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第七章 三十日目
第三十二話 魔力
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二人、地下室からヴァートの寝室へと戻ってきた。
二人は、ベッドの上をソファ代わりにするように、隣あって座っている。二人の間にもう距離はなかった。首枷もベッドの上の仕切りもない。夜空の視界の端に見えた時計は、もう、日付の変わった時刻を指している。31日目。あの魔法も、もう使うことは出来ない。もう、二人を縛るものは、何もない。
「……すまなかった。取り乱してしまって」
「……いえ。俺こそ、いろいろ、すみませんでした……」
二人の間に沈黙が流れている。
お互い、子どものように泣いていたことに関しての恥ずかしさ、つい先ほどまでとは違う関係性になったことへの照れ、そして、想いが通じ合ったことの嬉しさが混じった雰囲気。
沈黙ではあるけれど、甘く心地のよい雰囲気であった。
浸るように、二人、隣あって沈黙の中にいた後、ヴァートが、どこか恐る恐る切り出した。少し涙の後が残る、透き通った瞳には、どこか迷いと不安があった。
「……その、本当にいいのか? こちらの世界にいる、ということは……」
ヴァートの質問に、夜空は迷わず頷いた。
「はい……。その、俺は、ヴァートさんと一緒に、いたいので……」
魔法界に、ヴァートのそばにずっといられるのならば、そうしたい。この世界がどのような世界かはまだ、全部は分かっていない。でも、ヴァートと共に幸せに過ごしていきたい。夜空の気持ちはもう、しっかりと、固まっていた。もう、意志は揺るがない、とばかりに、夜空はベッドの上に乗せられていたヴァートの手に自身の手を重ね、視線をヴァートに向けた。ヴァートの透き通った瞳に、満たされた表情の夜空が映っていた。
「……ありがとう」
ヴァートの瞳の迷いと不安が消えて、幸せで満たされる。
ヴァートは、夜空の重ねられた手を飲み込むようにして動かすと、そのまま、指同士を絡め合わせて、がっしりと握った。夜空もヴァートの手を握り返す。もう、離れない、と言わんばかりに。首枷はもうない。こうして、なんの気兼ねもなく、触れられることが嬉しかった。
「……これからも、ずっと一緒にいよう」
「……はい」
今まで触れられなかった分、もっと甘えたい、という欲が沸いてきてしまって、夜空は、そのまま甘えるようにしてヴァートの肩に寄りかかる。すると、ヴァートも、その動きを受け入れ、微笑んだ。二人でいられることの幸せを噛みしめ、甘い時間を過ごしていた。
「それで、これからに関してなのだが……」
「……はい」
しばらく、二人で甘い時間を過ごしていた後、ヴァートが話し始める。人間がこの魔法界で長い時間過ごすために、お守りのように、少しは魔力を持っていた方がいいらしい、ということだった。魔法界では、魔力があることが前提の世界。ヴァートのように魔力の少ない人間はいるものの、それでも人間界の人間よりは魔力の量はずっと多く、この世界に馴染むためには、少しでも魔力が欲しいのだという。やや小難しい言葉を並べつつ、ヴァートは夜空に説明をした。
「……つまり、魔法界の環境に馴染むために、俺も、魔力を得る必要がある、っていうこと、で、いいんでしょうか……?」
夜空はヴァートの言葉を頭の中で噛み砕いて、そして、たどたどしく口にする。ヴァートは夜空の言葉に頷いた。
「えっと、その、人間が魔力を持つ方法っていうのは……」
「……方法としては、私の魔力をいくらか注ぎ、君にそのまま受け渡す、ということになる。」
ヴァートの言葉で、夜空の中に不安が走る。もう、大量の魔力を得ることは出来ない。元々少ないヴァートの魔力が、さらに減ってしまう、という恐れがあった。
「……でも、それだと、ヴァートさんの魔力が……」
