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第二章 奇妙で穏やかな生活
第十話 朝食の準備
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ヴァートと共に、夜空はキッチンへと向かい、中に入った。そのキッチンは、やはりこの家に沿った清潔で綺麗な空間。広さはそこまでないものの、テレビ番組で放送していた、外国の豪華なレストランを特集していた番組を思い起こさせるような綺麗なところだった。魔法界のキッチンではあるけれど、やはり設備は日本のインフラと似ていた。コンロや電子レンジに似た、見慣れた装置や設備がいくつもある。
「えっと……これから、何を……」
ヴァートに指示を求める。ヴァートは少し離れたところで、夜空の方を眺める。
「私の分は別にいい。お前が食べたいものを勝手に作るんだ」
「え?」
「大したものはないが、材料も場所も適当に使っていい。見慣れないものもあるだろうが、お前が元いた世界の食材に似たものもあるだろう。もし何か分からないものがあれば私に訊くんだ」
主食のパンはあちらにある、と彼は指さした。いくつものパンが、布巾の敷かれた籠の中に入っている。絵本の挿絵のように。
「ヴァートさんの分の食事は……?」
先ほどの話だと、夜空の分だけしか作らなくていい、という雰囲気。じゃあ、ヴァートの朝食はどうなるのだろうか。
夜空が訊ねると、ばつが悪そうに視線をそらした。
「別に私は食べなくてもいい。そんなに腹は空いていない」
「ちなみに、夕食は……」
「…………だから、お前には関係ないだろう」
視線をそらしたまま、ヴァートは言う。夕食も食べた、という雰囲気ではない。食欲がないのだろうか。昨日あんな風に寝ていて、それで、何も食べてない、となると、さすがに心配になってしまう。
「……その、もしよかったら、ヴァートさんの分も作らせていただけませんか?」
「……別に食べなくていい、と言ってるだろう?」
「……。でも、昨日、作っていただきましたし……」
夜空はヴァートに視線を向ける。やはり、顔色が悪い。何か、食べてもらいたい。夜空は引き下がらない。じっと、ヴァートの方に視線を向ける。すると、彼はやはり首を軽く横に振る。いらない、というよりも、諦め、という雰囲気であった。
「……。勝手にするんだ……」
「ありがとうございます……!」
ヴァートが、溜息混じりに、随分とお節介な奴だ。と呟いたのが聞こえた。
「毒を入れたり刃物で殺そうとしても無駄だからな」
念を押すように、冷ややかな視線でヴァートは言う。
「はい。分かっています」
夜空は、ヴァートを安心させるように柔らかな視線で返した。
夜空は調理を始める。
「えっと……食材は……」
「あそこだ」
ヴァートが指し示しながら言う。ヴァートが指さした方向には、冷蔵庫のような形状の、食料を保存する小さな箱のようなものがあった。
中をそっと開ける。一番最初に目についたのは、元いた世界では見慣れない果実。想像上の果実、という言葉で言い表せそうな見た目をしている。それを見て、ここは元いた世界とは違う場所なのだ、と改めて思った。
でも、ヴァートの言う通り、見慣れないもののその中にも、牛乳らしきもの、卵らしきもの、ベーコンのようなもの、元いた世界の野菜によく似たものもいくつかあり、安心感を覚えた。
冷蔵庫の中を見ながら、夜空はヴァートが食べやすそうなものを考えていた。そして、メニューを決めると、
「こちら、使っても大丈夫ですか?」
夜空が用意したのは砂糖と牛乳とパン。これを使わせてもらうことにした。
「……ああ」
「パン粥を作ろうと思ってるんですけれど、食べられそうですか?」
ヴァートが食べやすそうなもので、あまり長い時間の調理を必要とせずに、ここにあるもので出来そうなもの。それでぼんやりと浮かんだのがパン粥だった。
「……別に、食べることは出来る」
食べることは出来る、と不思議な答えを返された。否定ではない、と夜空は受け取って、調理を始めた。
夜空は、鉄で出来た鍋のような器具に、二人分の牛乳と砂糖を入れて火をかける。
牛乳と砂糖を入れて沸騰させた後、パンをちぎって柔らかく煮込む。すると、空間に、牛乳の甘く柔らかな匂いが漂い始める。
