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第五章 二十五日

第二十六話 深夜

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「…………」

その日の深夜、夜空はなかなか眠ることが出来なかった。「魔力を得るため」とはいえ、ヴァートと身体を重ねることになってしまったのだから。

 何度目か分からない寝返りを打った。ヴァートの魔法越しに、彼の顔が見える。ヴァートはひどく穏やかに眠っているのが分かる。穏やかに眠っているその姿を眺めて安心すると共に、明日の今頃は、彼と行為をしているのだ、という実感がわいてくる。
 
 夜空はヴァートに背を向けて、小さく息を吐いた。緊張感と、感情を逃がすように。

「明日のも……違うから……」

 明日の行為は、形としては夜伽――セックスの形を取っている。けれども、その目的は愛を確かめ合う為ではない。魔力を注ぐための行為。それ以上でも以下でもない。元いた世界で何度も行っていた、一瞬の熱を味わうだけの行為と変わらない。慣れていることだ。

 それなのに、緊張感と同時に、妙な寂しさが過っている。
ヴァートが優しくしてくれるのは、彼の本来の優しさ、とか「されたくないことをしたくない」の延長であって「愛する人に対するそれ」ではない。一緒に生活していて多少の情は生まれているのかもしれない。「隣にいると悪夢を見ない」と言ってくれていたり、小さい頃の話を打ち明けてくれていたから。
けれども、きっと、ヴァートが抱いている感情は、夜空が抱いている感情は、間違いなく違うと夜空は思っていた。


「俺は、殺されるために、魔法を使うために呼ばれたんだから……」

 自身に言い聞かせるように口にする。

魔法を使うために、贄のために呼ばれた。分かっているけれど、でも、ほんの少し、寂しさに似た感情を味わってしまった。魔力を注ぐ行為だ、として、割り切ればいいのに。それでも、どこか、「彼と、満たされるような行為をしたかった」とすら想ってしまう。そんなの、叶わないことなのに。

 夜空は、ヴァートにとって、代わりの利かない存在だ。贄として。ヴァートが、あの魔法を使うその日まで。
 それ以上は望まない。「代わりの利かない存在」としての意味を果たさないといけない。ヴァートが魔力を得るために、殺される運命なのだ。

 夜空は、毛布の中で、小さく身体を丸める。

「もうすぐ、俺は、殺されるのか……」

 ぽつり、と小さく呟く。呟くと同時に、この生活の終わりが迫っていることを、じわじわと感じてしまう。殺されることへの恐怖感はあまりない。夜空の中にあった感情は、寂しさを煮詰めたものだった。
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