【完結】孤独の青年と寂しい魔法使いに無二の愛を ~贄になるために異世界に転移させられたはずなのに、穏やかな日々を過ごしています~

雨宮ロミ

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第七章 三十日目

第三十三話 幸福☆

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 ヴァートが風呂場から戻ってきた後、夜空も風呂場へと向かい、そして、準備を終えて、寝室へと戻ってきた。ヴァートの用意したバスローブを身につけている。ベッドの上には同じくバスローブを身につけていたヴァートがいた。

「……戻りました」
「……ああ。おかえり」

心地良いあたたかさを感じながら、夜空は、ベッドの上に座っているヴァートの元に向かい、彼と向かい合うようにして座る。柔らかなベッドの上。ヴァートの緊張感と甘さの混じる視線を感じていた。緊張感はあるけれども、この間とは違って、ひどく穏やかで、同時に甘く心地のよい期待感が夜空の身体の中に走っていた。

「……身体の方は、大丈夫か? 無理はしていないか?」

 彼は念を押すように訊ねた。風呂に行く前にも一度訊ねられていた。ヴァートの思いやりや気遣いに、温かくなる。

「はい。もう大丈夫です。ありがとうございます」
「分かった。もしも体調が悪くなったり、不快だったり、無理だ、と思った場合はすぐに言って欲しい」
「分かりました」

 二人、甘やかな雰囲気の中、始めるタイミングを探っている。

「……いいか?」

 ヴァートが、どこか緊張を含めながら切り出した。頬が赤く染まっている。

「はい……」

 夜空も、口にした瞬間、身体が熱くなるのを感じた。緊張感と期待感が混じり合った心地良い感覚が、夜空の身体に走っている。
二人、抱き合えるくらいの距離まで近付き、そっと抱きしめ合う。バスローブ越しだというのに、はっきりと、先ほどよりもずっと熱い体温が伝わってくる。この間は味わうことの出来なかった温度。それが心地良いい。同時に、心臓の鼓動がとくとくと甘く、速まっていくのを感じる。
抱きしめたまま、お互い見つめ合う。ヴァートの瞳に、どこか甘い表情の自分が映っていた。
そのままゆっくりと顔を近づけた。唇を重ね合い、口づけをする。先ほどもした、というのに、さらに、自身の身体が昂ぶっていくのが分かった。唇の感触を楽しむようにして、何度か唇を触れ合わせる。心地よさで、唇が緩み、少しだけ隙間が出来てしまう。

「っ……ん、ぅっ……」
 
ヴァートが、夜空の唇を、慈しむようにそっと舐めたのが分かった。小さな動き。それだけなのに、夜空の身体が小さく快感に震える。そのまま、夜空も、ヴァートの舌に、自身の舌を触れ合わせた。唇を触れあわせた後、お互いの熱い舌を絡め合わせる。何度もしたことがある、慣れた行為。ヴァートも慣れているのかもしれない。ぎこちなさはほとんどない。
でも、今まで味わったことがないほどに、心拍数が高まって、身体が熱くなっていく。お互いの、埋められなかった寂しさを暴いて、溶かしていくような、熱く甘い感覚が走っている。同時に、ヴァートと密着出来る嬉しさを味わう。ずっと、首枷が付けられていて、夜空から彼に触れることは出来なかったから。そんな風に考えて、嬉しさと、ぞくぞくとした昂ぶりを感じていた。キスだけだというのに、全部を溶かされているかのような心地。息苦しさですら、心地いい。ずっと、していたい、と思うくらいの甘い感覚が夜空の中に走っていた。

「っ……ふぅ……、ん……」

夜空の身体が軽く震えて、快感のあまり身体の力が抜けていく。ヴァートを抱きしめていた腕の力が緩んで、ヴァートのバスローブをぎゅ、と握りしめることしかできないくらいに。やがて、離れるのを惜しむようにして、お互いの舌が引き抜かれた。つ、と二人の口の間から、お互いの唾液が混ざったものがシーツの上に垂れ落ちた。

二人の、荒く乱れた吐息が寝室の中に響いている。身体が熱い。夜空は自身の頬が真っ赤になっているのを感じた。今まで何度も行為をしてきたというのに、キスだけで、こんなになったのは初めて。

