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第2章 地球活動編
第55話 再会
しおりを挟む空港から電車を乗り継ぎ到着したのは原宿。
原宿の竹下通りをぶらつきながらも一年ぶりの東京の混雑しつつも活気のある雰囲気を満喫していた。
不磨商事が消滅した以上、東京の裏社会は御堂組の勢力範囲。原宿も東京である以上、茜が帰国していることにつき御堂組の幹部達の耳に入るのは時間の問題だろう。ばれれば確実に父と母の下まで強制送還される。
茜がこうも危険を冒しても原宿まで足を運んだのにも理由がある。日本での悪友と会うためだ。
まあそれ以外に久々の日本の雑踏をゆっくりと味わいたい事もあったわけであるが。
(へ~、こんなお店できたんだ……)
待ち合わせ場所であるスイーツ専門店に入る。
スイーツ店――『お菓子の森』は5階建てであり、レンガ造りの西洋風の洒落た建物だ。
ピカピカのフロアに女性趣味満載の装飾がなされた壁。
悪友からの情報では数日前に開店された店で出されるスイーツは頬が蕩けそうに美味しいらしい。開店と同時に甘い者好きの東京中の女性客のハートをがっちりと鷲掴みにして人気が爆発した。
こと食べ物と遊びに関する情報収集能力がやたら高い悪友によると開店数日でお昼時には行列ができる程らしい。
兎も角、見ただけで女性専用であり、男性が入るには抵抗がありそうな店だ。なのに――。
(は?)
店内は男性客で埋め尽くされていた。
いかにもホストのような夜のお仕事をしているようなスーツ姿の男性に、大学の体育会系のマッチョの男性、絵柄のTシャツによれた綿パンを身につけた丸眼鏡の小太りな男性。
どう控えめに言っても店の内装と客が調和していない。この異常の光景の理由も直ぐに判明する。
「いらっしゃいませ。
御一人様でしょうか?」
茜を出迎えてくれたウエイトレスの少女は純白の髪に非現実的に整った容姿に絶妙なプロポーション。おまけに透き通るような肌をしていた。まさに神がなし得た奇跡の造形美という奴だろうか。彼女の柔らかな微笑みは女性の茜でさえも心に熱が灯るほどだ。男性なら抵抗する事すら叶うまい。
「い、いえ……」
思わず言葉につまる茜。窓際の隅の席に座る少女が手を元気よくブンブン振っているのが視界に入る。
青みがかった短い髪に細身の身体。お腹が見えそうなTシャツに膝が裂けているジーパンを着こなしている。
まな板の様な貧相な胸も相まって一見男性のように見えるがれっきとした少女である。この少女が日暮鏡――茜の日本における小学校以来の親友である。
鏡のテーブルまで純白の髪の少女に案内され、その対面に座る。
「おひさ! 茜!」
「ええ、お久しぶり。とは言っても数日前に電話で話したばかりだけどね。
で? この惨状は?」
「面白いっしょ?」
歯を出してニッと笑う鏡。やっぱりか……昔からそうだ。この子の行動権利は至極単純明快。即ち、面白か否か。
もっとも鏡の面白いとの感性には正直いつもついていけないわけだが……。
「どこが!? 疎外感が半端じゃないわ!!」
茜は改めて周囲を観察する。
黒と白を基調とする可愛らしいメイド服を着たウエイトレスの美しい少女達が忙しなく各テーブルに色とりどりのスーツが盛りつけられた皿を運んでいる。
そんな彼女達の姿をテーブルに座る男共が魂が抜け出したようなうっとりした顔で見ている。とんでもなくシュールだ。
「そういわんでよぉ~。味はあたいが保障するからさ」
「味ねぇ……」
正直こんな魔境化した異様な場所で食べても味などしそうにもない。
だが今更注文もせず店を出るのも体裁が途轍もなく悪い。適当なものを注文しとっととこの隔絶された魔境かから離脱することにする。
「フォーレストスペシャル2つ」
鏡は茜の意思を確認すらすることなく黒色の闇夜の髪を腰まで垂らした絶世の美女に茜達の分のスイーツを注文する。
本来女性の王国のはずのスイーツ店に入り、動物園一人気のパンダの隣のケースの爬虫類に興味のある来園者のようなとびっきりの疎外感を味わったのは茜もこれが初めだ。
時よ、早く過ぎろと念じ続けて待つこと10分。ウエーブのかかった長い薄桃色の髪に、垂れ気味の目に小さな口。まさに完璧と言うほかない美しい少女が茜達のテーブルに2つのパフェをそっと置く。その宝石のような優しそうな碧眼で見つめられると女性の茜さえ頬を染める程だ。男祭りのこの状況も理解はできる。まあ許容はできないわけであるが……。
それにしてもこのスイーツ店は一体何なのだろう……店の店員は美女ばかり、そして純白の髪の少女、闇夜の髪の少女、ウエーブのかかった薄桃色髪の少女の3人は16年の人生の中で茜が日本、米国で目にしたどの女性よりも美しかった。
何よりこのテーブルに置かれた物体は?
