13 / 39
第二章 奇妙で穏やかな生活
第十二話 仕事と魔法
しおりを挟む
昨日、部屋を案内された時に、鍵のかかっていた部屋はいくつかあった。その時には簡潔に、仕事に使う部屋だと言われていて、夜空もそれで納得していた。だから、この中に入るとは思わなかった。
ヴァートは昨日、地下室からこちらに来た時と同じような動きで、ローブの裏側をまさぐる。そして、鍵の束を取り出し、南京錠を解錠した後、ヴァートがその部屋の扉を両手で押して開けた。
「ここで仕事を手伝ってもらう」
夜空は、ヴァートと共に、その部屋の中に入っていく。
「わあ……!」
中に入った瞬間、夜空の口から感嘆の声が漏れた。首を動かして、その空間を眺める。
夜空の視界に広がっていたのは、まるで小さな図書館のような空間だった。教室ほどの広
さの部屋に、本棚がいくつも置かれている。その本棚の中には分厚い本がぎっしりと詰まっていた。
それこそ、ファンタジー映画の中の魔法使いが、研究や、調べ物のために出入りしていそうな空間。夜空が幼い頃に想像していたり、こういった雰囲気の場所の映像を眺めて、行ってみたい、と想いを馳せた場所のような空間だった。
本棚に収められている本の文字は不思議な形状をした文字。意味を読み取ることは出来なかったけれど、夜空が幼い頃に見た紙に記されていた、「愛の魔法」の文字と似ている、となんとなく思った。
「ここは……?」
「蔵書庫だ。仕事用の本や集めた本を置いている」
「……全て、ヴァートさんが?」
「……私が集めた本もあるし、仕事の関係者から譲り受けたものもある」
「そうなんですね……! すごいです……!」
ヴァートは、やはり褒められ慣れていないのか、どう答えていいのか分からない、といった雰囲気で、夜空の方を眺めていた。
しばらくどこか夢心地だった夜空だが、ここには仕事で来た、と自分に言い聞かせて、我に返る。
「すみません。その、ずっと想像してた場所に似ていて、興奮して、はしゃいでしまいました。それで、俺の仕事、っていうのは……?」
ヴァートが指をさした。夜空はその方向に視線を向ける。木で出来た机の上に、何冊もの本が重ねられていた。
「あちらの机の上に置きっぱなしにしていた本がある。それを、元の位置まで戻して欲しい。側に場所のメモは置いてあるからそれに従って戻すんだ」
「はい、分かりました」
夜空がどこか高揚感を残したまま。本の側に行こうとした。すると、待つんだ、とヴァートの声が聞こえた。
「……仕事の前に、お前に魔法をかけさせてもらう」
「え?」
「魔法界の文字と人間界の文字は違う。だから読めないのは不便だろう」
危害を加える魔法ではない、と付け加えると、ヴァートは何か呪文を唱える。その響きは、首枷を付けた時のような、どこか攻撃的な響きはあまりない。柔らかなもの
昨日、こちらの世界に来た時に見えた光や、首枷を付けた時と同じように、再び、きらきらとした光が夜空の目の前に見えた。ヴァートの言葉通り、痛みも何もない。首枷に何かしたのかもしれない、と思って触れるも、やはり違うようだ。
「えっと……一体、何が」
「こちらの世界の文字のほとんどを視認出来るようにしておいた。魔力を持たないから、呪文を唱えることは出来なくとも、文字を読み、意味を取ることは出来るだろう」
その言葉を聞いて、夜空は本棚の本に視線を向ける。
「え……!?」
夜空の口から、歓声に似た驚きの声が漏れる。先ほどは読むことの出来なかった文字が読めるようになっていた。文字の形はそのままではある。でも、その意味を把握することが出来たのだ。まるで、知らない外国語の文字が急に読めるようになった感覚だった。
「……! すごいですね……!」
「こんなの魔法とも言えないくらいの大したことのない魔法だ。幼い子どもだって使える。それに、お前をこちらの世界に呼び出す際にも、似た魔法はかけていた」
「似た魔法、ですか?」
「私と喋ることが出来ているだろう? 本来、魔法界と人間界では別の言語を使っているから、そのままでは意思疎通をすることは叶わない」
夜空はこちらの世界に来た時のことを思い出す。確かに、ヴァートと一番最初に出会った時から、ヴァートとコミュニケーションを取ることが出来ていた。
「そうだったんですね。ありがとうございます……!」
全く考えていなかった。そこまで気を回していたとは。ヴァートの気遣いに似た、優しさを感じて夜空は礼を言う。
「お前のためではない。意思疎通が取れなくてパニックになって、暴れられたりしたら困るからな」
ヴァートはそう言うも、夜空は、やはり、優しい人だ、と思ってしまった。
「それじゃあ、私は書斎の方で作業をしている。終わったら戻ってくるんだ」
言いながら、ヴァートは扉の方へと向かっていった。
「はい、わかりました……!」
夜空は蔵書庫を出るヴァートを見送る。そして、自身も、重ねられた本の方へと歩みを進めた。
ヴァートは昨日、地下室からこちらに来た時と同じような動きで、ローブの裏側をまさぐる。そして、鍵の束を取り出し、南京錠を解錠した後、ヴァートがその部屋の扉を両手で押して開けた。
「ここで仕事を手伝ってもらう」
夜空は、ヴァートと共に、その部屋の中に入っていく。
「わあ……!」
中に入った瞬間、夜空の口から感嘆の声が漏れた。首を動かして、その空間を眺める。
夜空の視界に広がっていたのは、まるで小さな図書館のような空間だった。教室ほどの広
さの部屋に、本棚がいくつも置かれている。その本棚の中には分厚い本がぎっしりと詰まっていた。
それこそ、ファンタジー映画の中の魔法使いが、研究や、調べ物のために出入りしていそうな空間。夜空が幼い頃に想像していたり、こういった雰囲気の場所の映像を眺めて、行ってみたい、と想いを馳せた場所のような空間だった。
本棚に収められている本の文字は不思議な形状をした文字。意味を読み取ることは出来なかったけれど、夜空が幼い頃に見た紙に記されていた、「愛の魔法」の文字と似ている、となんとなく思った。
「ここは……?」
「蔵書庫だ。仕事用の本や集めた本を置いている」
「……全て、ヴァートさんが?」
「……私が集めた本もあるし、仕事の関係者から譲り受けたものもある」
「そうなんですね……! すごいです……!」
