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第1章 異世界武者修行編
第107話 戦後交渉
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2082年8月31日(月曜日)19時34分 夏休み終了まで残り2日 エルフ国――ミュー首都――ファルス 大樹宮
竜化した北斗の姿を目にした帝国正規軍、諸侯軍は僕ら《妖精の森》を通して全面降伏の意思と会談の要請を伝えてきた。僕らに無駄に血を流す意思はない。彼らの降伏を受け入れる運びとなった。
《妖精の森》の代表者は僕と思金神、帝国戦待機中のステラの代わりに清十狼さんが出る。獣魔国からはキャス・シャルトさんとルーガさん、エルフ国ミューからはワイアット・ランバート戦士長と外交官・財務官がこの度の会談に出席することになった。
ちなみに本来、統治機関たるエルフ国ミュー長老会が国の代表を務めるべきなのだが、長老会は現在ファルス市民からの信頼を完全に失った状態だ。直に罷免請求される可能性が高い長老会は適切にエルフ国ミューの意思を代表とするとは言えない。故にワイアット戦士長に出席してもらったのだ。
対してオルト帝国軍の代表は諸侯軍最大の軍――ヤクシャナ領軍に所属するトビアス・ヤクシャナ。彼は30代後半の無精髭を生やしたシブメンのおじさんだ。
帝国正規軍幹部は全員捕縛され、以後帝国正規軍一般兵と共にトビアスさん達オルト帝国諸侯連合軍の統制を受けることになった。
ミューには帝国正規軍幹部の引き渡しを求める声が少なからずあったようだが、仮に認めれば見せしめに公開処刑でもされるのがおちだ。正規軍幹部達はやりすぎた。どの道、この戦争の責任をとって自国で何らかの処罰を受けるだろう。彼らが処刑されれば、責任を取るものがいなくなり、本来責任を取る必要のない者まで帝国内で処罰されることになりかねない。これが落としどころと言える。
こうして現在、ファルス大樹宮の豪奢な応接間でオルト帝国現皇帝排除後の方針につき話し合っているという訳だ。
「するとキョウヤ殿は我が国を支配するつもりはないと?」
「はあ。僕はあくまでギルドの長に過ぎませんから」
僕は一ギルドの長に過ぎず、そもそも他国を支配することなどできようはずもない。
だいたい、この部屋には獣魔国ラビラの女王――キャスさんとエルフ国ミューの代表――ワイアット戦士長がいる。支配されるのを危惧するなら僕ではなくラビラとミューの代表者に尋ねるべきだろう。僕はそれほど強欲にまみれた顔でもしているのだろうか。
僕の言葉に暫しトビアスさんは天井を見上げつつ髭をさすっていたが、再び僕に向き直る。
「一つお聞きしてもよろしいですかな?」
「構いませんよ。なんです?」
「貴方がこの戦争に介入しようと思った目的はなんです?」
僕がこの戦争に介入しようとした目的? そんなの決まってる。それがステラとアリスの望みだったからだ。それ以外にあり得ない。
「仲間が望んだからです」
「仲間が……望んだから?」
雷に打たれたように目を大きく開くトビアスさん。
帝国皇帝排除後、トビアスさん達諸侯によりオルト帝国の国内の財政が安定すれば、オルト帝国とも少なからず商取引がなされる。その際下手に僕らを危険視扱いされても面倒だ。この際だ。誤解は解いておくことにする
「そうです。だから僕らは――」
「なるほどな。読めぬわけだ。仲間の望みで大戦に介入するなど想像できるはずもない」
僕の言葉を遮るようにトビアスさんは右手の掌を顔に当てて暫し呟いた後僕に静かに頭を下げてきた。
「貴方がどういう御方か理解しました。
実を言いますとね。私は貴方があの皇帝と同類と考えておりました」
清十狼さんが額に青筋を立てながらも椅子を勢いよく立ち上がる。そんな清十狼さんをトビアスさんは右手を上げて制する。