表情に不安を浮かべながら、夜空は口にする。けれども、夜空の言葉にヴァートは首を横に振る。
「私はおそらくはもう、魔法を使うことは出来ないだろう。でも、もう、いいんだ。もう、魔法が使えなくても、魔力がなくても、君さえいれば、それでいい。それで、幸せなんだ」
「……ヴァートさん」
ヴァートは絡めていた指をそっと解いて、代わりに力強く夜空を抱きしめた。夜空を安心させるようにして。夜空の不安が少しずつ緩まっていく。夜空も、ヴァートの身体に腕を回す。しっかりとしたヴァートの身体の感触を感じる。
同時に、夜空の中に一つの疑問が浮かんだ。これを、口にしてもいいのだろうか。やや、ためらいながらも、夜空は、思い切って訊ねた。
「あの、ヴァートさん……」
「どうした?」
「……あの、その、魔力を注ぐ方法って、先日の、方法でしょうか……?」
夜空はどこかたどたどしく訊ねた。しばらくの沈黙の後、ああ、と、どこかくぐもった声で答えた。
「……やっぱり、嫌か? 嫌であればなんとかして、別の方法を……」
夜空を気遣うようにヴァートは言う。ヴァートの言葉には、どこか不安の響きが混ざっていた。この間行った時に、夜空が吐いてしまったから、行為が嫌なのではないか、と心配しているようだ。
ヴァートの言葉に、夜空は首を横に振った。
「……。嫌、じゃなくて……その、魔力を注ぐって目的だけじゃなくて……、その、俺は、ヴァートさんと、したい、です……。恋人、同士、として……」
口にした瞬間、夜空の体温が一気に上がる、耳まで真っ赤になったのを感じた。
「……そうか」
噛みしめるように、ヴァートが返事をする。そして、さらに夜空を抱きしめる力を強める。それは、慈しみや愛おしさの他に、別の熱情も含まれていた。夜空もそれに応えるように、腕の力を込める。
二人で、しばらく抱きしめあった後に、少し腕の力が緩まり、そのまま見つめ合う。夜空も口元が緩んでいて、ヴァートも、柔らかく笑みが浮かんでいた。そのまま、二人、誓い合う様に唇を重ね合わせた。
二人は、ベッドの上をソファ代わりにするように、隣あって座っている。二人の間にもう距離はなかった。首枷もベッドの上の仕切りもない。夜空の視界の端に見えた時計は、もう、日付の変わった時刻を指している。31日目。あの魔法も、もう使うことは出来ない。もう、二人を縛るものは、何もない。
「……すまなかった。取り乱してしまって」
「……いえ。俺こそ、いろいろ、すみませんでした……」
二人の間に沈黙が流れている。
お互い、子どものように泣いていたことに関しての恥ずかしさ、つい先ほどまでとは違う関係性になったことへの照れ、そして、想いが通じ合ったことの嬉しさが混じった雰囲気。
沈黙ではあるけれど、甘く心地のよい雰囲気であった。
浸るように、二人、隣あって沈黙の中にいた後、ヴァートが、どこか恐る恐る切り出した。少し涙の後が残る、透き通った瞳には、どこか迷いと不安があった。
「……その、本当にいいのか? こちらの世界にいる、ということは……」
ヴァートの質問に、夜空は迷わず頷いた。
「はい……。その、俺は、ヴァートさんと一緒に、いたいので……」
魔法界に、ヴァートのそばにずっといられるのならば、そうしたい。この世界がどのような世界かはまだ、全部は分かっていない。でも、ヴァートと共に幸せに過ごしていきたい。夜空の気持ちはもう、しっかりと、固まっていた。もう、意志は揺るがない、とばかりに、夜空はベッドの上に乗せられていたヴァートの手に自身の手を重ね、視線をヴァートに向けた。ヴァートの透き通った瞳に、満たされた表情の夜空が映っていた。
「……ありがとう」
ヴァートの瞳の迷いと不安が消えて、幸せで満たされる。
ヴァートは、夜空の重ねられた手を飲み込むようにして動かすと、そのまま、指同士を絡め合わせて、がっしりと握った。夜空もヴァートの手を握り返す。もう、離れない、と言わんばかりに。首枷はもうない。こうして、なんの気兼ねもなく、触れられることが嬉しかった。