「ヴァート、さ……」

 荒い息を吐き、ヴァートのバスローブを握りしめながら、夜空は、ねだるように、ヴァートの名前を呼ぶ。ヴァートは、柔らかくもどこか艶っぽい瞳で夜空の方を見つめていた。

「……どうした」
「……あの、今回は、……、ヴァートさんの、顔、見て、……したいです……」

途切れ途切れに、喘ぐように呼吸をしながら、夜空はねだる。この間は、「魔力を注ぐ行為」であったから、お互いの顔を一切見ずに、機械的に行っていた。だから、今日は、彼の顔をしっかり見てしたいと思った。

「……ああ、分かった」

夜空の望みを聞いたヴァート。愛おしそうに夜空を見つめ、頷いた。ヴァートは、力の抜けた夜空の身体をゆっくりとベッドの上に押し倒した。そのまま、夜空のバスローブの紐に手をかけて、ゆっくりと脱がせていく。間もなく、夜空は生まれたままの姿になってしまった。自身の身体がさらけ出されて、恥ずかしさと、そして、緊張感と、それ以上の、期待感に似た甘い感覚が走っていく。

「ぁ……」

 思わず声を出した。ヴァートも器用にバスローブを脱いでいた。しっかりとした体躯が露わになっている。引き締まった、それでいてしっかりとした裸体が露わになる。この間はきちんと見ることが出来なかった裸体。その美しさと、これからの行為への期待感で、夜空の心臓が熱く跳ねた。

「……綺麗だ」

ヴァートは、慈しむように、夜空の頬を撫でる。柔らかな笑みを浮かべながら。さらに、夜空の心臓が跳ねた。今まで、何度も見た目を褒められたことがある。けれども、そこに嬉しさはなかった。
 でも、ヴァートの言葉は、なぜか嬉しかった。自分の全てを、認めてくれているからだろうか。身体がさらに熱くなるほどに、嬉しかった。

「ありがとう、ございます……」

 ふわふわとした心地のまま、夜空は礼を口にした。ヴァートもさらに口元を緩ませた。

 そのままヴァートは、夜空にキスを落としながら、夜空の身体に触れていく。頬から滑り落ちるようにして、首筋に触れ、鎖骨を撫で、全身を撫でていく。滑らかな、それでいて力強い指先が、夜空の身体を撫でるように、慈しむように、触れられていく。ヴァートの方が体温が低い、と思っていたのに、今日は、夜空よりもずっと体温が高いように感じる、指先が、ひどく熱い。

「ぁっ……ぁあっ……、」

ヴァートの、一つ一つの指の動きで、ぞわぞわと肌が粟立っていく。頭の中が、快感で染まって、熱く昂ぶっていく。触られているだけだというのに、身体が小さく跳ねて、甘い声が漏れてしまう。今まで、味わったことのない甘い感覚と、満たされた熱が、夜空の身体に走っている。

「っ……ひぁっ……!」

 やがて夜空の一番敏感な部分に、ヴァートの手が触れた。痙攣のように、夜空は身体を震わせた。ぎゅ、とシーツを握りしめてしまう。

「はぁ、ぁっ……、ぁあっ……!」

 口から漏れる声を押さえることが出来ない。
肌に撫でるように触れながら、敏感な部分を柔らかく刺激される。強い快感に、息が乱れて、生理的な涙が浮かんでいる。同時にもっと、欲しい、という感覚も。彼を、直接感じたい。という欲で、頭が満たされていく。
 夜空は、ヴァートにねだるようにして視線を向けた。ヴァートも、夜空が求めていることを察したようだ。一度、手が離れていく。

「いい、か……?」
「はい……」

 少しの間の後、彼の指が、夜空の後孔に宛がわれた。もう片方の手で、違和感を解すようにして、夜空の肌に触れ、キスを落としていく。

「っ……ぁっ……!」

ゆっくりと、指が入り込んでいく。ガラス細工に触るように繊細に。でも、慣れている、というのが分かる器用な触れ方だった。同時に、夜空の全身に、ヴァートはゆっくりと這わせていく。彼の体温を、感触を、身体の中でも感じてしまう。