「わかってますよ。仲間の望みで帝国に真正面から戦をしかけるくらいだ。貴方にとって皇帝の存在など空を飛ぶ羽虫に過ぎない。帝国の支配など端から眼中にすらありますまい」
それほど僕は自信過剰ではない。皇帝を一定の脅威とはみなしている。だからこそ今まで慎重に行動してきたのだ。僕や思金神は兎も角、大切な仲間達を傷づける可能性がある程度には。
だが別に訂正する意義も感じない。確かに僕が帝国の支配など全く興味がないのは事実だし。
「御理解いただけたようで、では僕らの提案を呑んでくださいますね?」
僕らの提案とは次の3つからなる。
一つ目、戦後のトビアスさん達諸侯を中心とした新しい政治体制、経済体制の確立。
二つ目、僕ら《妖精の森》の帝国領での自由な経済活動の許可。
三つ目、獣魔国ラビラ・エルフ国ミューと帝国との自由貿易の開始だ。
無論、あの思金神が仮にも敗者の帝国に何のペナルティーを設定しないわけもない。
僕ら《妖精の森》の帝国内で納める税金は利益の7%とし、さらに獣魔国ラビラ・エルフ国ミューの帝国領内でも貿易につき関税率を3者の協議で決めるとした。
「……我らにとって受け入れがたい事項もありますが、今は致し方ありませんな」
一ギルドに過ぎない《妖精の森》の帝国内で納める税金が利益の7%であることは兎も角、この関税率の設定は本来国の主権に属する事柄である。彼らにとってこの関税率協議の決定は不平等条約そのものだ。
とは言えその結果直ちに民が飢えるわけではない。当面彼らはこの不平等約の撤廃を最終目標として獣魔国ラビラ・エルフ国ミューと交渉をしていくことになるだろう。
トビアスさん達帝国諸侯軍との交渉が終了し、エルフ国ミューとの交渉へ入る。
交渉と言っても敵国たるオルト帝国とは異なり、ミューは同盟国だ。加えてエルフ国ミューの王が僕らのギルドのメンバーであるといった特殊な事情もない。
故に以下のことが決せられた。
・《妖精の森》のエルフ国ミュー国内で納める税金は利益の15%。
・獣魔国とエルフ国ミューとの自由貿易の開始。関税率は相互に5%。
対等の関係なのにかなり破格なのはエルフ国ミューが今回僕らの援軍により救われた恩故だろう。
竜化した北斗の姿を目にした帝国正規軍、諸侯軍は僕ら《妖精の森》を通して全面降伏の意思と会談の要請を伝えてきた。僕らに無駄に血を流す意思はない。彼らの降伏を受け入れる運びとなった。
《妖精の森》の代表者は僕と思金神、帝国戦待機中のステラの代わりに清十狼さんが出る。獣魔国からはキャス・シャルトさんとルーガさん、エルフ国ミューからはワイアット・ランバート戦士長と外交官・財務官がこの度の会談に出席することになった。
ちなみに本来、統治機関たるエルフ国ミュー長老会が国の代表を務めるべきなのだが、長老会は現在ファルス市民からの信頼を完全に失った状態だ。直に罷免請求される可能性が高い長老会は適切にエルフ国ミューの意思を代表とするとは言えない。故にワイアット戦士長に出席してもらったのだ。
対してオルト帝国軍の代表は諸侯軍最大の軍――ヤクシャナ領軍に所属するトビアス・ヤクシャナ。彼は30代後半の無精髭を生やしたシブメンのおじさんだ。
帝国正規軍幹部は全員捕縛され、以後帝国正規軍一般兵と共にトビアスさん達オルト帝国諸侯連合軍の統制を受けることになった。
ミューには帝国正規軍幹部の引き渡しを求める声が少なからずあったようだが、仮に認めれば見せしめに公開処刑でもされるのがおちだ。正規軍幹部達はやりすぎた。どの道、この戦争の責任をとって自国で何らかの処罰を受けるだろう。彼らが処刑されれば、責任を取るものがいなくなり、本来責任を取る必要のない者まで帝国内で処罰されることになりかねない。これが落としどころと言える。
こうして現在、ファルス大樹宮の豪奢な応接間でオルト帝国現皇帝排除後の方針につき話し合っているという訳だ。
「するとキョウヤ殿は我が国を支配するつもりはないと?」
「はあ。僕はあくまでギルドの長に過ぎませんから」
