20 / 39
第2章:高校時代の俺達
第18話 夏休み その3
しおりを挟む
8月。油彩の匂いのする美術室に入る。また今日もヨリを待つことになるだろう、って思っていた。今日はちゃんと時間通りに来るのか。
「あ、お疲れ、りせ」
「あ、お疲れ……」
ちょっと間の抜けた響きのある声を出してしまった。珍しくヨリの方が早く美術室に来ていたから。鍵も、ヨリが借りたのだろうか。
ヨリは美術室の奥の方で何かを描いていた。パレットを持って、キャンバス贄を描いている。映画のワンシーンみたいだ。
「何描いてるんだ?」
「夏休みの課題。忘れてた」
ヨリの方を覗き込む。ふわ、とより濃く、独特の油彩の匂いがした。「エキセントリック天才貴公子」の名前の「天才貴公子」の部分に随分と説得力が出てきた。目の前で描かれている絵はこの間見た時のように、まるで美術館に飾られている絵みたいだったから。
俺はしばらく彼の絵を眺めていた。
「それじゃあ、ポスターの色塗りやろうか」
「ああ」
下書きをなぞり終えて色塗りに入った。美術室の床に何枚も新聞紙を強いて、ひたすら見本のポスターと並べて色を塗っていく。小学校時代に自由に色を塗ってた時と同じような感覚で楽しい。この調子の進捗で、順調にいけば、きっと期間内には完成するだろう。そんなことを考えながら手を動かす。
「りせ」
「どうした?」
「今日のお昼何?」
「冷やし中華」
「あ、嬉しい。美味しそう」
ヨリに弁当を作るのも日課、みたいになっていた。気が向いた時、だけだったのに、作る手間的には三人分も四人分も変わらないから、と今日はスープジャーを使っての冷やし中華。姉ちゃんと妹の分も冷やし中華を作っておいた。まあ、もう少ししたらバイトが始まるから、そこできちんと食費は清算しておく。
そして俺の方に綺麗な顔が向けられる。
「ねえ、りせ」
「何?」
「寂しくない?」
「あ、ああ……」
突然のことにyesの返事をしてしまう。本心ではあった。あの時感じていた寂しさ、は消えていた。
そして昼を迎えて、俺達は昼食を食べることにした。
「りせのご飯、美味しいね」
「どうも」
ご飯を美味しい、と言われるのは素直に嬉しい。
「ねえ、りせ」
「何?」
「僕のために毎日ご飯作って」
「……作ってるだろ。昼飯は」
「まあ、そうだね。でも、そういう意味じゃなくって、りせに毎日ご飯作ってほしいなって」
「どういうこと?」
「……そういうことだよ」
そういうことだよ、とヨリは言う。言うだけ言って、再び冷やし中華を食べる。
「ごちそうさまでした。今日もおいしかった」
空っぽになったスープジャーを受け取る。
「……まあ、また作るよ」
「……うん」
そうして午後も作業を行う。美術室はヨリが前に言っていた時のように、
「ね、りせ。今日も一緒に帰ろう」
「ああ」
道中が一緒だから、夏休み中もしょっちゅう一緒に帰っている。二人並んで歩く。ヨリは背が高い。今日は、朝描いていた影響か、少しだけ油彩の匂いがした。
「そういえば、りせに聞きたいことがあるんだけど、いい?」
何だろうか、唐突に、いつもヨリの質問は唐突だ。明日の弁当のおかずって何?くらいの軽い雰囲気での質問。それこそ、今日の昼に聞かれた、お昼何、みたいな感じの。
「なんだ?」
けれども、ヨリはその雰囲気とは全然違う、真面目な雰囲気を俺に向けている。一体何を訊かれるのだろうか。俺も少し緊張した。
「……りせってさ、好きな人、いる?」
「あ、お疲れ、りせ」
「あ、お疲れ……」
ちょっと間の抜けた響きのある声を出してしまった。珍しくヨリの方が早く美術室に来ていたから。鍵も、ヨリが借りたのだろうか。
ヨリは美術室の奥の方で何かを描いていた。パレットを持って、キャンバス贄を描いている。映画のワンシーンみたいだ。
「何描いてるんだ?」
「夏休みの課題。忘れてた」
