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第二話 摂理を目の当たりにする彦次郎

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「ぐあぁぁぁっ! うおぉぉぉ!」
 街区の一角に建つみすぼらしい掘っ立て小屋から人獣相半ばするかの如き咆哮が響く。その掘っ立て小屋の窓の部分に道行く人々が群がり、ことの推移を見守っていた。
 その場を偶然通りがかった彦次郎が、五尺(一五二センチメートル )に満たない身をその窓際まで巧みにこじ入れ覗き見ると、梁から吊された力綱を握り、股を開いて必死に息む市井しせいの女の姿。

 彦次郎はその光景に思わず見入ってしまった。

 女の秘所ははち切れんばかりに膨れあがり、その一部を裂いて、出血を伴いながら、内側から何か丸くて大きなものが押し出されようとしていた。女は顔いっぱいに汗を浮かべ、こめかみに血筋を浮かび上がらせ必死の形相である。

「うあぁぁぁぁっ!」

 女は叫び声をいよいよ大きくした。綱を握る腕に力が籠もる。
 次の瞬間、待ち構えていた産婆が、産み落とされた赤子を取り上げると、集っていた人々はことの一部始終を見届けて緊張と糸が途切れたものの如く、みな何処へともなくその場を立ち去っていった。

(女は卑怯だ)
 将軍御座所までの道を歩く彦次郎。彼は胸の裡で一人そう繰り返していた。
 あのはしたが、生まれてきた子の父親とどれだけ愛し合ったのかは知らぬ。確かに愛し合っていたのかも知れぬ。そうでなかったにせよ、結びついた両者が成熟した男と女であるというたったそれだけの理由で、機械的に子を成すことが出来るという動かしがたい摂理を前に、彦次郎は強烈な不満を抱いた。

(私ほど義尚様を愛している者はいないというのに!)

 どれだけ身体を重ね心を通わせても、どれだけ義尚の放った精を体内に受け止めても、彦次郎の身体は義尚の子を成す機能を持ってはいない。
 しかしその愛の深さはというと、義尚のモノであれば、喩え自分の残渣物の臭気が移ってしまった逸物であったとしても、口いっぱい、喉奥まで咥え込むことが出来るほどなのである。それなのに自分は男というだけで、義尚との間に愛の結晶をのすことが出来ないこの不条理。
 あの女に自分と同じことが出来るとは思えない。
 見知らぬ女に対する筋違いの嫉妬と知りつつも、彦次郎はその日一日、そんな考えから逃れられなかった。
 なので、その夜の彦次郎の燃え方は尋常ではなかった。

「ふうぅぅぅっ……! ふっ、ふっ」
 義尚の逸物に全体重をかけるように、騎乗位に跨がって腰を振る彦次郎。元結いを切って、黒く美しい長髪を振り乱す。
「義尚様……、子種っ! 子種を……!」
 義尚はねだる彦次郎の腰に両手を宛がうと、下から猛然と突き上げ始めた。

「ふあぁぁぁぁ! ひあぁぁぁぁ! おおっ、おっ、おっ、ひいぃぐうぅぅぅっ……!」

 それまで義尚の子種を求めて主導権を握っていた彦次郎は、あっという間に責められる側に転じた。
 激しく擦れ合う義尚の逸物と彦次郎の腸壁。摩擦熱と快楽が彦次郎の脳髄を麻痺させ、ために彦次郎は、排泄物が腸内を下ってくる感覚を見失っていた。
 依然皮を被った彦次郎の先端から、たぱぱっ、と精液がこぼれおちた。同時に、腹の中が義尚の精で満たされていく。
 彦次郎は荒い息と共にその場にばったりと倒れ込んだ。
 例によって合わない焦点。半開きの口の端からよだれがこぼれる。
 義尚に味わい尽くされた疲労感が心地よい。

 しかし、彦次郎は女に負けないということを証明しなければならなかった。義尚に対する愛の深さでは何者にも負けない自負があった。
 彦次郎は横たえていた身をおもむろに起こした。
 いつもそうするように、自分をで尽くした義尚の逸物を口に含むためであった。
 するとどうであろう。
 まるで昼間に立てた誓いを試すものの如く、義尚の逸物が、彦次郎が図らずも粗相した残渣物で酷く汚されているではないか。その臭気に思わず二の足を踏む彦次郎。
 いつもならどんなに激しく突かれても臭気だけであった。しかし今日は女という生き物に対する嫉妬心からより強い快楽を求め、忘我の境地に達したものと見える。腸内を下ってきた便意に気付かず、義尚が抜いたのと同時に粗相してしまったものであった。

 己が排泄物に汚れた義尚の逸物を咥える行為は、彦次郎を逡巡させた。
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