普通のパフェの4~5倍はあるかと思われる器にスポンジとたっぷりのクリームと見たこともないお菓子達がてんこ盛り状態で飾りつけられている。
いくら何でもこれは多すぎやしないか? 今日は大食いコンテストでも開かれているのだろうか? それとも完食したら賞金等のイベントとか……。
鏡に非難をたっぷり含んだ視線を向けるが既にスプーンで掬ったお菓子達を口へと運んでいた。その幸せ一杯な顔につき鑑みるに今の鏡に何を言っても無駄だ。
そう言えば鏡は確か甘い物が苦手なはずではなかったか? 少なくとも茜は鏡と知り合ってから一度も彼女がスイーツを食べているところなど目にしてはいない。
考えすぎるところは茜の欠点の一つ。今はこの目の前の本能の赴くままに生きる少女を見習うべきなのかもしれない。まああくまで今だけだ。正直、鏡のように獣のような生き方は茜には決してできない。
自身の眼前にある山のように積まれたクリームの先端をスプーンで掬い口へと運ぶ。
(~~っ!!?)
途端、魂が飛びかけた。一瞬垣間見えた茜に手を振る父方の天国のおばあちゃんから背中を向けて全力疾走で逆走し、意識を妄想から現実へと引き戻す。
――美味い。
それしかこのスイーツを表現する上手い言葉見つからない。このクリーム、絶対にただの生クリームじゃない。
舌を刺激する優しい触感に、口の中に広がる茜の精神を蕩けさせるような甘味。
茜は夢中で口の中にパフェを放り込んだ。
「最高しょ?」
「……うん」
そんな事は一目瞭然だ。なぜなら先ほどまで茜の前にあった山のように盛られたパフェが綺麗さっぱりなくなっていたから。
鏡はニンマリと満足そうに笑みを作る。
恐らく気を使わせてしまったのだろう。親友の鏡には茜が今置かれている状況について何度か電話で相談に乗ってもらっている。
一度、父や母と離れ千葉に住む母方の祖父、祖母と一緒に暮らすように進めてくれたのは他ならない鏡だ。
このパフェには鏡なりの激励的意味が含まれているのかもしれない。
だから――。
「鏡」
「うん?」
「ありがとう」
「にひひ」
鏡は満足そうに顔をほころばせると、フォーレストスペシャルを再度注文する。
『まだ食うのかよ!!』と突っ込んだことは勘弁願いたい。
◆
◆
◆
「そ、それホントなの?」
「えへへ。驚いたでしょ?」
照れたように真っ赤になった頬を人差し指でカリカリと掻く鏡。
彼女から知らされた事実に茜は肝っ玉がひっくり返るほどの驚きを感じていた。
それもそうだろう。茜以上に男の気配から遠いと思っていた奇天烈少女が高校卒業と同時に結婚する予定らしいのだから。
しかもその相手が葛城家の御曹司。所謂玉の輿という奴だろうか?
「驚いたも何も――鏡って男に興味あったんだね?」
「ひ、ひどいにゃ。いくら何でも言い過ぎじゃね?」
つい本音が口から飛び出してしまう。
常に笑いだけで生きているような少女の突然のカミングアウトに少々、動揺してしまっていたようだ。
「ところでこれからどうする?
私としてはここの周辺を見て回った後、久々に渋谷あたりをぶらつきたいんだけど」
若干気まずくなった話題を強制的に終了させる。
兎も角、鏡が婚約したのだ。なら他ならない親友の門出だ。盛大に祝福しなければならない。
「了解~」
肩を竦めて席から立ち上がり店を出ようと受付へ向かう鏡。
「鏡!」
「ん?」
振り返る鏡に茜は心の底からの笑顔を浮かべる。
「おめでとう」
「サンキュウ……」
鏡は嬉しさと照れくささが混じりあった溶けそうな笑顔をその顔に浮かべつつも茜にただ一言だけ返した。
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お読みいただきありがとうございます。
でて来るウエイトレスの美女三人はキャス、雫、エリスです。
後にバイトをする経緯は説明いたします。
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