ヴァートは、じ、っと、文字通り監視するように、夜空の方を眺めていた。夜空は、ヴァートを安心させるような視線を時々返していた。敵意も、何もない、という想いを込めた視線を。お礼として、そして、彼が少しでも心地良く、穏やかな気持ちでいられるように。
「えっと……これから、何を……」
ヴァートに指示を求める。ヴァートは少し離れたところで、夜空の方を眺める。
「私の分は別にいい。お前が食べたいものを勝手に作るんだ」
「え?」
「大したものはないが、材料も場所も適当に使っていい。見慣れないものもあるだろうが、お前が元いた世界の食材に似たものもあるだろう。もし何か分からないものがあれば私に訊くんだ」
主食のパンはあちらにある、と彼は指さした。いくつものパンが、布巾の敷かれた籠の中に入っている。絵本の挿絵のように。
「ヴァートさんの分の食事は……?」
先ほどの話だと、夜空の分だけしか作らなくていい、という雰囲気。じゃあ、ヴァートの朝食はどうなるのだろうか。
夜空が訊ねると、ばつが悪そうに視線をそらした。
「別に私は食べなくてもいい。そんなに腹は空いていない」
「ちなみに、夕食は……」
「…………だから、お前には関係ないだろう」
視線をそらしたまま、ヴァートは言う。夕食も食べた、という雰囲気ではない。食欲がないのだろうか。昨日あんな風に寝ていて、それで、何も食べてない、となると、さすがに心配になってしまう。
「……その、もしよかったら、ヴァートさんの分も作らせていただけませんか?」
「……別に食べなくていい、と言ってるだろう?」
「……。でも、昨日、作っていただきましたし……」
夜空はヴァートに視線を向ける。やはり、顔色が悪い。何か、食べてもらいたい。夜空は引き下がらない。じっと、ヴァートの方に視線を向ける。すると、彼はやはり首を軽く横に振る。いらない、というよりも、諦め、という雰囲気であった。
「……。勝手にするんだ……」
「ありがとうございます……!」
ヴァートが、溜息混じりに、随分とお節介な奴だ。と呟いたのが聞こえた。
「毒を入れたり刃物で殺そうとしても無駄だからな」
念を押すように、冷ややかな視線でヴァートは言う。
「はい。分かっています」
夜空は、ヴァートを安心させるように柔らかな視線で返した。
夜空は調理を始める。
「えっと……食材は……」
「あそこだ」
ヴァートが指し示しながら言う。ヴァートが指さした方向には、冷蔵庫のような形状の、食料を保存する小さな箱のようなものがあった。
中をそっと開ける。一番最初に目についたのは、元いた世界では見慣れない果実。想像上の果実、という言葉で言い表せそうな見た目をしている。それを見て、ここは元いた世界とは違う場所なのだ、と改めて思った。
でも、ヴァートの言う通り、見慣れないもののその中にも、牛乳らしきもの、卵らしきもの、ベーコンのようなもの、元いた世界の野菜によく似たものもいくつかあり、安心感を覚えた。
冷蔵庫の中を見ながら、夜空はヴァートが食べやすそうなものを考えていた。そして、メニューを決めると、
「こちら、使っても大丈夫ですか?」
夜空が用意したのは砂糖と牛乳とパン。これを使わせてもらうことにした。
「……ああ」
「パン粥を作ろうと思ってるんですけれど、食べられそうですか?」
ヴァートが食べやすそうなもので、あまり長い時間の調理を必要とせずに、ここにあるもので出来そうなもの。それでぼんやりと浮かんだのがパン粥だった。
「……別に、食べることは出来る」
食べることは出来る、と不思議な答えを返された。否定ではない、と夜空は受け取って、調理を始めた。
夜空は、鉄で出来た鍋のような器具に、二人分の牛乳と砂糖を入れて火をかける。
牛乳と砂糖を入れて沸騰させた後、パンをちぎって柔らかく煮込む。すると、空間に、牛乳の甘く柔らかな匂いが漂い始める。
ヴァートは、じ、っと、文字通り監視するように、夜空の方を眺めていた。夜空は、ヴァートを安心させるような視線を時々返していた。敵意も、何もない、という想いを込めた視線を。お礼として、そして、彼が少しでも心地良く、穏やかな気持ちでいられるように。
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