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第十二話 結城七郎に義尚を寝取られた彦次郎
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胸の奥が冷たくなるという感覚を、彦次郎は生まれて初めて味わっていた。
閉め切られた一室とはいえ、簡易な建具で仕切られた一画から響くのは、さぞかし激しく交わっているだろう男の喘ぎ声。
それが耳慣れない男娼の声だというのなら嫉妬に狂えば良いだけの話であったが、聞こえてくるそれは明らかに愛する主人、義尚の激しく喘ぐ声だ。
「ほぉッ! ひぐッ! もっとおぉぉぉ……!」
嫉妬ではなく混乱に見舞われる彦次郎。
「大樹(将軍)ともあろうお方が情けないお声をお出しになる。さあ、子種を差し上げましょうぞ!」
知らない男の声だ。
声は続けて聞こえてきた。
「ほうら! その口で受け止めなされ!」
彦次郎はこの一画を覗き見る勇気はなかったが、聞こえてくる言葉をそのまま解釈すれば、男は将軍たる義尚の菊門を貫いて、精を義尚の口に向けて放ったようであった。
彦次郎は義尚の飲酒を諫言しようという事前の決意も忘れて一室の前に凍り付いていた。
ただひたすら、茫然自失……。
一室からはしばらく激しい息づかいが聞こえていたが、次第にそれも聞こえなくなった。
どれほどの時間が経ったか知れない。
その時である。
室内から男の声が聞こえてきた。
「彦次郎か。そこにいるのは彦次郎だな」
どうやら存在を気取られたらしい。
呼びかけられた彦次郎が全身をびくつかせるほど驚愕する。
「え……あ……あああ」
呼びかけられはしたが、どう答えて良いやら分からない。
男は続けた。
「入ってこい彦次郎」
入りたい。
入って見たい。
日頃、彦次郎がそうされているように肛門を貫かれ、知らない者の精液で汚された情けない義尚の姿を見たい!
その義尚の姿を想像しただけで、彦次郎の逸物は小さいなりにはち切れんばかりに怒張した。
しかしそれは同時に恐怖でもあった。
彦次郎がどうあがいても義尚に与えられない快楽を、自分の見も知らぬ男が義尚に与えているのかと思うと、彦次郎はそれこそ嫉妬のために発狂してしまいかねなかったからであった。
一瞬のうちに様々な考えが頭を過ぎって動けなくなった彦次郎に焦れたのか、男は自らがらりと戸を開けた。
戸が開かれると同時に彦次郎を襲ったのは猛烈な臭気であった。
濃い湿気が精の生臭さを内包しながら彦次郎の鼻腔を通過し、脳髄のなかの、本能を司る部分に直撃したかのような衝撃。
次いで視覚。
彦次郎が男を見上げた。
軍旅を発したあの日、義尚に抱かれる白昼夢を見ながら馬上で人知れず粗相した彦次郎を、嘲うかのように見詰めていた武者である。その肉体は、未だ少年特有の柔らかさを残す義尚のそれとは打って変わって、彦次郎が看破したとおり、鍛え上げられた侍そのものの肉体であった。
その逸物が、彦次郎の眼前で天を衝くばかりにいきり勃っている。
これが……、これが愛する義尚を貫いた業物なのか……!
