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第4章 ずれていく日々
第26話 ずれていく日々 その1
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その場から俺は逃げてしまった。家に戻るよう道に戻るようにして。
自分でも何をしているのかきちんとわかっていないしどうしてこんなことをしたのか、という感じだ。ヨリが女の人と一緒にいるだけであんなに動揺して失礼な態度を取ってしまった。
そのまま、俺は家に帰る。何もできないままに、部屋のソファの上に、体育座りをするように座り込む。はあ、と溜息のような声が出てしまった。未だに嫌に鳴り響く心臓の鼓動が治まらない。いつまでもこの状態でいられるわけがない、というのは分かっている。何も決めていないこの時間がいつまでも続くわけがない。ヨリが突然「結婚するんだ。じゃあね」と言ってしまうこともあり得なくもない。
「……」
あの瞬間、ヨリがいなくなった時のことを想像してしまった。嫉妬している、というよりは、ヨリがああして、俺じゃない別の女の人と付き合って、そして添い遂げることを考えて、不安になってしまった。
ヨリが帰ってきた時に何もないと可哀想だな、って思って気力を振り絞ってなんとかシチューというかミルクスープを作りご飯を炊いた。
ヨリが戻ってくる。
「どうしたの? りせ」
ヨリが聞いているどうしたの、は十中八九さっきのこと。そういう関係にもなっていないのに
「……なんでもないよ。本当に、なんでもない。さっきはごめん。すごくよくなかったと思ってる」
なんでもないわけがない。けれども「ヨリが好きだから、ヨリが知らない女の子と一緒にいて不安になった」なんて言えないから、そう言ってヘタクソな誤魔化しをした。
普段だったら「そっか」で済まされそうなのに、ヨリは俺の方をじっと見て、俺が何か言うのを待っている。ヨリが頬を掴むようにして、手を伸ばす。俺はそれを避けるようにして後ろに下がった。
「……あの女の子、式田さん……、とはどんな関係なんだ?」
「ああ、えーちゃんね。大学の同期。で油彩やってて今も連絡取ってる」
ああ、心配しないで。えーちゃん、彼氏いるから。とヨリは俺が聞きたいことを分かっているかのように言う。けれども、俺の不安は消えてはくれなかった。
「りせ、えーちゃんと何かあったの?」
「なんでもない。初対面だよ」
「あれはなんでもない、って感じじゃなかったよ。えーちゃんも困ってたよ」
「……ごめん、その、本当に、なんでもないから」
ヨリの言う通り。けれども俺は、なんでもないから、を繰り返してやり過ごそうとする。本当は、なんでもないわけないのに。こんなに「なんでもない」を人生で繰り返したのは初めてだ。
自分でも何をしているのかきちんとわかっていないしどうしてこんなことをしたのか、という感じだ。ヨリが女の人と一緒にいるだけであんなに動揺して失礼な態度を取ってしまった。
そのまま、俺は家に帰る。何もできないままに、部屋のソファの上に、体育座りをするように座り込む。はあ、と溜息のような声が出てしまった。未だに嫌に鳴り響く心臓の鼓動が治まらない。いつまでもこの状態でいられるわけがない、というのは分かっている。何も決めていないこの時間がいつまでも続くわけがない。ヨリが突然「結婚するんだ。じゃあね」と言ってしまうこともあり得なくもない。
「……」
あの瞬間、ヨリがいなくなった時のことを想像してしまった。嫉妬している、というよりは、ヨリがああして、俺じゃない別の女の人と付き合って、そして添い遂げることを考えて、不安になってしまった。
ヨリが帰ってきた時に何もないと可哀想だな、って思って気力を振り絞ってなんとかシチューというかミルクスープを作りご飯を炊いた。
ヨリが戻ってくる。
「どうしたの? りせ」
ヨリが聞いているどうしたの、は十中八九さっきのこと。そういう関係にもなっていないのに
「……なんでもないよ。本当に、なんでもない。さっきはごめん。すごくよくなかったと思ってる」
なんでもないわけがない。けれども「ヨリが好きだから、ヨリが知らない女の子と一緒にいて不安になった」なんて言えないから、そう言ってヘタクソな誤魔化しをした。
普段だったら「そっか」で済まされそうなのに、ヨリは俺の方をじっと見て、俺が何か言うのを待っている。ヨリが頬を掴むようにして、手を伸ばす。俺はそれを避けるようにして後ろに下がった。
「……あの女の子、式田さん……、とはどんな関係なんだ?」
「ああ、えーちゃんね。大学の同期。で油彩やってて今も連絡取ってる」
ああ、心配しないで。えーちゃん、彼氏いるから。とヨリは俺が聞きたいことを分かっているかのように言う。けれども、俺の不安は消えてはくれなかった。
「りせ、えーちゃんと何かあったの?」
「なんでもない。初対面だよ」
「あれはなんでもない、って感じじゃなかったよ。えーちゃんも困ってたよ」
「……ごめん、その、本当に、なんでもないから」
ヨリの言う通り。けれども俺は、なんでもないから、を繰り返してやり過ごそうとする。本当は、なんでもないわけないのに。こんなに「なんでもない」を人生で繰り返したのは初めてだ。
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