【完結】孤独の青年と寂しい魔法使いに無二の愛を ~贄になるために異世界に転移させられたはずなのに、穏やかな日々を過ごしています~

雨宮ロミ

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番外編

ベッドの話

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「……近いうちに、新しいベッドを購入しようか?」

夜、二人、就寝しようとベッドの上にいる時に訊ねられた。
ヴァートは柔らかな視線を夜空に向けている。それは、愛おしいものに向ける表情。
仕切りは消えたけれど、あの日から変わらずに、ヴァートが元々使っていたベッドに二人で寝ている状態だったから、ヴァートが気を遣ってくれたのかもしれない。

「……俺は、もう少し、このままがいいです」

確かに、二人でこのまま寝続けるとなると少し狭いかもしれない。けれども、この狭さが、夜空にとって、安心出来て、心地良かった。隣に誰かがいてなんの屈託もなしに眠る、ということがあまりなかったから。そして、彼の言ったあの言葉が、夜空の中に残っていたから。
 どこか甘い表情を浮かべる夜空に、ヴァートの視線もさらに柔らかくなる。

「……君がそうしたいなら、そうしようか」
「はい……」

 こうして随分と近い距離にいる。壁も、首枷もない。だから、彼に触れることが出来る。夜空の中に、欲が沸いていた。

「…………あの、ヴァートさん」
「どうした」
「その、抱きしめても、いいですか?」
「……ああ」

 ぎゅう、とヴァートの身体を抱きしめる。もう、首枷はない。彼に自由に触れることが出来る。
 こんな風に無邪気に、何の下心もなしに誰かを抱きしめることが出来ることなんて、なかったから。嬉しかった。密着する身体は、やはり夜空よりも厚い気がする。背も高いから、しっかりとしている。

「ヴァートさん、やっぱり、しっかりした、身体してますね」
「……そうだろうか?」
「はい……」

 ローブ越しからでもなんとなくしっかりした身体つきだとは思っていた。けれども、こうして抱きしめると、さらにそのしっかりとした感触が伝わった。

「……家のことはほとんどを自分でしてたからかもしれないな」
「……なるほど」 

 夜空がヴァートの身体を抱きしめているうちに、そのまま、身体に腕が回された。ヴァートも夜空を抱きしめ、さらにゆっくりと頭を撫で始めた。子どもを撫でているかのような優しい手つき。その感触が心地いい。眠気と、愛しさに身体が包まれていく。
眠る時に隣に彼がいる。そして、目が覚めてからも、隣に彼がいる。幸せと安心感を味わいながら、夜空の意識はだんだんと眠りへと落ちていく。

「……おやすみなさい」

 低く柔らかな声で、おやすみ、という声が返ってきた。

 夜中、身体に僅かに、自由が利かなくなる感触が走って、意識が浮上した。もう首枷はないはずなのに。

「……?」

先ほどまでヴァートを抱きしめていた、というのに、寝返りを打っている最中で解けてしまったのかもしれない。視界の先にヴァートはいない。けれども、身体の熱を感じる。そっと顔を動かして、ヴァートの位置を確かめる。
ヴァートが後ろから自身を抱きしめていた。自身を離さない、と言わんばかりのがっしりとした抱擁。耳元で寝息が聞こえる。穏やかな寝息。しっかりと熟睡して、軽く身じろぎをしても目を覚ますことはない。彼が深く、安心して眠れていることに安堵すると共に、先ほど味わった感覚とは、また違った、疼くような、昂ぶるような感触を覚えてしまう。

 眠れる、かな……。

 嬉しさと愛おしさと、幸せいっぱいの贅沢な不安が夜空の頭の中にあった。
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