そして彦次郎は見た。
白目を剥き、だらしなく舌を垂らしながら俯せに伏せっている義尚の姿を。
世上から緑髪と称された美しい黒髪を、整った顔立ちは、白濁した粘性の強い汁に塗れ、浮いたあばらと打って変わって底だけは肉厚な尻たぶの奥にある後孔はぽっかりと口を開いたまま、義尚は正気を失っていた。
これがあの凜々しき征夷大将軍の真の姿だというのか。
「義尚様! 義尚様しっかりなされませ!」
彦次郎が義尚に駆け寄りその身を揺する。
燭台に照らされたその身体に近付いてみれば、全身を覆う黄疸。以前と比較して症状は明らかに悪化していた。
彦次郎は男に向き直って言った。
「そなた何者か知らぬが、公方様と知っての狼藉、断じて許し難い!」
もとより武道の心得に欠ける彦次郎であり、人を斬ったこともない身ではあったが、士分として取り立てられ帯刀しているうえは、彦次郎はこの狼藉者をこの場で斬って捨ててしまわなければならなかった。
決然その切っ先を男に向ける彦次郎。
しかし男は手練の技で一瞬にして彦次郎から得物を奪い去ってしまった。
丸腰の彦次郎。
翻って男はといえば、素手でも容易に彦次郎を打ち殺し得るだろう強敵である。しかし彦次郎は義尚のためであればそうなってしまっても構わないと覚悟を定めた。
閉め切られた一室とはいえ、簡易な建具で仕切られた一画から響くのは、さぞかし激しく交わっているだろう男の喘ぎ声。
それが耳慣れない男娼の声だというのなら嫉妬に狂えば良いだけの話であったが、聞こえてくるそれは明らかに愛する主人、義尚の激しく喘ぐ声だ。
「ほぉッ! ひぐッ! もっとおぉぉぉ……!」
嫉妬ではなく混乱に見舞われる彦次郎。
「大樹(将軍)ともあろうお方が情けないお声をお出しになる。さあ、子種を差し上げましょうぞ!」
知らない男の声だ。
声は続けて聞こえてきた。
「ほうら! その口で受け止めなされ!」
彦次郎はこの一画を覗き見る勇気はなかったが、聞こえてくる言葉をそのまま解釈すれば、男は将軍たる義尚の菊門を貫いて、精を義尚の口に向けて放ったようであった。
彦次郎は義尚の飲酒を諫言しようという事前の決意も忘れて一室の前に凍り付いていた。
ただひたすら、茫然自失……。
一室からはしばらく激しい息づかいが聞こえていたが、次第にそれも聞こえなくなった。
どれほどの時間が経ったか知れない。
その時である。
室内から男の声が聞こえてきた。
「彦次郎か。そこにいるのは彦次郎だな」
どうやら存在を気取られたらしい。
呼びかけられた彦次郎が全身をびくつかせるほど驚愕する。
「え……あ……あああ」
呼びかけられはしたが、どう答えて良いやら分からない。
男は続けた。
「入ってこい彦次郎」
入りたい。
入って見たい。
日頃、彦次郎がそうされているように肛門を貫かれ、知らない者の精液で汚された情けない義尚の姿を見たい!
その義尚の姿を想像しただけで、彦次郎の逸物は小さいなりにはち切れんばかりに怒張した。
しかしそれは同時に恐怖でもあった。
彦次郎がどうあがいても義尚に与えられない快楽を、自分の見も知らぬ男が義尚に与えているのかと思うと、彦次郎はそれこそ嫉妬のために発狂してしまいかねなかったからであった。
一瞬のうちに様々な考えが頭を過ぎって動けなくなった彦次郎に焦れたのか、男は自らがらりと戸を開けた。
戸が開かれると同時に彦次郎を襲ったのは猛烈な臭気であった。
濃い湿気が精の生臭さを内包しながら彦次郎の鼻腔を通過し、脳髄のなかの、本能を司る部分に直撃したかのような衝撃。
次いで視覚。
彦次郎が男を見上げた。
軍旅を発したあの日、義尚に抱かれる白昼夢を見ながら馬上で人知れず粗相した彦次郎を、嘲うかのように見詰めていた武者である。その肉体は、未だ少年特有の柔らかさを残す義尚のそれとは打って変わって、彦次郎が看破したとおり、鍛え上げられた侍そのものの肉体であった。
その逸物が、彦次郎の眼前で天を衝くばかりにいきり勃っている。
これが……、これが愛する義尚を貫いた業物なのか……!
そして彦次郎は見た。
白目を剥き、だらしなく舌を垂らしながら俯せに伏せっている義尚の姿を。
世上から緑髪と称された美しい黒髪を、整った顔立ちは、白濁した粘性の強い汁に塗れ、浮いたあばらと打って変わって底だけは肉厚な尻たぶの奥にある後孔はぽっかりと口を開いたまま、義尚は正気を失っていた。
これがあの凜々しき征夷大将軍の真の姿だというのか。
「義尚様! 義尚様しっかりなされませ!」
彦次郎が義尚に駆け寄りその身を揺する。
燭台に照らされたその身体に近付いてみれば、全身を覆う黄疸。以前と比較して症状は明らかに悪化していた。
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「そなた何者か知らぬが、公方様と知っての狼藉、断じて許し難い!」
もとより武道の心得に欠ける彦次郎であり、人を斬ったこともない身ではあったが、士分として取り立てられ帯刀しているうえは、彦次郎はこの狼藉者をこの場で斬って捨ててしまわなければならなかった。
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しかし男は手練の技で一瞬にして彦次郎から得物を奪い去ってしまった。
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