「10年間、ずっと好き」 ~再会した美形同級生と恋人になるまでの話~

雨宮ロミ

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第2章:高校時代の俺達

第18話 夏休み その3

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8月。油彩の匂いのする美術室に入る。また今日もヨリを待つことになるだろう、って思っていた。今日はちゃんと時間通りに来るのか。

「あ、お疲れ、りせ」
「あ、お疲れ……」

ちょっと間の抜けた響きのある声を出してしまった。珍しくヨリの方が早く美術室に来ていたから。鍵も、ヨリが借りたのだろうか。
ヨリは美術室の奥の方で何かを描いていた。パレットを持って、キャンバス贄を描いている。映画のワンシーンみたいだ。

「何描いてるんだ?」
「夏休みの課題。忘れてた」

 ヨリの方を覗き込む。ふわ、とより濃く、独特の油彩の匂いがした。「エキセントリック天才貴公子」の名前の「天才貴公子」の部分に随分と説得力が出てきた。目の前で描かれている絵はこの間見た時のように、まるで美術館に飾られている絵みたいだったから。
 俺はしばらく彼の絵を眺めていた。

「それじゃあ、ポスターの色塗りやろうか」
「ああ」

下書きをなぞり終えて色塗りに入った。美術室の床に何枚も新聞紙を強いて、ひたすら見本のポスターと並べて色を塗っていく。小学校時代に自由に色を塗ってた時と同じような感覚で楽しい。この調子の進捗で、順調にいけば、きっと期間内には完成するだろう。そんなことを考えながら手を動かす。

「りせ」
「どうした?」
「今日のお昼何?」
「冷やし中華」
「あ、嬉しい。美味しそう」

 ヨリに弁当を作るのも日課、みたいになっていた。気が向いた時、だけだったのに、作る手間的には三人分も四人分も変わらないから、と今日はスープジャーを使っての冷やし中華。姉ちゃんと妹の分も冷やし中華を作っておいた。まあ、もう少ししたらバイトが始まるから、そこできちんと食費は清算しておく。

 そして俺の方に綺麗な顔が向けられる。

「ねえ、りせ」
「何?」
「寂しくない?」
「あ、ああ……」

 突然のことにyesの返事をしてしまう。本心ではあった。あの時感じていた寂しさ、は消えていた。

そして昼を迎えて、俺達は昼食を食べることにした。

「りせのご飯、美味しいね」
「どうも」

 ご飯を美味しい、と言われるのは素直に嬉しい。

「ねえ、りせ」
「何?」
「僕のために毎日ご飯作って」
「……作ってるだろ。昼飯は」
「まあ、そうだね。でも、そういう意味じゃなくって、りせに毎日ご飯作ってほしいなって」
「どういうこと?」
「……そういうことだよ」

 そういうことだよ、とヨリは言う。言うだけ言って、再び冷やし中華を食べる。

「ごちそうさまでした。今日もおいしかった」

 空っぽになったスープジャーを受け取る。

「……まあ、また作るよ」
「……うん」
 
 そうして午後も作業を行う。美術室はヨリが前に言っていた時のように、

「ね、りせ。今日も一緒に帰ろう」
「ああ」

 
 道中が一緒だから、夏休み中もしょっちゅう一緒に帰っている。二人並んで歩く。ヨリは背が高い。今日は、朝描いていた影響か、少しだけ油彩の匂いがした。

「そういえば、りせに聞きたいことがあるんだけど、いい?」

 何だろうか、唐突に、いつもヨリの質問は唐突だ。明日の弁当のおかずって何?くらいの軽い雰囲気での質問。それこそ、今日の昼に聞かれた、お昼何、みたいな感じの。

「なんだ?」

 けれども、ヨリはその雰囲気とは全然違う、真面目な雰囲気を俺に向けている。一体何を訊かれるのだろうか。俺も少し緊張した。

「……りせってさ、好きな人、いる?」
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