ヴァートは、やはり褒められ慣れていないのか、どう答えていいのか分からない、といった雰囲気で、夜空の方を眺めていた。
しばらくどこか夢心地だった夜空だが、ここには仕事で来た、と自分に言い聞かせて、我に返る。
「すみません。その、ずっと想像してた場所に似ていて、興奮して、はしゃいでしまいました。それで、俺の仕事、っていうのは……?」
ヴァートが指をさした。夜空はその方向に視線を向ける。木で出来た机の上に、何冊もの本が重ねられていた。
「あちらの机の上に置きっぱなしにしていた本がある。それを、元の位置まで戻して欲しい。側に場所のメモは置いてあるからそれに従って戻すんだ」
「はい、分かりました」
夜空がどこか高揚感を残したまま。本の側に行こうとした。すると、待つんだ、とヴァートの声が聞こえた。
「……仕事の前に、お前に魔法をかけさせてもらう」
「え?」
「魔法界の文字と人間界の文字は違う。だから読めないのは不便だろう」
危害を加える魔法ではない、と付け加えると、ヴァートは何か呪文を唱える。その響きは、首枷を付けた時のような、どこか攻撃的な響きはあまりない。柔らかなもの
昨日、こちらの世界に来た時に見えた光や、首枷を付けた時と同じように、再び、きらきらとした光が夜空の目の前に見えた。ヴァートの言葉通り、痛みも何もない。首枷に何かしたのかもしれない、と思って触れるも、やはり違うようだ。
「えっと……一体、何が」
「こちらの世界の文字のほとんどを視認出来るようにしておいた。魔力を持たないから、呪文を唱えることは出来なくとも、文字を読み、意味を取ることは出来るだろう」
その言葉を聞いて、夜空は本棚の本に視線を向ける。
「え……!?」
夜空の口から、歓声に似た驚きの声が漏れる。先ほどは読むことの出来なかった文字が読めるようになっていた。文字の形はそのままではある。でも、その意味を把握することが出来たのだ。まるで、知らない外国語の文字が急に読めるようになった感覚だった。
「……! すごいですね……!」
「こんなの魔法とも言えないくらいの大したことのない魔法だ。幼い子どもだって使える。それに、お前をこちらの世界に呼び出す際にも、似た魔法はかけていた」
「似た魔法、ですか?」
「私と喋ることが出来ているだろう? 本来、魔法界と人間界では別の言語を使っているから、そのままでは意思疎通をすることは叶わない」
夜空はこちらの世界に来た時のことを思い出す。確かに、ヴァートと一番最初に出会った時から、ヴァートとコミュニケーションを取ることが出来ていた。
「そうだったんですね。ありがとうございます……!」
全く考えていなかった。そこまで気を回していたとは。ヴァートの気遣いに似た、優しさを感じて夜空は礼を言う。
「お前のためではない。意思疎通が取れなくてパニックになって、暴れられたりしたら困るからな」
ヴァートはそう言うも、夜空は、やはり、優しい人だ、と思ってしまった。
「それじゃあ、私は書斎の方で作業をしている。終わったら戻ってくるんだ」
言いながら、ヴァートは扉の方へと向かっていった。
「はい、わかりました……!」
夜空は蔵書庫を出るヴァートを見送る。そして、自身も、重ねられた本の方へと歩みを進めた。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
魔術師の卵は憧れの騎士に告白したい
朏猫(ミカヅキネコ)
BL
魔術学院に通うクーノは小さい頃助けてくれた騎士ザイハムに恋をしている。毎年バレンタインの日にチョコを渡しているものの、ザイハムは「いまだにお礼なんて律儀な子だな」としか思っていない。ザイハムの弟で重度のブラコンでもあるファルスの邪魔を躱しながら、今年は別の想いも胸にチョコを渡そうと考えるクーノだが……。
[名家の騎士×魔術師の卵 / BL]
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
運命が切れたそのあとは。
めっちゃ抹茶
BL
【本編完結】
オメガのフィアは、憧れていた運命の番と出会えて喜んだのも束の間、運命の番が何者かに刺殺されてしまう。目の前で繰り広げられた惨劇にフィアは意識を失い、倒れてしまう。
呼ばれた救急車で二人は緊急搬送されたものの、フィアは一向に目を覚ます気配がない。
身体の深い奥底で繋がっているという運命。それがぷつりと切れたら果たして二人はどうなってしまうのか。そして目を覚ました先に目にしたものとは————。
投稿予約分(4話)は毎日更新。あと数話で完結予定。
遅筆&亀更新なのでゆっくりお待ちいただければ幸いです。見切り発車の突貫工事で書いたお話故、構想はあれど最後まで書き切っておらず、内容に纏まりがないかもしれませんが温かい目で見てください🙏
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
王子様のご帰還です
小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。
平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。
そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。
何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!?
異世界転移 王子×王子・・・?
こちらは個人サイトからの再録になります。
十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
サンタからの贈り物
未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。
※別小説のセルフリメイクです。
【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました
及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。
※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる