【完結】孤独の青年と寂しい魔法使いに無二の愛を ~贄になるために異世界に転移させられたはずなのに、穏やかな日々を過ごしています~

雨宮ロミ

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第二章 奇妙で穏やかな生活

第十二話 仕事と魔法

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昨日、部屋を案内された時に、鍵のかかっていた部屋はいくつかあった。その時には簡潔に、仕事に使う部屋だと言われていて、夜空もそれで納得していた。だから、この中に入るとは思わなかった。
ヴァートは昨日、地下室からこちらに来た時と同じような動きで、ローブの裏側をまさぐる。そして、鍵の束を取り出し、南京錠を解錠した後、ヴァートがその部屋の扉を両手で押して開けた。

「ここで仕事を手伝ってもらう」

夜空は、ヴァートと共に、その部屋の中に入っていく。

「わあ……!」

 中に入った瞬間、夜空の口から感嘆の声が漏れた。首を動かして、その空間を眺める。
夜空の視界に広がっていたのは、まるで小さな図書館のような空間だった。教室ほどの広
さの部屋に、本棚がいくつも置かれている。その本棚の中には分厚い本がぎっしりと詰まっていた。 
それこそ、ファンタジー映画の中の魔法使いが、研究や、調べ物のために出入りしていそうな空間。夜空が幼い頃に想像していたり、こういった雰囲気の場所の映像を眺めて、行ってみたい、と想いを馳せた場所のような空間だった。
本棚に収められている本の文字は不思議な形状をした文字。意味を読み取ることは出来なかったけれど、夜空が幼い頃に見た紙に記されていた、「愛の魔法」の文字と似ている、となんとなく思った。

「ここは……?」
「蔵書庫だ。仕事用の本や集めた本を置いている」
「……全て、ヴァートさんが?」
「……私が集めた本もあるし、仕事の関係者から譲り受けたものもある」
「そうなんですね……! すごいです……!」

ヴァートは、やはり褒められ慣れていないのか、どう答えていいのか分からない、といった雰囲気で、夜空の方を眺めていた。
しばらくどこか夢心地だった夜空だが、ここには仕事で来た、と自分に言い聞かせて、我に返る。 

「すみません。その、ずっと想像してた場所に似ていて、興奮して、はしゃいでしまいました。それで、俺の仕事、っていうのは……?」

 ヴァートが指をさした。夜空はその方向に視線を向ける。木で出来た机の上に、何冊もの本が重ねられていた。

「あちらの机の上に置きっぱなしにしていた本がある。それを、元の位置まで戻して欲しい。側に場所のメモは置いてあるからそれに従って戻すんだ」
「はい、分かりました」

 夜空がどこか高揚感を残したまま。本の側に行こうとした。すると、待つんだ、とヴァートの声が聞こえた。

「……仕事の前に、お前に魔法をかけさせてもらう」
「え?」
「魔法界の文字と人間界の文字は違う。だから読めないのは不便だろう」

危害を加える魔法ではない、と付け加えると、ヴァートは何か呪文を唱える。その響きは、首枷を付けた時のような、どこか攻撃的な響きはあまりない。柔らかなもの
昨日、こちらの世界に来た時に見えた光や、首枷を付けた時と同じように、再び、きらきらとした光が夜空の目の前に見えた。ヴァートの言葉通り、痛みも何もない。首枷に何かしたのかもしれない、と思って触れるも、やはり違うようだ。

「えっと……一体、何が」
「こちらの世界の文字のほとんどを視認出来るようにしておいた。魔力を持たないから、呪文を唱えることは出来なくとも、文字を読み、意味を取ることは出来るだろう」

 その言葉を聞いて、夜空は本棚の本に視線を向ける。

「え……!?」

夜空の口から、歓声に似た驚きの声が漏れる。先ほどは読むことの出来なかった文字が読めるようになっていた。文字の形はそのままではある。でも、その意味を把握することが出来たのだ。まるで、知らない外国語の文字が急に読めるようになった感覚だった。

「……! すごいですね……!」
「こんなの魔法とも言えないくらいの大したことのない魔法だ。幼い子どもだって使える。それに、お前をこちらの世界に呼び出す際にも、似た魔法はかけていた」
「似た魔法、ですか?」
「私と喋ることが出来ているだろう? 本来、魔法界と人間界では別の言語を使っているから、そのままでは意思疎通をすることは叶わない」 

 夜空はこちらの世界に来た時のことを思い出す。確かに、ヴァートと一番最初に出会った時から、ヴァートとコミュニケーションを取ることが出来ていた。

「そうだったんですね。ありがとうございます……!」
 
 全く考えていなかった。そこまで気を回していたとは。ヴァートの気遣いに似た、優しさを感じて夜空は礼を言う。

「お前のためではない。意思疎通が取れなくてパニックになって、暴れられたりしたら困るからな」

 ヴァートはそう言うも、夜空は、やはり、優しい人だ、と思ってしまった。

「それじゃあ、私は書斎の方で作業をしている。終わったら戻ってくるんだ」

言いながら、ヴァートは扉の方へと向かっていった。

「はい、わかりました……!」

 夜空は蔵書庫を出るヴァートを見送る。そして、自身も、重ねられた本の方へと歩みを進めた。
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