っていると説明している。あの外道皇帝が虫けら以下にしか考えていない人間にそんな慈悲をかけるわけはない。生きていくのに最低限の生活を送れているに過ぎないだろうが。
兎も角この場所は有事の際に戦術的な意味などない。
実際に一度相対したからわかる。奴らは極めて狡猾だ。絶対的に勝利する確信がない限り、戦争などしかけてはくるまい。
情報収取は戦争の中核であり鉄則。十中八九、戦場となる闇帝国の首都の委細の情報を収集しているはずだ。
だとすれば《オスクリタ皇堂》の地下三階には国家的罪人と捕縛された人間しかいないことが闇帝国の軍関係者に周知の事実である以上、奴らも掴んでいてしかるべきだ。
戦略的意味に乏しい独房の制圧など主要公共施設の占拠後になされれば十分なはず。今こうして攻め込む理由がわからない。
(いや、もはや考えても意味はない)
ドルパの使命はたった一つ。ルイズ様をこのクソッたれな国からお救いすること。それ以外はすべておまけ。やってやるさ。例えこの命が尽きようとも――。
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