「痛みは、ないか?」
「っ……はい……」

 夜空の肯定の返事を受け取ると、ヴァートは夜空の身体を撫で、触れながら、彼の後孔を解していく。最初はゆっくりと、痛みを与えないように、緩やかな動きで、柔らかな内壁を指の腹で刺激したり、ひどく緩い速度で抽送するようにして指を奥までいれ、出す動きをする。夜空の身体にさらに強い快感が走っていく。

「ひぁっ……ぁ、ぁあっ……!」

一つ一つの動きに、夜空は甘い声を出し、身体をくねらせる。あの日、感じる余裕すらなかった快感を、ヴァートの確かな体温を味わいながら。
今まで、何度も行為をしたことがある、というのに、こんなに気持ち良くて、満たされるような感覚は初めてだった。同時に、もっと欲しい、ヴァートと早く繋がりたい、という感覚がさらに強まっていく。
 やがて、ヴァートの指の動きも強さを増していく。でも、夜空の身体は、さらに強い刺激を求めてしまっていた。

「っ、あの、もう、……」

 ねだるような声を出して、夜空はヴァートに視線を向けた。もっと欲しい、という想いで夜空の身体がいっぱいになっていく。

「……もう、いいのか?」

 ヴァートは、夜空を気遣うように訊ねる。夜空は、ヴァートの問いに頷く。指がゆっくりと引き抜かれる。

「痛みがあったり、苦しかったら、すぐに言ってくれ」

 そして、念を押すように、ヴァートは夜空に言う。夜空は、迷わずに頷いた。

「はい……」

ヴァートは夜空を慈しむようにして頬を撫でる。そして、夜空の後孔に、ヴァートの剛直が宛がわれた。夜空の身体に、一番大きな期待感が走った。そのままゆっくりと、彼の剛直が侵入してくる。

「ぁっ……ああっ……!」

 彼の剛直が侵入してくる。圧迫感はある。でも、不快、だったり、この間味わったような感覚ではない、快感と愛しさが一緒になったような感覚が混ざり合っている。今まで味わった行為では味わうことの出来なかった満ち足りた感覚だった。同時に、彼と繋がること画出来る、という嬉しさも味わっている。

「っ……ぁっ……!」

 やがて、ヴァートの動きが止まり、彼が小さく息を吐いたのが聞こえた。ヴァートの視線が夜空に向けられる。優しくもあり、それでいてどこか艶やかな瞳。夜空の心臓が跳ねるのを感じた。

「……痛みや、苦しさはないか?」
「大丈夫です、」

待ちきれない、とばかりに夜空は口にした。すると、ヴァートは柔らかく口元に笑みを浮かべ、シーツを握りしめている夜空の手に、自身の手を重ね、そのまま飲み込むようにして、手を握りしめる。固く繋がれているような気がして、さらに夜空の身体に甘さと愛しさが渦巻く。ヴァートは、確かめるように夜空にもう一度視線を向け、ゆっくりと動き始めた。

「っ……ぁっ……! ああっ……! はぁあっ……!」

乱暴、とも、激しい、ともかけ離れた、夜空を気遣うような動き。でも、ヴァートが抽送を始めた瞬間に、先ほどとは比べものにならない、強い快感が襲い掛かってくる。今まで、味わったことのない、強い快感だった。経験は何度もあるというのに、比べものにならないくらいの熱と、そして、幸福感が。夜空の口からは、はっきりとした嬌声が漏れてしまう。自分が出しているのか、と思うくらいの高い声が、断続的に漏れる。夜空の嬌声と、ヴァートのどこか乱れた呼吸、そして、煽情的な水音が夜空の鼓膜を揺らして、身体が快感で埋めつくされていく。

 夜空は、ヴァートに視線を向けた。

ヴァートの整った顔が、どこか余裕のない、快感を帯びたような表情へと変わる。ひどく煽情的な表情。今までみたことのない表情に、夜空の身体の興奮もさらに増していく。ヴァートも快感を得ている、という事実が嬉しい。
夜空の視線に応えるように、ヴァートも夜空に視線を向ける。ヴァートのその視線は熱情のこもった、それでいて、柔らかな視線であった。愛おしい者にしか向けない、というのがはっきりと分かる視線。その視線が、夜空の身体を歓喜と幸福で満たしていく。


