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プロローグ
俺達の関係性
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俺、天原璃星(あまはらりせ)が「エキセントリック天才貴公子」とあだ名されていた同級生の北条頼臣(ほうじょうよりおみ)と始めて会話をしてから9年。もうすぐ10年。一緒に暮らし始めてからは半年。
俺達の関係性の名前をまだ付けられないまま、日々は過ぎていく。
朝七時三十分、会社に出かける準備を終え、俺はヨリの眠っている部屋へと向かう。元々俺の寝室だったはずのそこは既にヨリの寝室となっていて、俺は、リビングの床の上に布団を敷いて眠っている。広い方がいい、と思って、意味もないのに二人部屋を借りたから、特に不都合はないけれど。
ドアをノックして開ける。彼は布団をかぶったまま眠っている。辺りには遅くまで仕事してたんだろうな、っていう紙の残骸。ヨリは芸術関係の仕事をしているから。残骸は帰ってきてから確認して片づけよう。
「ヨリ、俺、仕事行くからな」
小さく声を掛けると彼が身じろぎをして起き上がった。そのままこちらの方に視線を向ける。綺麗な顔と身体つき。何もしてないのに、まるで彫像のような綺麗な姿をしている。
堀の深い顔立ち。すっとした切れ長の目に長いまつ毛。すらっと通った鼻筋。雑誌の表紙を飾ってもおかしくないくらいの美形。それに身体つきもしっかりしている。ジムとか行ってる、とかじゃないのに綺麗な身体してる。俺とこうして一緒の生活をする前からこの身体つきだった。
「……よ」
その綺麗な顔で俺の方をじっと見つめる。ぼんやりとした、どこか表情の読み取りにくい顔。おはよう、の「よ」だけが聞こえてくる。図体はデカいのになんかすごいう子どもみたいだ。
「おはよう」
思わず口角を上げながら俺は返す。
「朝ご飯はテーブルの上、昼ご飯は冷蔵庫の中に入ってるから。足りなかったら冷凍庫の冷食チンして。あとはホワイトボードに書いてあるから……」
小学生の母親か、みたいな言葉が出てしまう。こいつは放っておいたら食事は随分と適当になるし、部屋は散らかりっぱなしになる。生活力があまり高くはない。だから、小学生の母親みたいなことをやっている。
「りせ」
俺の言葉を遮るようにして、ヨリが俺の名前を呼ぶ。寝起きの響きが入った声が聞こえる。けれども、その視線は真っ直ぐだった。
「何?」
「りせのこと、大好きだよ」
なんの脈絡もなく突然言われた。随分と突飛だ。「エキセントリック天才貴公子」とあだ名されていただけある、突飛な発言。突飛なのに、表情の変わらない、美術室の神様の石膏像みたいな綺麗な顔で言われる。いつものこと。ヨリの突然の、脈絡のない告白なんていつものことなのに。真っ直ぐに俺の方を見るから、怖くなって、俺は少しだけ視線を逸らして答える。
「……朝からお熱い告白ありがとう」
俺、急いでるから。とやっぱり誤魔化すようにして部屋を出ようとする。急いでいたら、こんなに悠長にヨリと話していたりしない。
「りせ」
「何?」
「りせが思ってるよりもずっと、りせのことが好き」
「そっか。ありがとう」
視線を逸らしたまま、ヨリに背中を向ける。そして、「じゃ、仕事、行ってくる」と誤魔化すようにして、俺は部屋を出ていった。
そのままゴミ袋を二袋持って、部屋を出た。
俺とヨリの関係性。同級生以上、友達よりは上。恋人ではない。未満、まではいかない。名前の付けられない関係性を、俺達は保っている。
俺が、そこで止めている。
「りせのこと、大好きだよ」
その言葉が、少し、怖い。
俺達の関係性の名前をまだ付けられないまま、日々は過ぎていく。
朝七時三十分、会社に出かける準備を終え、俺はヨリの眠っている部屋へと向かう。元々俺の寝室だったはずのそこは既にヨリの寝室となっていて、俺は、リビングの床の上に布団を敷いて眠っている。広い方がいい、と思って、意味もないのに二人部屋を借りたから、特に不都合はないけれど。
ドアをノックして開ける。彼は布団をかぶったまま眠っている。辺りには遅くまで仕事してたんだろうな、っていう紙の残骸。ヨリは芸術関係の仕事をしているから。残骸は帰ってきてから確認して片づけよう。
「ヨリ、俺、仕事行くからな」
小さく声を掛けると彼が身じろぎをして起き上がった。そのままこちらの方に視線を向ける。綺麗な顔と身体つき。何もしてないのに、まるで彫像のような綺麗な姿をしている。
堀の深い顔立ち。すっとした切れ長の目に長いまつ毛。すらっと通った鼻筋。雑誌の表紙を飾ってもおかしくないくらいの美形。それに身体つきもしっかりしている。ジムとか行ってる、とかじゃないのに綺麗な身体してる。俺とこうして一緒の生活をする前からこの身体つきだった。
「……よ」
その綺麗な顔で俺の方をじっと見つめる。ぼんやりとした、どこか表情の読み取りにくい顔。おはよう、の「よ」だけが聞こえてくる。図体はデカいのになんかすごいう子どもみたいだ。
「おはよう」
思わず口角を上げながら俺は返す。
「朝ご飯はテーブルの上、昼ご飯は冷蔵庫の中に入ってるから。足りなかったら冷凍庫の冷食チンして。あとはホワイトボードに書いてあるから……」
小学生の母親か、みたいな言葉が出てしまう。こいつは放っておいたら食事は随分と適当になるし、部屋は散らかりっぱなしになる。生活力があまり高くはない。だから、小学生の母親みたいなことをやっている。
「りせ」
俺の言葉を遮るようにして、ヨリが俺の名前を呼ぶ。寝起きの響きが入った声が聞こえる。けれども、その視線は真っ直ぐだった。
「何?」
「りせのこと、大好きだよ」
なんの脈絡もなく突然言われた。随分と突飛だ。「エキセントリック天才貴公子」とあだ名されていただけある、突飛な発言。突飛なのに、表情の変わらない、美術室の神様の石膏像みたいな綺麗な顔で言われる。いつものこと。ヨリの突然の、脈絡のない告白なんていつものことなのに。真っ直ぐに俺の方を見るから、怖くなって、俺は少しだけ視線を逸らして答える。
「……朝からお熱い告白ありがとう」
俺、急いでるから。とやっぱり誤魔化すようにして部屋を出ようとする。急いでいたら、こんなに悠長にヨリと話していたりしない。
「りせ」
「何?」
「りせが思ってるよりもずっと、りせのことが好き」
「そっか。ありがとう」
視線を逸らしたまま、ヨリに背中を向ける。そして、「じゃ、仕事、行ってくる」と誤魔化すようにして、俺は部屋を出ていった。
そのままゴミ袋を二袋持って、部屋を出た。
俺とヨリの関係性。同級生以上、友達よりは上。恋人ではない。未満、まではいかない。名前の付けられない関係性を、俺達は保っている。
俺が、そこで止めている。
「りせのこと、大好きだよ」
その言葉が、少し、怖い。
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