「……これからも、ずっと一緒にいよう」
「……はい」
今まで触れられなかった分、もっと甘えたい、という欲が沸いてきてしまって、夜空は、そのまま甘えるようにしてヴァートの肩に寄りかかる。すると、ヴァートも、その動きを受け入れ、微笑んだ。二人でいられることの幸せを噛みしめ、甘い時間を過ごしていた。
「それで、これからに関してなのだが……」
「……はい」
しばらく、二人で甘い時間を過ごしていた後、ヴァートが話し始める。人間がこの魔法界で長い時間過ごすために、お守りのように、少しは魔力を持っていた方がいいらしい、ということだった。魔法界では、魔力があることが前提の世界。ヴァートのように魔力の少ない人間はいるものの、それでも人間界の人間よりは魔力の量はずっと多く、この世界に馴染むためには、少しでも魔力が欲しいのだという。やや小難しい言葉を並べつつ、ヴァートは夜空に説明をした。
「……つまり、魔法界の環境に馴染むために、俺も、魔力を得る必要がある、っていうこと、で、いいんでしょうか……?」
夜空はヴァートの言葉を頭の中で噛み砕いて、そして、たどたどしく口にする。ヴァートは夜空の言葉に頷いた。
「えっと、その、人間が魔力を持つ方法っていうのは……」
「……方法としては、私の魔力をいくらか注ぎ、君にそのまま受け渡す、ということになる。」
ヴァートの言葉で、夜空の中に不安が走る。もう、大量の魔力を得ることは出来ない。元々少ないヴァートの魔力が、さらに減ってしまう、という恐れがあった。
「……でも、それだと、ヴァートさんの魔力が……」
表情に不安を浮かべながら、夜空は口にする。けれども、夜空の言葉にヴァートは首を横に振る。
「私はおそらくはもう、魔法を使うことは出来ないだろう。でも、もう、いいんだ。もう、魔法が使えなくても、魔力がなくても、君さえいれば、それでいい。それで、幸せなんだ」
「……ヴァートさん」
ヴァートは絡めていた指をそっと解いて、代わりに力強く夜空を抱きしめた。夜空を安心させるようにして。夜空の不安が少しずつ緩まっていく。夜空も、ヴァートの身体に腕を回す。しっかりとしたヴァートの身体の感触を感じる。
同時に、夜空の中に一つの疑問が浮かんだ。これを、口にしてもいいのだろうか。やや、ためらいながらも、夜空は、思い切って訊ねた。
「あの、ヴァートさん……」
「どうした?」
「……あの、その、魔力を注ぐ方法って、先日の、方法でしょうか……?」
夜空はどこかたどたどしく訊ねた。しばらくの沈黙の後、ああ、と、どこかくぐもった声で答えた。
「……やっぱり、嫌か? 嫌であればなんとかして、別の方法を……」
夜空を気遣うようにヴァートは言う。ヴァートの言葉には、どこか不安の響きが混ざっていた。この間行った時に、夜空が吐いてしまったから、行為が嫌なのではないか、と心配しているようだ。
ヴァートの言葉に、夜空は首を横に振った。
「……。嫌、じゃなくて……その、魔力を注ぐって目的だけじゃなくて……、その、俺は、ヴァートさんと、したい、です……。恋人、同士、として……」
口にした瞬間、夜空の体温が一気に上がる、耳まで真っ赤になったのを感じた。
「……そうか」
噛みしめるように、ヴァートが返事をする。そして、さらに夜空を抱きしめる力を強める。それは、慈しみや愛おしさの他に、別の熱情も含まれていた。夜空もそれに応えるように、腕の力を込める。
二人で、しばらく抱きしめあった後に、少し腕の力が緩まり、そのまま見つめ合う。夜空も口元が緩んでいて、ヴァートも、柔らかく笑みが浮かんでいた。そのまま、二人、誓い合う様に唇を重ね合わせた。
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