「……、ヨゾラ」

甘い吐息混じりに、ヴァートが自身の名前を呼んだのが聞こえた。自分の名前を呼ばれたことなんて何度もあるというのに、どこか特別な響きに聞こえてしまう。

「っ……、はい……」
「……君の事が、好きだ。愛している」
「っ……、俺も、ヴァートさんのことが、好きです……、大好きです……」

 夜空の言葉に、ヴァートが柔らかく微笑んだ。夜空の表情もつられて緩んだ。

「……ヨゾラは、私にとって、唯一無二の存在だ。君の代わりはいない。ずっと、そばにいて欲しい」

頷いた。満たされていく。嬉しくなる、確かめ合うように、誓い合うようにそのまま何度目か分からないキスをして、舌を絡め合わせて、全身でヴァートを感じていた。

「ぁ、ヴァート、さ、」

 ぞくぞく、と一番大きな波が来る。縋るような声を夜空は出してしまう。愛おしそうにヴァートが夜空を見つめた。ぎゅ、と快感を分散させるようにして、ヴァートの手を強く握った。それを受け止めるように、ヴァートも強く手を握り返す。

「っ……、ん、」

 ヴァートも、限界が近いのだろう。詰まるような彼の吐息が聞こえる。少しだけ、抽送の動きが速くなる。そして、彼の剛直が、夜空の最奥を突いた瞬間だった。

「っ、ぁ…………!」

夜空の身体に一番大きな快感が走った。背中を大きく仰け反らせてその感覚を味わう。今まで味わったことのない強烈で、それでいて満たされた、幸福な絶頂感だった。同時に、身体の中に、あたたかな感覚が渦巻いていた。
 二人の乱れた、それでいて充足感に溢れた吐息が空間を満たしている。今までの行為では味わったことのない、心地よく満たされた感覚を夜空は味わっていた。
絶頂の余韻を味わいながら、夜空はヴァートに視線を向ける。ヴァートは、安心したような、そして愛おしそうな瞳を夜空に向けている。成功したんだ、と夜空は安堵した。

「ありがとう……」
「こちらこそ、ありがとうございます……」

 二人の口元には笑みが浮かんでいた。

――
 行為を終え、二人、心地良い疲労感の中、ベッドの上で抱き合っていた。行為の余韻が残る温かさを夜空は感じている。今まで触れることの出来なかった分を取り返すようにして、抱き合っていた。


「身体の方は、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です……」

 先ほどの行為の余韻の残る、幸福でぼんやりとした感覚を抱きながら、夜空は頷いた。ヴァートの優しさを感じると共に、ひどく満たされた心地を味わっていた。
 行為の後、こんなに満たされていたのは初めてだった。
今までは、行為の後は、毎回、寂しさを感じていたというのに、今はもう、寂しさはすっかり満たされてしまっている。ずっと欲しかったものを手に入れられていたのだから。それを噛みしめるようにして、夜空はヴァートの体温を味わっていた。

「そうか、よかった……」

 ヴァートが安心したように口にした。

 ぼんやりとした意識が、だんだんと落ち着いてくる。けれども、身体の中のふわふわとした心地が抜けない。味わったことのない感覚だった。もしかしたら、これが、魔力なのかもしれない。

「……その、本当に、大丈夫なんですか……?」

 ヴァートに残っている魔力は、もう魔法が使えるほど残っていないのだ。本当に良かったのだろうか、と不安になってしまう。ヴァートは、魔力を渇望していたのだから。

「先ほども言っただろう? 魔法が使えなくても、もういい。君がいてくれれば、それだけでいい」

 迷わずに言うヴァート。そして、夜空ぎゅ、とさらに強く抱きしめられた。

「……復讐も、魔力も、もういい。過去の事は、全て、忘れて。これから、君と幸せに、過ごしたい」
「……俺も、です」

 夜空も、抱きしめ返す。もう、満たされていた、寂しさはなかった。きっと、これから、幸せに満たされた生活を送ることが出来る。お互いが、大切で、唯一無二の存在だかrあ。

「魔法が使えなくても、魔力がなくても、大切な君と、毎日一緒に食事をして、一緒の時間を過ごして、一緒に眠る。それだけで、もう十分だ」
「……はい」

 夜空は、ヴァートの腕の中でもう一度頷いた。
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