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第2章 地球活動編

第25話 死合後半の事情

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 遊馬あすま達2人の全滅の後、瑠璃、月彦、藤丸、七宝纏しちほうまとい、セリアさんは高度な連携をしつつも僕に挑んできた。
 瑠璃が後衛からのレベル4の白魔術。中衛の七宝纏しちほうまといの青魔術。前衛の藤丸の白魔術と月彦の特殊魔術。
 遂に七宝纏しちほうまといも前衛に加わり、奴らは僕に空爆のよう攻撃を仕掛けて来ている。
 確かに今の僕なら一瞬でこの戦闘ちゃばんを終わらすことが可能だ。
だがそんな気にはなれなかった。別にこの戦闘を舐めているわけではない。
寧ろ逆だ。戦闘ちゃばんとは言え自らの命すら武器にする藤丸達の攻撃に僕は心中大いに感服していた。
 それに奴らは棚から牡丹餅的に力を得た僕と比較し血の滲むような日々の鍛錬でこれほどの力を得たのだ。その力の強さをもっと実感していたかった。

 文句なしの特攻に近い連携に背後から僕を襲うセリアさん。
 そのセリアさんが握る光の大剣の威力は天と地のさほどステータスが離れている今の僕にでさえ傷をつけかねないほどの強度があった。
 もっともそれでもセリアさんの今の魔力では僕に与えるダメージはどう頑張っても掠り傷程度。僕には届かない。
 そうはいっても、彼らは遊馬あすま達同様、戦士だ。なら相応の敬意を払うべきだろう。

 セリアさんの光の大剣が僕の背中に到達する刹那、異空間からルインを取り出し腕だけ動かし受ける。
 光の大剣の放つ凄まじいエネルギーにより前衛の藤丸、月彦、七宝纏しちほうまといは床を壮絶にバウンドしながらもアリーナからスタンドへの移行部に聳え立つ壁に叩きつけられる。
 驚いたことに全員、傷はついていたが意識はあった。あの華奢な瑠璃など本来壁に壮絶に叩きつけられてもおかしくはない。それなのに倒れてすらおらず自身の短剣を僕に油断なく向けている。
 背中越しに振り返ると雷に打たれたように目を大きく見開いているセリアさんがいた。
 実に面白いものを見せてもらった。僕も全力で行かせてもらおう。
どの道、僕には瑠璃を積極的に傷つけることはできない。いくら僕が変質しようと倖月家と敵対しようとそれだけは絶対にできない。
 ならば今の状況に相応しい、とっておきの魔術が僕にはある。

「【終の白魔術Ω】」

 僕の頭の中には一冊の本が存在する。本のページをパラパラとめくり、その最終頁・・・を開く。

「白の世界」

 僕の言霊を契機に左手の掌に白い球体が生じ、それらが急速に広がっていく。
《白の世界》は白魔術レベル7の大魔術であり白魔術の真の意味での終着駅。
この純白の世界では敵は1秒ごとにステータスが特定の割合で減少していく。その減少分だけ発動者にそのステータスが割り振られる。
 さらに《白の世界》で発動者は全白魔術の効果を自在に発現・調節できる。そんな反則的発動者にとって全能な世界がこの《白の世界》だ。
 瑠璃、月彦、藤丸、七宝纏しちほうまとい、セリアさんから一秒ごとに300だけ魔力を100だけ筋力を失わせる。

 白の世界の発動から30秒後、最後のセリアさんの意識が失われ、この試験ちゃばんの幕は下りた。
 結果としては想像以上に瑠璃達は戦えた。
 特に瑠璃は白の世界でレベル3の青魔術である水破すいはを発動するなど最後まで粘った。この瑠璃の鬼気迫る姿は僕がよく知る彼女のものではない。瑠璃も僕と同様この《鳳凱祭ほうがいさい》で負けられない理由があるのかもしれない。まあどうでもよいことではあるが。
 
 時雨先生はこの度の一学年統一実技補充試験の第一次予選の通過者を自己申告制とした。つまりこれは事実上、通過したと申告しさえすれば無条件で予選を通過すること意味する。
 数時間前ならばこのような申告を認めればほぼ全員が予選を通過することになっていたはずだ。だが実際に第一次予選を通過したのは三分の一にも満たなかった。残りの三分二は仮初とはいえ命懸けとなる死合によほど肝が冷えたらしく棄権を選択したのだ。
 時雨先生が今日やりたかったことが薄っすらとだがわかった。要は覚悟のないものをふるい落としたかったのだろう。
 確かに《京覇高校》に時雨先生レベルがいる以上、この度の《鳳凱祭ほうがいさい》は真の命懸けになる。それを強制的に実感させるにはこのような茶番も必要不可欠なものなのかもしれない。
 
 明神高校の生徒達からは勿論、教師達にも先ほどの試合で壮絶に危険視扱いされた。僕の担任である阿知波梓あしなみあずさなど変装した僕が近づいただけで軽い悲鳴を上げたくらいだ。
 時雨先生の言では僕が仮面の男であることは学年主任クラス以上の者しか知らされていない。僕だと判明することを避けるためだと思われるが、この措置がなければ確実にばれていた。確かにやり過ぎた自覚はある。今後は自重しようと思う。
 ここまでは僕にとっても想定内の事実だ。多少予想から外れたのは時雨先生だろう。彼女は死合ちゃばんの後、未だかつてないほど神妙な顔で僕を凝視していた。そして僕に『今後実習にはでなくてよい』とのみ伝えてきた。
 僕はレベル200前後――世界序列1500番前後の者の動きしかしてはいない。つまり世界序列1000番内の時雨先生が脅威に感じるはずなどないのだ。とすれば、時雨先生のこの態度は僕の戦闘内容そのものにあるわけではあるまい。
 時雨先生は僕にとって明神高校で生活する上で欠かせない人物だ。信頼を損ねるのは僕としても不本意。
 それに僕としても汚物共の御守りなどどの道御免被る。丁度良いことかもしれない。
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