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第四章 近づく
第二十四話 使いたい魔法
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一日、一日、と日々は重ねられていく。やはり、穏やかな日々だった。
一緒に食事をして、仕事をして、魔法の壁に仕切られてはいるものの、隣同士で眠って。
晴れた日には、手を繋ぎながら庭を巡る。あたたかな二人の生活が続いた。
繋ぎ止めているものが、「魔力を得る魔法のため」そして、最終的な結末が「殺される」
だとしても、それでも、この生活は、夜空にとって、幸せな日々だった。人生で一番楽しい時間だ、と思うくらいに。
23日目。その日も夜空は仕事を終えて、蔵書庫の中で本を読んでいた。本のページをめくっていると、足音が聞こえてきたことに気がつく。期待を抱きながら、足音の方に視線を向ける。そこにいたのはヴァートだった。穏やかな表情を浮かべている。
「ヴァートさん。どうされたんですか?」
「……君の様子を見に来たんだ。気にせず読んでいて構わない」
ヴァートは、夜空に近づいて、夜空の姿を眺め始めた。気にせず読んでいて構わない、とは言うものの、彼が側にいて、視線を向けているということで、心が跳ねた。その視線はひどく柔らかなもの。小さな子どもが本を読んでいるのを眺めているように。ヴァートに見つめられながら本を読む。ページを読む速度が、緊張で少し鈍ってしまった。読んでいる本の内容が、なかなか入ってこない。
「君はやはり、楽しそうに本を読むんだな」
「そ、そうでしょうか……」
独り事のように呟いたヴァート少し声がうわずった。少し恥ずかしくなって、そっと視線を動かす。
「急ぎの話題ではないが、少し、話してもいいか?」
私の、個人的な話だ。と彼は言う。夜空ははい、と返事をして頷いた。
「前に、使いたい魔法があったかもしれない、という話をしたのを、覚えているか?」
「はい……」
「……私にも、きちんとあったことを思い出したんだ」
思い出した、というだけだ。と言うヴァート。その表情は、どこか、子どものころを思い出すような柔らかな表情をしていた。
「それって、どんな魔法だったんですか?」
諦めたように、ヴァートは首を横に振った。
「……どんな、魔法だったんだろうな。呪文も、忘れてしまった」
ヴァートの言葉は、どこか嘘をついているように見えた。忘れた、と言い聞かせているようにも見えた。 けれども、どうにもならない想いを、打ち明けたい、という風な雰囲気を夜空は感じ取ってしまった。まるで、手に入らないものを追憶するような、そんな雰囲気だった。そして、そこから、復讐、のような禍々しさや尖った雰囲気は見えなかった。
「すまない、一方的に、中身のない話をしてしまって」
「いえ……」
ヴァートの柔らかな表情を見て、夜空は、やはり、ヴァートに魔力を得て欲しい、と思ってしまった。
同時に、もし、この人が、魔力を得たら、どんな魔法を使うのだろうか。と思ってしまった。
でも、その頃には、自分はいない。既に、殺されている。
贄のためにこの世界に呼び出された」ことは、最初から受け入れていたはずだった。そして、「贄として」「代わりのきかない」存在のはずなのに。なぜか、寂しさを、感じてしまった。
その日の深夜、ふと目を覚ました。ヴァートは穏やかな寝顔を見せている。
ヴァートの態度は日に日に柔らかくなっていった。ずっと、この人の側にいられる生活が送れたら、どれだけ幸せなのだろうか。そんなことを思ってしまった。「お前だから」と言ってくれた人。優しい人。綺麗な人。夜空にとって、ヴァートは、唯一無二の人。この人に対する思いが成就したらどんなに幸せだろう。でも、ヴァートにとっては違うんだと思う。最終的に辿り着く結末が「贄」であり「魔力を得る魔法のために殺される」しかない。
「だって、俺は、魔法のために、呼ばれたんだから……」
この生活は、幸せだと思う。ヴァートも、穏やかな時間を過ごしてくれているの、かもしれない。でも、それでも、最終的な結末は「殺される」ということだ。
自身と過ごすよりも、たくさんの魔力を手にした方が、幸せだろう。
幸せな生活の終わりを寂しく思う気持ちと、気持ちが成就しない寂しさ、そして、彼に、たくさんの魔力を得て、幸せになって欲しい、という気持ちが夜空の中に溢れてくる。「贄」として「代わりのきかない」だけで十分だったのに、今は、それ以上を欲してしまっている。
だめだ、と、首を横に振る。
「……俺に出来ることは、ヴァートさんが、魔力を手に入れられるために、殺される、だけだから」
夜空は自身に言い聞かせるように、どこか寂しさを感じながら、呟いた。そして、再び瞳を閉じて眠りに落ちていく。
「……ヴァートさんにとって、俺はなんなんだろう」
ぽつり、と呟いた。夜空の、その、答えは、最初から、分かっていたはずなのに、どうして、こんなに寂しいんだろう。
