【完結】孤独の青年と寂しい魔法使いに無二の愛を ~贄になるために異世界に転移させられたはずなのに、穏やかな日々を過ごしています~

雨宮ロミ

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第二章 奇妙で穏やかな生活

第十一話「いただきます」

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 昨日と同じような距離で、二人、向かい合いながら座った。やはり距離がある。昨日と違うのは、ヴァートの前にも、食事――夜空が作ったパン粥が置かれていたことだった。
 警戒にも似た戸惑いの視線を、パン粥に向けている。ふわふわと湯気が立ったパン粥を、ヴァートはじっと見つめている。

「……。大丈夫です。その、怪しいものは入れていませんので……」

 作り始めから作り終わりまでずっとヴァートは夜空のことを眺めていた。でも、念のために、ヴァートを安心させるように言う。

「……それは、分かっている」

 けれどもヴァートが夜空の食事を見る目線は、警戒と戸惑いがあった。どうすればいいのか分からない、と言った視線だ。まるで、初めてのことをしている、と言った雰囲気。

 先に食べた方が安心するかもしれない、と思って、夜空は手を合わせて、「いただきます」と口にする。一度味見はしていたけれど、パン粥の甘い味がする。夜空が数口食べて平気そうなところを眺めると、ヴァートも、警戒と戸惑いを混ぜながらも、手を合わせた。

「……いただき、ます」

ヴァートは、少し、手を震わせながら、木のスプーンを持ち、パン粥をすくう。そして、少量それを口に入れ、ゆっくりと口を動かし咀嚼する。夜空は、その光景を緊張しながら、じっと眺めていた。

「……どうですか?」

 夜空の問いかけに、ほんの少し、首をかしげる。けれども、その表情は柔らかだった。

「美味しい、と思う……」
「本当ですか?」
「……ああ」

 そして、もうひとすくい、先ほどよりも滑らかな動きで、スプーンでパン粥をすくって口に入れる。そのまま、ゆっくりと食べ進め始めた。
 ヴァートの雰囲気が少しだけ緩まったような気がした。
 会話は少ない。けれども、器の中のパン粥は、着実に減っている。一度、ヴァートが手を止め、パン粥に視線を向けた。

「どうされましたか?」
「……不思議な、感覚だ」
「え……?」
「……誰かに、自分のために、あたたかな食事を作ってもらって、出来たてのものを、落ち着いて、一緒に食べて、なんて、ほとんどなかったから、分からない……」

 ひどく、戸惑っている様子を見せていた。

「そうですか。俺もなんです」

 小さい頃、自分のために、食事を作ってもらったことはあった。ありがたさはある。でも、それのほとんどが冷蔵庫の中に入った食事で、一人で食べていて。寂しさがあった。出来たてを、二人で食べたことは、ほとんどなかった。

「だから、昨日、お食事、作っていただけたりして、嬉しかったんです」
「……そうか」

 ヴァートは答える。戸惑いと警戒の中に、どこか、子どものような雰囲気が見えた木がした。
 殺される相手と食事をしている。というのに、今まで味わったことのないようなあたたかさと、穏やかさがあった。

 やがて、二人の皿が空になる。

「ごちそうさまでした」
「……ごちそう、さま、でした」

 ヴァートもどこかたどたどしく、ごちそうさま、と口にする。その言葉に、夜空の口角が柔らかく上がった。
 食事の片付けを終えた。でも、まだ一日は始まったばかりだった。

「ヴァートさん」
「どうした?」
「他に、何か手伝うこと、ありますか?」

 隣あって、廊下を歩きながら、夜空は訊ねる。先ほどの食事の影響か、少しだけ、ヴァートの空気が柔らかくなったような気がした。

「……それでは、簡単なものであるが、仕事をしてもらおうか」
「仕事、ですか?」
「ああ」

 ヴァートの歩みに合わせて、夜空も歩く。そして、ある一室に辿り着いた。その一室は、南京錠のかかった、それこそファンタジー世界の中にあるような、鉄で出来た大きな扉の部屋だった。
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