扇丸逐電す

武蔵守政元

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第八話 扇丸vs梟聞坊

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「青いの……。実に青臭い……」
 細かい舌打ちを繰り返す合間合間に、すんすんと鼻を鳴らしながら梟聞坊が呟く。
 六十がらみで白髪の伸びた坊主頭、木綿の道服どうふくに身を包んだ姿は見るからに粗末で、僧形に由来するありがたみとは無縁。却って近寄りがたい凶相さえ帯びている。
 翻って扇丸はといえば、二戦立て続けに勝利を勝ち取って、なにかコツでも掴んだような思いのところに、なんと目の見えない難敵の出現。並の侍であれば相手が全盲であることにつけ込んで打ちかかろうというところ、扇丸は却って攻め手を失い、青ざめて立ち尽くすばかりだ。
 しかも悪いことに、梟聞坊は細かく打ち鳴らす舌打ちの反響によって扇丸の身形が小さいことや、「青臭い」と評する体臭からその武力のほど、果ては年のころまでも正確に測っているであろうことが読み取れた。
 だが扇丸の逡巡は一瞬であった。
 これまで縷々繰り返してきたとおり、扇丸には武力は皆無であった。飢饉で父母を失い、新たな後ろ盾を得るべく武芸大会に出場を決めたほどの現実主義者が、いまになって自分が持たないなにか武力めいたものを頼りにするほど浮世離れしているわけがない。
 扇丸はこれまでもそうしてきたように、開戦劈頭から腰帯を解いて白い柔肌を露わにしたのであった。
「なるほど、そういうことか……」
 にやり、と不敵に口角を上げる梟聞坊。
 桐島の首脳陣は瞠目した。ひと太刀振るえば扇丸を断ち切るのにごうも苦労しないだろうくだんの長脇差を梟聞坊が捨てたからである。
「武によらず色香によって敵を籠絡し、敵ではなくする策か。若年にして見上げた武の心得であるが、わしとてその方面で心得がないわけではない。
 やいばによってそなたを断ち切るなど造作もないが、そなたの得手とするわざで優ってこその勝利。
 これまで幾多の菊門を割れた石榴ざくろの如くしてきた業物ごうもの。よもやこのような場で使うことになるとは思いもよらなんだわ」
 梟聞坊はそのように呼ばわると、屹立して太くたくましくなったモノを露わにした。
「無理じゃろアレは!」
 鞍山禅師の狼狽したような声が、その凶悪な様子を物語っている。
 これには表情を引きつらせる扇丸。
 しかし意を決したように、強い眼差しで扇丸は言った。
「おいら逃げないよ」
 扇丸は猛然と梟聞坊をしゃぶり始めた。それは唾液によって滑りをよくし、円滑に肛姦する目的以外に、間もなく肛姦に及ぶことを自らの体に知らしめる意味もあった。直腸内壁から腸液を分泌させ、潤滑剤の足しにしようというのである。その証拠に、蹲踞の姿勢で梟聞坊のモノをしゃぶる扇町の肛門から、黄濁した腸液がぶしゅっ、ぶしゅっと断続的に噴出したのであった。
「おぶッ! ぶふ~ッ!!」
 梟聞坊の尖端が喉奧を突くたびに扇丸が激しく嘔吐えづく。そんな扇丸を逃すまいと、その頭を押さえつけて押し付ける梟聞坊。
「うぼぉッ!」
 ついに堪えきれず扇丸が吐き戻した。梟聞坊のモノによって出口を局限された扇丸の吐瀉物は、その両鼻孔からも激しく噴出した。
「がぼッ! うげぇぇッ!」
 拘束を解かれた扇丸がなおも吐き戻す。
 苦しげな扇丸に梟聞坊は訊ねた。
「続けるか扇丸とやら」
 降伏勧告である。
 扇丸は答えなかった。答えなかった代わりに、自らの吐瀉物にまみれた梟聞坊を再び咥え込んだ。
「まだやるというのか。ぐふふ、よかろう」
 梟聞坊は容赦なく怒張した逸物を押し付けた。嘔吐く扇丸の頬を涙が伝う。
 その眉をひそめた懸命の瞳と、頬を伝う涙は極めて煽情的であった。見る者が見れば、そのような表情でしゃぶられただけで果ててしまうほど淫靡な扇丸の表情であったが、いかんせん全盲の梟聞坊、表情ひとつでどうこうできる生やさしい相手ではない。それはさながら、全盲という一見してハンデとしか思われぬ障碍が、梟聞坊にとってすべて良い方向に作用しているかのように見えて、勝敗を案ずる者にとっては絶望的ですらあった。
 あまつさえ
「ではそろそろ挿入といくか」
 と梟聞坊に主導権を握られているほどだから、扇丸の不利は明らかだ。
「おふぅ……、んあぁッ……!」
 梟聞坊の凶悪なモノを呑み込むべく力を抜き、それとともに声を漏らす扇丸。漏れたのは声だけではなかった。下半身から力みを抜いたため、期せずして小便をも漏らしてしまった扇丸。
「そなた、いま小便を漏らしたな?」
 目が見えない分、嗅覚や聴覚が常人に及ばぬほど鋭敏なのであろう。扇丸の粗相を指摘した梟聞坊はことのほか興奮気味であった。
「お歴々の面前で粗相とは許しがたし! 旁々かたがたに成り代わり懲らしめてくれる!」
 梟聞坊は猛然とピストン運動を開始した。扇丸の背後から、その両手首を掴んでの後櫓うしろやぐらである。
 さらに梟聞坊は仰向けとなった。まるで扇丸の痴態を桐島家の人々に曝すように、背面騎乗位(性典『大江戸四十八手』に記すところのいわゆる『月見茶臼』)に捉え直す。
 梟聞坊のソレによって、下から激しく突き上げられれば扇丸は、
「はひっ、はひっ」
 と瞳を白黒させるばかりだ。
 扇丸の白い脚が強張って伸びる。肛門を震央とした悦楽の波が爪先にまで達し、その出口を求めるものの如くピンと開く足指。
 不意に、梟聞坊が扇丸の両脚を抱えて業物を抜いた。
 ぱっくり開いた扇丸の肛門。もともと鮮やかな紅色を呈していた直腸内壁が、梟聞坊との激しい摩擦によって赤みを増している。湯気も立ち上らんばかりに汗だくの扇丸。半開きの眼にぐったりした肢体。
 ただひとつ、良いところを衝かれて屹立するその逸物だけが、小さいながらに未だ闘志を失っていないことを静かに物語るだけであった。
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