僕は一ギルドの長に過ぎず、そもそも他国を支配することなどできようはずもない。
だいたい、この部屋には獣魔国ラビラの女王――キャスさんとエルフ国ミューの代表――ワイアット戦士長がいる。支配されるのを危惧するなら僕ではなくラビラとミューの代表者に尋ねるべきだろう。僕はそれほど強欲にまみれた顔でもしているのだろうか。
僕の言葉に暫しトビアスさんは天井を見上げつつ髭をさすっていたが、再び僕に向き直る。
「一つお聞きしてもよろしいですかな?」
「構いませんよ。なんです?」
「貴方がこの戦争に介入しようと思った目的はなんです?」
僕がこの戦争に介入しようとした目的? そんなの決まってる。それがステラとアリスの望みだったからだ。それ以外にあり得ない。
「仲間が望んだからです」
「仲間が……望んだから?」
雷に打たれたように目を大きく開くトビアスさん。
帝国皇帝排除後、トビアスさん達諸侯によりオルト帝国の国内の財政が安定すれば、オルト帝国とも少なからず商取引がなされる。その際下手に僕らを危険視扱いされても面倒だ。この際だ。誤解は解いておくことにする
「そうです。だから僕らは――」
「なるほどな。読めぬわけだ。仲間の望みで大戦に介入するなど想像できるはずもない」
僕の言葉を遮るようにトビアスさんは右手の掌を顔に当てて暫し呟いた後僕に静かに頭を下げてきた。
「貴方がどういう御方か理解しました。
実を言いますとね。私は貴方があの皇帝と同類と考えておりました」
清十狼さんが額に青筋を立てながらも椅子を勢いよく立ち上がる。そんな清十狼さんをトビアスさんは右手を上げて制する。
「わかってますよ。仲間の望みで帝国に真正面から戦をしかけるくらいだ。貴方にとって皇帝の存在など空を飛ぶ羽虫に過ぎない。帝国の支配など端から眼中にすらありますまい」
それほど僕は自信過剰ではない。皇帝を一定の脅威とはみなしている。だからこそ今まで慎重に行動してきたのだ。僕や思金神は兎も角、大切な仲間達を傷づける可能性がある程度には。
だが別に訂正する意義も感じない。確かに僕が帝国の支配など全く興味がないのは事実だし。
「御理解いただけたようで、では僕らの提案を呑んでくださいますね?」
僕らの提案とは次の3つからなる。
一つ目、戦後のトビアスさん達諸侯を中心とした新しい政治体制、経済体制の確立。
二つ目、僕ら《妖精の森》の帝国領での自由な経済活動の許可。
三つ目、獣魔国ラビラ・エルフ国ミューと帝国との自由貿易の開始だ。
無論、あの思金神が仮にも敗者の帝国に何のペナルティーを設定しないわけもない。
僕ら《妖精の森》の帝国内で納める税金は利益の7%とし、さらに獣魔国ラビラ・エルフ国ミューの帝国領内でも貿易につき関税率を3者の協議で決めるとした。
「……我らにとって受け入れがたい事項もありますが、今は致し方ありませんな」
一ギルドに過ぎない《妖精の森》の帝国内で納める税金が利益の7%であることは兎も角、この関税率の設定は本来国の主権に属する事柄である。彼らにとってこの関税率協議の決定は不平等条約そのものだ。
とは言えその結果直ちに民が飢えるわけではない。当面彼らはこの不平等約の撤廃を最終目標として獣魔国ラビラ・エルフ国ミューと交渉をしていくことになるだろう。
トビアスさん達帝国諸侯軍との交渉が終了し、エルフ国ミューとの交渉へ入る。
交渉と言っても敵国たるオルト帝国とは異なり、ミューは同盟国だ。加えてエルフ国ミューの王が僕らのギルドのメンバーであるといった特殊な事情もない。
故に以下のことが決せられた。
・《妖精の森》のエルフ国ミュー国内で納める税金は利益の15%。
・獣魔国とエルフ国ミューとの自由貿易の開始。関税率は相互に5%。
対等の関係なのにかなり破格なのはエルフ国ミューが今回僕らの援軍により救われた恩故だろう。
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