ヨリの方を覗き込む。ふわ、とより濃く、独特の油彩の匂いがした。「エキセントリック天才貴公子」の名前の「天才貴公子」の部分に随分と説得力が出てきた。目の前で描かれている絵はこの間見た時のように、まるで美術館に飾られている絵みたいだったから。
俺はしばらく彼の絵を眺めていた。
「それじゃあ、ポスターの色塗りやろうか」
「ああ」
下書きをなぞり終えて色塗りに入った。美術室の床に何枚も新聞紙を強いて、ひたすら見本のポスターと並べて色を塗っていく。小学校時代に自由に色を塗ってた時と同じような感覚で楽しい。この調子の進捗で、順調にいけば、きっと期間内には完成するだろう。そんなことを考えながら手を動かす。
「りせ」
「どうした?」
「今日のお昼何?」
「冷やし中華」
「あ、嬉しい。美味しそう」
ヨリに弁当を作るのも日課、みたいになっていた。気が向いた時、だけだったのに、作る手間的には三人分も四人分も変わらないから、と今日はスープジャーを使っての冷やし中華。姉ちゃんと妹の分も冷やし中華を作っておいた。まあ、もう少ししたらバイトが始まるから、そこできちんと食費は清算しておく。
そして俺の方に綺麗な顔が向けられる。
「ねえ、りせ」
「何?」
「寂しくない?」
「あ、ああ……」
突然のことにyesの返事をしてしまう。本心ではあった。あの時感じていた寂しさ、は消えていた。
そして昼を迎えて、俺達は昼食を食べることにした。
「りせのご飯、美味しいね」
「どうも」
ご飯を美味しい、と言われるのは素直に嬉しい。
「ねえ、りせ」
「何?」
「僕のために毎日ご飯作って」
「……作ってるだろ。昼飯は」
「まあ、そうだね。でも、そういう意味じゃなくって、りせに毎日ご飯作ってほしいなって」
「どういうこと?」
「……そういうことだよ」
そういうことだよ、とヨリは言う。言うだけ言って、再び冷やし中華を食べる。
「ごちそうさまでした。今日もおいしかった」
空っぽになったスープジャーを受け取る。
「……まあ、また作るよ」
「……うん」
そうして午後も作業を行う。美術室はヨリが前に言っていた時のように、
「ね、りせ。今日も一緒に帰ろう」
「ああ」
道中が一緒だから、夏休み中もしょっちゅう一緒に帰っている。二人並んで歩く。ヨリは背が高い。今日は、朝描いていた影響か、少しだけ油彩の匂いがした。
「そういえば、りせに聞きたいことがあるんだけど、いい?」
何だろうか、唐突に、いつもヨリの質問は唐突だ。明日の弁当のおかずって何?くらいの軽い雰囲気での質問。それこそ、今日の昼に聞かれた、お昼何、みたいな感じの。
「なんだ?」
けれども、ヨリはその雰囲気とは全然違う、真面目な雰囲気を俺に向けている。一体何を訊かれるのだろうか。俺も少し緊張した。
「……りせってさ、好きな人、いる?」
0
あなたにおすすめの小説
今日も、社会科準備室で
下井理佐
BL
内気で弱気な高校生・鈴山夏芽(すずやまなつめ)は、昼休みになると誰もいない社会科準備室でこっそりと絵を描いていた。
夏芽はいつものように社会科準備室を開ける。そこには今年赴任してきた社会科教室・高山秋次(あきつぐ)がいた。
新任式で黄色い声を受けていた高山がいることに戸惑い退室しようとするが、高山に引き止められる。
萎縮しながらも絵を描く夏芽に高山は興味を持ち出し、次第に昼休みが密かな楽しみになる。
大嫌いなこの世界で
十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。
豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。
昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、
母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。
そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる