【完結】孤独の青年と寂しい魔法使いに無二の愛を ~贄になるために異世界に転移させられたはずなのに、穏やかな日々を過ごしています~

雨宮ロミ

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番外編

うたたねの話

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「戻りました……!」

 蔵書庫での休憩を終えて戻ってきた夜空。反応はない。彼は椅子の上で腕組みをしている。眠っていた。昨日、「きりのいいところまで仕事をしたい」と少し遅くまで起きていたから。その影響なのかもしれない。

 夜空はどこか不安な気持ちを抱きながら、急いでヴァートに近寄ってしまった。一日目の夜のことを思い出してしまったのだ。一日目の夜、彼が魘されていた時のことを。

「ヴァートさ……」

 小さく名前を呼びながら、夜空はヴァートの肩に手を伸ばしてしまう。けれども、夜空の伸ばした手は、ヴァートに触れる少し前で、止まってしまった。
夜空が手を伸ばして、彼に触れる直前、彼の長めの髪の毛が揺れて、彼の寝顔がはっきりと見えてしまった。
その時の彼の寝顔は、きっと幸せな夢を見ているのだろう、と確信できるような柔らかく、そして美しい表情。起こすことをためらってしまうような、そんな幸せな寝顔をヴァートは浮かべていた。

 ヴァートが安心して眠れていることに、夜空は安堵した。でも、このまま毛布か何かを持ってこよう、とヴァートから少し離れようとした時だった。
ゆっくりとヴァートの瞼が開き、夜空の方に向けられる。寝起きの無防備で、どこか無邪気な子どものような表情に、夜空の心臓が跳ねる。そして、ヴァートは、一瞬、夢と現実の境目が分からない、みたいな表情をしていた。

「……私は、眠っていたのか」

 ヴァートは、こちらが夢の中ではない、と確かめるようにして、夜空に左手を伸ばす。左手の薬指の紋様が見えた。そして、夜空の頬に触れ、撫でる。少し体温の低いヴァートの温度と、手の感触が伝わり、心臓が柔らかく跳ねた。

「はい……。さっき俺が戻ってきた時には寝ていらして……」
「……そうか。恥ずかしいところを見せてしまったな」
「いえ……」

 ヴァートは柔らかな手つきで夜空の頬を撫でた。「恥ずかしいところを見せてしまった」とは言うものの、どこか幸せの余韻が残る表情をしながら、じゃれるようにして、夜空の頬を撫でている。甘やかなくすぐったさを感じながら、夜空はヴァートの手の感触を味わっていた。

「どんな夢を見ていたんですか?」
「君と一緒にいる夢だよ」

 ヴァートはふふ、と綺麗な笑みを浮かべながら言う。ヴァートの言葉を聞いて、夜空の心臓が高鳴った。まだ、夢見心地、といった雰囲気。

「夢の中でも、夢から醒めても、こうして君と一緒にいられるのだから、幸せだよ」
「……俺も、です」

  夜空も、ヴァートと同じ幸せいっぱいの表情をしていた。
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