胸の中に、そんな感情が過った。
そして、24日目を迎えようとしていた。
一緒に食事をして、仕事をして、魔法の壁に仕切られてはいるものの、隣同士で眠って。
晴れた日には、手を繋ぎながら庭を巡る。あたたかな二人の生活が続いた。
繋ぎ止めているものが、「魔力を得る魔法のため」そして、最終的な結末が「殺される」
だとしても、それでも、この生活は、夜空にとって、幸せな日々だった。人生で一番楽しい時間だ、と思うくらいに。
23日目。その日も夜空は仕事を終えて、蔵書庫の中で本を読んでいた。本のページをめくっていると、足音が聞こえてきたことに気がつく。期待を抱きながら、足音の方に視線を向ける。そこにいたのはヴァートだった。穏やかな表情を浮かべている。
「ヴァートさん。どうされたんですか?」
「……君の様子を見に来たんだ。気にせず読んでいて構わない」
ヴァートは、夜空に近づいて、夜空の姿を眺め始めた。気にせず読んでいて構わない、とは言うものの、彼が側にいて、視線を向けているということで、心が跳ねた。その視線はひどく柔らかなもの。小さな子どもが本を読んでいるのを眺めているように。ヴァートに見つめられながら本を読む。ページを読む速度が、緊張で少し鈍ってしまった。読んでいる本の内容が、なかなか入ってこない。
「君はやはり、楽しそうに本を読むんだな」
「そ、そうでしょうか……」
独り事のように呟いたヴァート少し声がうわずった。少し恥ずかしくなって、そっと視線を動かす。
「急ぎの話題ではないが、少し、話してもいいか?」
私の、個人的な話だ。と彼は言う。夜空ははい、と返事をして頷いた。
「前に、使いたい魔法があったかもしれない、という話をしたのを、覚えているか?」
「はい……」
「……私にも、きちんとあったことを思い出したんだ」
思い出した、というだけだ。と言うヴァート。その表情は、どこか、子どものころを思い出すような柔らかな表情をしていた。
「それって、どんな魔法だったんですか?」
諦めたように、ヴァートは首を横に振った。
「……どんな、魔法だったんだろうな。呪文も、忘れてしまった」
ヴァートの言葉は、どこか嘘をついているように見えた。忘れた、と言い聞かせているようにも見えた。 けれども、どうにもならない想いを、打ち明けたい、という風な雰囲気を夜空は感じ取ってしまった。まるで、手に入らないものを追憶するような、そんな雰囲気だった。そして、そこから、復讐、のような禍々しさや尖った雰囲気は見えなかった。
「すまない、一方的に、中身のない話をしてしまって」
「いえ……」
ヴァートの柔らかな表情を見て、夜空は、やはり、ヴァートに魔力を得て欲しい、と思ってしまった。
同時に、もし、この人が、魔力を得たら、どんな魔法を使うのだろうか。と思ってしまった。
でも、その頃には、自分はいない。既に、殺されている。
贄のためにこの世界に呼び出された」ことは、最初から受け入れていたはずだった。そして、「贄として」「代わりのきかない」存在のはずなのに。なぜか、寂しさを、感じてしまった。
その日の深夜、ふと目を覚ました。ヴァートは穏やかな寝顔を見せている。
ヴァートの態度は日に日に柔らかくなっていった。ずっと、この人の側にいられる生活が送れたら、どれだけ幸せなのだろうか。そんなことを思ってしまった。「お前だから」と言ってくれた人。優しい人。綺麗な人。夜空にとって、ヴァートは、唯一無二の人。この人に対する思いが成就したらどんなに幸せだろう。でも、ヴァートにとっては違うんだと思う。最終的に辿り着く結末が「贄」であり「魔力を得る魔法のために殺される」しかない。
「だって、俺は、魔法のために、呼ばれたんだから……」
この生活は、幸せだと思う。ヴァートも、穏やかな時間を過ごしてくれているの、かもしれない。でも、それでも、最終的な結末は「殺される」ということだ。
自身と過ごすよりも、たくさんの魔力を手にした方が、幸せだろう。
幸せな生活の終わりを寂しく思う気持ちと、気持ちが成就しない寂しさ、そして、彼に、たくさんの魔力を得て、幸せになって欲しい、という気持ちが夜空の中に溢れてくる。「贄」として「代わりのきかない」だけで十分だったのに、今は、それ以上を欲してしまっている。
だめだ、と、首を横に振る。
「……俺に出来ることは、ヴァートさんが、魔力を手に入れられるために、殺される、だけだから」
夜空は自身に言い聞かせるように、どこか寂しさを感じながら、呟いた。そして、再び瞳を閉じて眠りに落ちていく。
「……ヴァートさんにとって、俺はなんなんだろう」
ぽつり、と呟いた。夜空の、その、答えは、最初から、分かっていたはずなのに、どうして、こんなに寂しいんだろう。
胸の中に、そんな感情が過った。
そして、24日目を迎えようとしていた。
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