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第2章:高校時代の俺達
第15話 ヨリとの日々 その6
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「わ……」
俺の目に入ってきたのはまるでプロが描いたような絵だった。ベルベットみたいな素材のテーブルクロスが敷かれた円形のテーブル。その上に瓶とかフルーツとかが置かれているのが描かれている。まるで、写真。いや、写真、というよりその机のある空間そのものを切り取ってはめ込んだみたいな絵。美術館に飾られていてもおかしくないくらいのレベルの絵だった。
「すごいな……」
溜息混じりにすごいな、を繰り返してしまった。俺は絵心とかもないに等しいし、絵に関しては全く詳しくない。姉ちゃんと妹と絵しりとりをやったら俺のだけあんまり上手くない、という感じだった。けど、この絵はなんだか別に思えた。すごく上手いし綺麗だし、そして、不思議な魅力を感じてしまう。
「ああ、それ僕が描いた」
絵をじっと眺めていたら、ヨリがそんなことをしれっと言った。まるで「今日のお昼ご飯のカレー、美味しかったよ」みたいな雰囲気で。
「え!? ヨリが!?」
ヨリの答えに俺はひどく驚いた声を上げてしまった。
「うん。練習用だけど」
「練習用……!? へえ、すっごいな……」
もう一度ヨリの描いた絵の方に視線を向ける。練習用、には見えない。本当に、このまま美術館に飾られてもおかしくないくらい。ポスターの絵はヨリが描いた、って言っていた気がする。確か、その時も上手いな、と思っていたけれど、ポスターの華やかな雰囲気とはまた違う、引き込まれるような絵だった。
「……ありがとう」
単調な声色のヨリだけど、その時の声は随分嬉しそうだった。絵の方に視線を向けていて、見ていなかったのが惜しい。
「ねえ、いつかりせをモデルに絵、描いてもいい?」
「俺? ありがたいけど、俺をモデルにして面白いか……?」
ヨリは俺に視線を向ける。ヨリをモデルに描いた方がいいんじゃないか、と思うくらいに綺麗な顔。嬉しくないわけではないけど、なんか、力不足じゃないかと思ってしまう。
「りせがいい。りせを描きたい」
けど、ヨリは視線を動かさない。真っ直ぐに俺の方を見ながらヨリは言う。やっぱり、ヨリが自画像を描いた方がいい気がする。でも、その真っ直ぐな目で見つめられたら、NOという返事を返すことは出来なかった。
「……じゃあ、いつかな」
俺じゃ力不足じゃないか、と思ってしまうけど、断る理由もない。だから、そんな風に曖昧に約束を返した。
「うん」
ヨリは満足そうに頷く。
俺達二人の夏休みは、そんな約束から始まった。
その時は、その約束が、10年近く経とうとしても果たされることがなかった、なんて思わなかったけれど。
俺の目に入ってきたのはまるでプロが描いたような絵だった。ベルベットみたいな素材のテーブルクロスが敷かれた円形のテーブル。その上に瓶とかフルーツとかが置かれているのが描かれている。まるで、写真。いや、写真、というよりその机のある空間そのものを切り取ってはめ込んだみたいな絵。美術館に飾られていてもおかしくないくらいのレベルの絵だった。
「すごいな……」
溜息混じりにすごいな、を繰り返してしまった。俺は絵心とかもないに等しいし、絵に関しては全く詳しくない。姉ちゃんと妹と絵しりとりをやったら俺のだけあんまり上手くない、という感じだった。けど、この絵はなんだか別に思えた。すごく上手いし綺麗だし、そして、不思議な魅力を感じてしまう。
「ああ、それ僕が描いた」
絵をじっと眺めていたら、ヨリがそんなことをしれっと言った。まるで「今日のお昼ご飯のカレー、美味しかったよ」みたいな雰囲気で。
「え!? ヨリが!?」
ヨリの答えに俺はひどく驚いた声を上げてしまった。
「うん。練習用だけど」
「練習用……!? へえ、すっごいな……」
もう一度ヨリの描いた絵の方に視線を向ける。練習用、には見えない。本当に、このまま美術館に飾られてもおかしくないくらい。ポスターの絵はヨリが描いた、って言っていた気がする。確か、その時も上手いな、と思っていたけれど、ポスターの華やかな雰囲気とはまた違う、引き込まれるような絵だった。
「……ありがとう」
単調な声色のヨリだけど、その時の声は随分嬉しそうだった。絵の方に視線を向けていて、見ていなかったのが惜しい。
「ねえ、いつかりせをモデルに絵、描いてもいい?」
「俺? ありがたいけど、俺をモデルにして面白いか……?」
ヨリは俺に視線を向ける。ヨリをモデルに描いた方がいいんじゃないか、と思うくらいに綺麗な顔。嬉しくないわけではないけど、なんか、力不足じゃないかと思ってしまう。
「りせがいい。りせを描きたい」
けど、ヨリは視線を動かさない。真っ直ぐに俺の方を見ながらヨリは言う。やっぱり、ヨリが自画像を描いた方がいい気がする。でも、その真っ直ぐな目で見つめられたら、NOという返事を返すことは出来なかった。
「……じゃあ、いつかな」
俺じゃ力不足じゃないか、と思ってしまうけど、断る理由もない。だから、そんな風に曖昧に約束を返した。
「うん」
ヨリは満足そうに頷く。
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